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『殺戮…マシン…か。そうかも知れない。』
”殺戮マシン”、”殺戮の権化”なんて言葉何回も言われた。
聞き飽きた。
「そのままでも良いのか?」
『そのまま……?』
そのままって何だろう。ボスに従ってる事?人を殺し続ける環境にいること?
”そのまま”が分からない私には、知る術はない。
任務の失敗は許されない。そのために、要らない情報は頭に入れない。
「その感情のない顔で、人を殺し続ける駒で良いのかよ。」
『……….自分を理解できるなら、それで良い。』
「……そうかよッ。」
『…もう、処刑の時間。さよなら。』
「待て。最後に一言言わせてくれ。」
『何。』
「お前にとっちゃ下らないかもしれねぇが、一度きりの人生だ。少しくらい好きに生きても良いんじゃねぇか?」
私は何も答えずに首を切った。情報は得られなかったが、あそこまで痛めつけて喋らないなら、本当に知らないんだろう。
…….”一度きりの”人生、か。
『少しくらい…好きに、生きる……。』
男が最期に云った言葉を反芻する。
今の場所は好きか。この仕事は好きか。自分が好きか。…分からない。
自問自答をしたが、直ぐに如何でもいいと打ち消した。
『……あんなに自然に会話したのは初めて…』
「あら、サユキ。」
『!ミツキ様。』
五大幹部の一人、最古参のミツキ。高圧的で好きじゃない。
でも、ミツキ様は忙しい筈…何故此処に……
「貴方……真逆、さっきの男の言葉を真に受けてないでしょうね?」
『!……』
”また”、選択肢を与えない。だから、この人は好きじゃない。
選択肢を与えられる立場なのに、そうしない。
「一寸、聞いてるの?」
『ぃ、いえ。そんな事はありません。ただの処刑相手ですから。』
「…そう。なら良いけど…もしボスに仇なすようなら、容赦なく叩きのめすから。」
『重々承知しています。』
「フンッ!」
……やっと行った。何で私にだけあたりが強いんだろう。
失礼なことをした覚えはないのに。
ミツキ様は最古参だから、私が此処に入った時からいる。
幼少期もあんな感じだった。
__幼少期
『こんにちは。ボス。』
「君があの一族の末裔かい?」
『そうです。』
「名前は?」
『じょうがさきサユキです。齢は七つです。』
「そうかいそうかい。じゃあ、確り働いてもらうよ。」
『はい。』
「ボス。いくら末裔とは言え、少女を入れるのは…」
「私の意見に反対かね?」
「…いえ、決してそのような事はありません。」
思い返えば、あの時、ミツキ様が私をにらんでいたような気がする。
……子供がボス直々に此処に入ったのが気に入らなかったのかな。
…意外と器の小さいお方だ。←失礼
__自宅
『…ただいま。』
私の部屋には誰もいない。
父様と母様もいない。多分、ボスが殺した。
物心ついた時から此処に一人だったから、特に思い入れもない。
愛されていた覚えもない。冷たい人間に育ってしまった。
でも、黒社会では温かさ、なんていらない。
人の心を考えた方が先に死ぬ。小さい時からそれが常識だった。
今更変えようとは思わない。
『好きに…生きる……』
また、あの言葉を反芻する。
この人を殺し続ける場所は好きか。自分は好きか。
この仕事は好きか。
……….嫌いかもしれない。
好き、って肯定したら、人間ではなくなる気がした。
自分を理解できるから、なんてただの建前だったかもしれない。
組織から抜け出して、それから……
___何処に?光に私の居場所はあるの?
行く宛もなく一人で…….
でも、一人はずっと前から。
___光に行って何がしたいの?
償い…懺悔…理由は”見つからない”。
でも、私の心の中は決まっていた。
__朝
自分が決めた事、それは何が何でも遂行する。
初めて自分で決断した。曲げたくない。
「幹部如何しました?急に全員招集なんて……」
ずっと年下の私になんの疑問を抱かず、ついて来てくれた人たち。
貴方達は悪くない。だから、
『……御免なさい。』
私は小さく呟いた後に素早く短剣を振るった。
直前まで何が起きたか分からない部下達は、私を攻撃しようとも、銃で殺そうともしてこなかった。
ただ、
「幹部!落ち着いてください!私たちが居ますから!」
と叫んでくれる。
御免なさい。これは、気の振れじゃないの。
私の計画の遂行の為に殺さなくてはならないから。
貴方達は何も悪くない。悪くないの。
ただ、邪魔だった、たったそれだけ。
取り押さえようとしていた部下たちも何時の間にか居なくなっていた。
皆、床に倒れている。鮮血が絨毯を赤黒く染める。
私は遺体に手を合わせて、
『御免なさい。さようなら。』
独り言のように呟いて荷物を背負って、窓を開けた。
『……今まで、ありがとう。』
そう言って、20階の窓から飛び降りた。
身体能力が高いのは私の取柄だった。
だから、20階から飛び降りたくらいじゃ何ともない。
『….っと。』
ビルの壁面を伝って危なげなく地面に着地した。
其処には、何時も居る黒服たちが居た。
「幹部!大丈夫ですか?今、上から落ちてこられて….」
『……悪いわね。』
何時も警戒を怠らない黒服達にできた一瞬の隙をついた。
一瞬で5人ほどが倒れた。
確実にとどめは刺した。せめて、苦しまずに逝かせてあげたい。
だから、ごめん。
私は足早にその場を去った。