ちらちら見え隠れしているエバンガの巨大な鼻先にそっと手を沿わせながらラマスは嬉しそうな声で言う。
「エバンガ! アタシの手よ、判るぅ? 凄いわねコレ、お部屋の中と外なのに、まるで一緒にいるみたいだわ!」
エバンガも興奮気味な声で返す。
『判るわよ! 匂いがラマスだもの! うふふふ、ラマス、アナタがキープしたレイブ様は我々の想像を超えて遥かに賢い殿御(とのご)だったのではなくってぇ? 当たり、じゃないかしら? 発明家よ発明家っ! 彼の知性は人々や魔獣、竜種の生活を変えるかもしれないわよっ!』
「た、確かに…… 今まで外と家屋内のコミュニケーションに心を砕いたのみならず、これほどの発明を果たした知的生命体などレイブ叔父様以外には存在しなかった筈…… そうかっ! 当たったかぁ!」
ふぅ、この言葉、エジソンやテスラが聞いたらなんと言うのやら…… 幾ら無知な時代に生きている生き物だとは言え、グーで殴られる位では済まない事だろうな……
とは言え、グーテンベルクもコペルニクスもアークライトも知ったこっちゃ無い、未来に生きる魔獣であるトナカイ、エバンガは鼻だけを小屋の内部に突っ込んだ状態で更に言葉を続けるのだった。
『そうよ、当たりよ当たりっ、大当たりですわ! 実はアタシ、先程の結婚しよう発言の辺りから思っていましたんですのよぉ? あの馬鹿みたいに強引な突破力、若しかしたら凡百のニンゲンには持ち得ない――――』
『ギギョエェェェーッ! ギッ……』
『えっ! な、何っ、一体何ですのっ?』
『ピビギュワァァァァーッ! ビギャア…… ピヒィ……』
『…………』
「い、今のって…… モンスターの声だったんじゃあ? そ、それに、何と無くだけど断末魔っぽかったような気がぁ…… えっとぉ……」
戦慄の表情を浮かべているラマスに答えるのは、エバンガに代わって壁の下方からひょっこり顔を覗かせたペトラの声である。
『正解よ、最初のがダークウルフで続いたのが、フォレストベアかな? あれ? 違うかな? どう、ギレスラお兄ちゃん?』
「え……」
ギレスラはカタボラを背中に乗せてあやしながら気楽な感じで答える。
『あれはキラーベアかマッドベアだな、気にするなよペトラ、どちらにせよ我等にとっての敵ではないからな、只の餌、餌に過ぎないのだからなぁ』
『そうだね、今日はウルフとベアのブレンドか、豪勢じゃないのぉ! あたし結構好きかもぉっ、ってか大好物だしぃっ! 今夜はまだまだキープ記念の晩餐、お祝いが続くんだねぇ! うわあぁ、嬉しいねぇ、あはははぁっ!』
『うむ、レイブもいつに無く大盤振る舞いする気のようだぞ、ふふっ愉快だな、ふふふふ、クハハハァッ!』
「えぇっ! え? えっ? えええぇ…………」
ラマスの声になっていそうでなっていない言葉に構う事無く、ギレスラは爬虫類独特の感情を乗せない虹彩をギラつかせ、壁から顔の半分ほどを覗かせたペトラは紅潮した鼻先から激しい呼吸音を響かせるのであった。






