「香月〜次の実験、教室変更だって〜」
「ありがとう」
2年生になると実験の授業が増えてきた。
忙しい毎日を送りながらも湊ととの生活にシンは幸せを感じていた。
白衣を纏い変更になった教室へ急ぐ途中、携帯が鳴った。
明日香からだ。
怪訝そうに電話にでる。
「なんだよ英。今から授業始まんだよ忙しいから切るぞ」
「シン!大変だ!」
明日香の声に何かを察した。
「どうした?なにかあったのか?」
「アキラさんが…アキラさんが…」
後ろで柊の声がする。
《明日香、落ち着いて。きちんと説明しないと慎太郎に伝わらない。貸して。》
柊は冷静だった。
「柊くんに代わる…」
「もしもし、慎太郎?晃くんが事故にあった。今、明日香と◯◯病院向かってる。慎太郎も授業終わったら…」
柊が最後まで言い終わる前にシンは走り出していた。
湊さんが事故…?
頭の中が真っ白になった。
廊下を抜けて校舎の外に出ると全速力で走った。
「香月〜!?」
同級生の呼ぶ声も今のシンには聞こえていない。
ただ……ただひたすら走って湊の元へと急いだ。
途中、何度も転びそうになりながらやっと着いた先に明日香と柊が待っていた。
「シン!」
「慎太郎」
息を切らしながらシンは
「湊さんは!」
「こっち!」
明日香が湊の元へと案内する。
着いた先は集中治療室だった。
一足先に着いていた桜子が立ち上がる。
「シン兄!」
シンの元へ駆け寄って涙を流す。
「湊さんの様態は!」
焦る気持ちを抑えきれず、つい大きな声を出してしまった。
「とりあえず命に別状は無いってお医者さんは言ってた。けど…」
柊が答えた。
「けど…?」
シンが聞き返す。
「目を覚ますかどうか…」
柊が続けた。
「まだ、なんとも言えないらしい」
シンは目を大きく見開く。
「目を覚まさないかもしれないってどういう事ですか!」
「まずは落ち着こう」
柊はなだめるようにシンの肩を優しく叩く。
「目覚めるに決まってるじゃん。アキラさんなら…絶対…」
明日香が力なく呟く。
「どーして英なんかにわかるんだよ!目が覚めなかったら?ずっと……ずっとこのままだったら!」
「俺だってわっかんないよ!」
「わかんねーくせに、絶対なんて軽く口にすんな!」
シンの迫力に明日香は尻込む。
「シン…ごめん」
柊は2人の間に立ち、シンに向かい
「不安な気持ちはわかるよ、慎太郎。だけどここで明日香に当たっても状況は変わらない。まずは冷静になって考えよう」
「考えたって一緒でしょう!」
「慎太郎」
「すみません。柊さんにまで当たってしまって…」
シンは大きく深呼吸をした。
落ち着け…落ち着け…呪文の様に心の中で繰り返す。
ガラスの向こうに置かれたベッドに目をやると、そこには行くもの線に繋がれ顔中痛々しい傷跡と足に巻かれた包帯姿の湊が眠っている。
『大丈夫…息はしてる…』
遠目からでも、しっかりと呼吸が出来ている事を確認出来た。
少し落ち着きを取り戻したシンは安堵からか、全速力で走ってきたからなのか…よろめいてしまった。
「大丈夫か?シン」
心配そうに明日香が見つめる。
「悪かったな。英…」
明日香が黙って首を横に振る。
「明後日の検査で問題なければ一般病棟に移れるらしいって先生が…」
柊が告げると。
ずっと心配そうに見つめていた桜子が口を開いた。
「シン兄…大丈夫…?」
「ありがとな。桜子…」
無理やり見せるシンの笑顔が桜子には辛かった…
「今日はとりあえず一旦帰ろう。ここで待っていても仕方がない」
柊が提案する。
が、
「俺はここに残ります」
そう言ったシンの顔は真剣だった。
「晃くんの着替えや入院の準備しなくていいの?」
「…」
意地でもこの場を離れそうにないシンを見て、
「準備なら俺がして持ってくるよ。家の鍵貸して。シン」
明日香が手を差し出す。
ポケットから鍵を取り出すと明日香に渡した。
「ありがとな。英…」
「シンからお礼言われるとか怖いわ。 笑」
少しでもシンの気持ちを和ませたかったが上手く言葉にできなかった。
「じゃ、一度俺達は帰るけど…」
コクンと頷いたシンの瞳の先には眠ったままの湊がいた。
続く…
【あとがき】
祝!シンちゃん登場!
って、今回の主役ですからね~
やっと出れた。おっせっ〜よ水萌。
って、シンに怒られそうです(笑)
君はこれから出ずっぱりになるから安心しなさい。
って事で。
またまた読んでいただき、ありがとうございました😊
また次回もお付き合い頂けると幸いです✨
水萌