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今日は教室の花瓶の水を入れ替える当番だから、いつもより早く家を出て、学校へと向かった。
同級生がいない通学路を通り、同級生がいない下駄箱で靴を履き替え、同級生がいない廊下を歩いた。
やはり新鮮な光景だ。いつもは騒がしい校舎内で友達とダラダラ喋りながら教室へ向かうが、今回は違う。本当に静かだ。聞こえるのは、外から聞こえるカラスの鳴き声。風の音。自分の足音。
いつもとは違う雰囲気を感じながら歩いていたら、いつの間にか教室の前までいた。
教室の扉を開けると先生がいた。しかし。僕が見た先生はいつもの先生とは少し様子が違った。
先生は複雑な構造をした装置のようなものを教卓の上に置き、その装置についているハンドルやボタンをいじくっていた。左手でハンドルを断続的にグルグルさせ。右手でカラフルな色をした大量のボタンをカチカチと押していた。まるで何かの仕事をしているかのように。
気にならずにはいられなくなり、先生に話しかけてみた。
「……………………。」
返事がない。よっぽど作業(?)に集中しているようだ。なので気付いてもらえるよう先生の肩を叩いた。
「うぉびっくりした!!!なにか用があるなら口で言ってくれよ…もぅ…」
言ったよ。言っても反応してくれないから肩を叩いたんだよ。
「こんな朝早くに何をしているんだい?」
「僕は花瓶の水かえの当番だから早く来たんですよ。先生こそ何してるんですか?教卓の上のでっかい装置で何をしているんですか?」
「あぁ…これか。」
先生は装置を持ち上げて微笑みながら口を開いた。
「先生はね、今地球を回しています‼」
え、何を言っているんだこの人は…念のためもう一度聞いてみた。すぐに先生は答えた。
「だからね、先生はこの装置で地球を回しているんです!!」
ついに先生がバグった。教師という仕事はストレスがたまる仕事と聞いたが。まさかここまでとは。僕は深くため息をついた。
「ははは!信じられないよね!!でもね、これは事実なんだよ。」
と言いながら先生は装置の説明をしだした。話だけでも聞いてあげるか。
「この装置は生物にに影響のない特殊な磁力を放出し、地球を回転させます。この特殊な磁力のおかげで地球は回っているんですよ。」
「先生、病院へ行ってください。」
「本当に信じられないのか…じゃあ証拠を見せてあげるよ。これやると上司に怒られるけどね。」
そう言って先生は装置のハンドルを全速力で回した。その瞬間。目の前が暗くなった。外を見ると月が浮かんでいた。これって夜になったってこと?さらに先生は続けて話した。
「はい、それでは朝に戻します。」
先生は再びハンドルを全速力で回した。途端にあたりが明るくなった。
これってもしかして本当に先生が地球を回しているってこと?僕は腰を抜かして地面に尻をつけた。頭の中が真っ白どころではなかった。言葉すら出ず、過呼吸になりながら先生を見つめた。
「そんなに驚くことないじゃないか。お茶でも飲んで落ち着きなさい。」
先生は僕の背中をなでながら温かいお茶を差し出した。先生に励まされながらお茶を飲んだら、少しだけ…いや、かなり落ち着いた。
さあ、詳しく聞かせてもらおうじゃないか。僕は先生に気になることを全て聞いた。お茶を飲んで潤った口が渇くくらい質問攻めをした。
「分かった分かった。それじゃあ特別に君だけに教えてあげよう。地球はずっと人間が回していたんだ。数千年前から、これまでも、これからも。この装置を引き継ぎ続けるんだ。バトンリレーのようにね。」
「自然に回ってるわけじゃないんですか?授業とは違うじゃないですか。授業では地球は塵が回転しながら生まれて。摩擦も空気抵抗もないから現在も回り続けているって教えたじゃないですか。」
「それはこの事実を隠すための出任せだよ。授業とはいえ何でもかんでも情報を鵜呑みにしてはダメだよ。」
「先生は嘘を教えたんですか?それに、どうして地球を装置で回していることを隠すんですか?」
「この仕事が楽すぎるからだよ。」
「楽…?」
「でかい装置を適当に操作するだけで時給10万円。そりゃそうさ、地球を回すという超重要なお仕事だからね。でも、そんなことを世間にバレてみろ。一気に地球を回す仕事に転職する人が現れるだろう。だからバレないようにしているんだよ。」
「じゃあ…何で先生は知っているんですか?」
「教師だからだよ。教師というものは非常に大変な仕事だ。平日は授業。休日はプリントなどの作成。教師は休みがほとんど無いんだ。だから仕事が過酷な教師にだけ、この仕事を知ることができるんだよ。」
「なるほど…あと先生、気になることがあって…」
「何でも聞いてよ。」
「授業のときは先生装置回してないじゃないですか。その時はどうするんですか?」
「僕だけが地球を回している訳ではない。世界中の教師たちがみんなこの装置を使っているんだよ。」
「そうですか。僕も教師になろうかな…」
「なるといい!君も大人になったら地球を回してみなさい。あ、今回のことは絶対に誰にも話すんじゃないよ。もし誰かに話したら成績全部1にするからね。先生とのお約束だ。」
「……わかりました。」
先生は装置を持って早足で職員室へ行ってしまった。
僕は花瓶の水を入れ替え、静かに自席についた。
その後、僕はいつものような一日を過ごした。いつものように授業を受け、いつものように友達と遊び、いつものように部活へ行った。
部活が終わり、体育館から出ると、空がオレンジ色になっていた。夕焼けだ。僕は見切れるくらい沈んだ太陽を見て、不思議な気持ちになった。