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天野 夢縁
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大正
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要 九十九
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コメント
1件
読んだよ……!第29話、めっちゃ熱かった💔❤️🔥 シャーロットの“水素充満”って戦術、一見完璧なのに、クロードが酸素を根こそぎ奪う一手で全部ひっくり返すところ、痺れた……。 「爆破は化学反応であり、物理現象だ」って台詞、冷静すぎてカッコよすぎるよ。 しかも最後にルシアンと目を合わせるシーンで、空気が一瞬で変わる感じがたまらなかった。次がヤバそうで、もう震えてる。
「――ッ!」
開戦の鐘が鳴り響いた瞬間、俺の視界からシャーロットの姿が消失した。
爆音も、巨大な火柱もない。
聞こえたのは、パンッ、と乾いた拳銃の空砲のような極小の破裂音だけだ。
(ド派手な広域爆破はナシ、か……!)
シャーロットは自身の足元や関節の背後に「極小密度の爆縮」を連続発生させ、その指向性爆破の推進力で、音速に近い機動力を生み出していた。カミラの岩石鎧やエレナの生体電流とはまた違う、物理的な「爆圧加速」。
さらにあいつは、リングの空気中に含まれる微細な水分に魔力を干渉させ、瞬間加熱による『水蒸気爆発』を俺の死角で小刻みに連鎖発生させてくる。
バババババンッ!!
「っ……!」
目に見えない圧力波と高熱の水蒸気が、俺の外套を焼き、皮膚を浅く切り裂く。
大雑把な広範囲爆破なら減圧ガスや時間干渉で隙を作れたが、このように点と線の無数の小爆発で連続接近されると、回避のスペースどころか息をする隙間すら削られていく。
「どうしたのクロード! 冷めた顔が台無しよ!」
背後から迫るシャーロットの蹴り。その足裏で水蒸気爆発が跳ね、威力が数倍に跳ね上がる。
俺はコンマ01秒の『局所遅延(ディレイ)』でかろうじて首筋への直撃を逸らしたが、爆風の余波で数メートル吹き飛ばされ、リングの石床を滑った。
観客席がどよめく。
『すげえ! シャーロット様、ド派手な大技を使わずにクロードを追い詰めてるぞ!』
『あのハーフの小細工が一切追いついてねぇ!』
「ハッ……ハッ……」
口の端から垂れる血を袖で雑に拭い、俺は立ち上がった。
シャーロットは少し離れた位置で不敵に唇を歪め、両手を広げている。
「気づいたかしら? 私の本当の怖さは、大技の派手さじゃない……『爆破の概念』そのものを支配していることよ」
シャーロットの周囲の空気、いや、リング全体の空間が怪しく揺らぎ始めた。
あいつは空気中の水分を水蒸気爆発で分解し、目に見えない**『水素』をリング全体に高密度で充満させていたのだ。
「もう逃げ場はないわ、クロード。この空間で貴方が少しでも火花(摩擦)を起こせば……あるいは私が指を一本鳴らせば、空間全体が連鎖水素爆発を起こして、貴方の肺も肉体も内側から粉々になる!」
シャーロットは甘い笑みを浮かべ、指を鳴らす仕草を作った。
「降参しなさい。私の『全て』をあげるって言ったでしょう? 死んじゃったら台無しじゃない」
絶体絶命。
水素で満たされたリング。指一本で即死の連鎖爆発。
観客たちも胴元たちも、誰もが俺の「完全な詰み」を確信した瞬間だった。
だが——俺はフードの影で、冷酷に口角を上げた。
「……感謝するよ、シャーロット」
「え……?」
「お前が『空気中の水素濃度』を極限まで高めてくれたおかげで……ハンスから仕入れたこの兵器の威力が、理論値の三倍以上に跳ね上がる」
俺は外套の下から、小さな筒状の特殊不完全燃焼弾(真空消火手榴弾)を二個、足元へ落とした。
「なっ……何をする気――」
「水素爆発の原理はシンプルだ。水素と、酸素と、火種。だが……」
俺は無造作に消音拳銃を引き抜き、足元の弾頭へ向けて引き金を引いた。
パンッ!
破裂した特殊弾頭から放出されたのは、超高密度の「不活性フッ化炭素ガス(強圧酸素遮断剤)」。
「——酸素がゼロになれば、どれほど水素があろうと爆発は起きない」
瞬間、リング全体の酸素が急速に強圧奪取され、真の「不完全燃焼空間(真空域)」が形成された。
パチン、とシャーロットが鳴らした指先から生じたはずの火種は、爆発を起こすことすらできず、虚しく立ち消えた。
「な……爆発が……起きない……!? 空気が……息が……っ!?」
急速な酸素欠乏と気圧変化に、シャーロットの顔から余裕が消え、酸素を求めて喉をかき抱きながらその場に崩れ落ちた。高機動を支えていた足元の爆縮すら、酸素がないため発動しない。
「言っただろ。爆破は化学反応であり、物理現象だ」
俺は酸欠で膝をついたシャーロットの喉元へ、静かに冷たい消音拳銃の銃口を突きつけた。
「水素を溜め込んだのはお前の『機策』だったが……それが自分の酸素を奪う罠になるとは思わなかったのか?」
「っ……く……は……ッ」
「……勝負ありだ」
破裂させた液体酸素カプセルをシャーロットの顔元へ放り投げて呼吸を確保してやり、俺はそのまま審判の宣言を待たずに背を向けた。
「……勝者、クロード・ヴァルネぇぇぇぇッ!!」
狂乱と困惑の怒号が響き渡るコロシアム。
95倍のオッズを再び叩き潰した俺は、ポケットの中の莫大な換金手形の重みを確かめながら、不快そうに視線を上空へと向けた。
ロイヤルボックスの最上階。
そこには、全身から殺意の炎を立ち昇らせ、俺を「絶対の宿敵」として見下ろすルシアンの姿があった。
「……待たせたな、ルシアン」
俺は静かに愛用の拳銃をホルスターへ戻し、決勝戦という名の「殺し合い」へ向けて、静かに地下通路へと消えていった。