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「ひぐっ! ……うっ……」
ムツキに怒鳴られたユウはあまりの驚きに黙った。彼が子どもの頃はともかくとして、大人と呼ばれる年頃を越えてから彼が怒鳴ったのも初めてであれば、ユウの言動に対して真剣に怒鳴ったのも今日が生まれて初めてだった。
「あっ……」
ムツキはしないと誓っていた怒鳴るという行為をうっかりしてしまう。ナジュミネに言われ、自分の中で決意していたものの、だって、だって、と言い訳ばかりが続いたので、怒りが頂点に達してしまったのだ。
「わああああああん! ごべんばざーい(ごめんなさい)!」
ユウは大きな口を開けて、大粒の涙をボロボロと零し始める。言葉も大泣きしながらのため、きちんと言えていない。こんな彼女が創世神と言われて、誰が信じるだろうか。
「わあああああああああああああああん! わああああああああああん!」
ユウにとって、ムツキにここまで怒鳴られることは世界の終わりに匹敵するものだった。
「あぁ……すまん、怒鳴るのは良くなかったな……ごめんな……」
ムツキも怒鳴ってしまったことでバツ悪い表情になり、謝り始める。彼女は少し彼の態度が軟化したことで落ち着きを取り戻し始めた。
「ぐずっ……ごべんばざい(ごめんなさい)……ぼぅじまじぇん(もうしません)……ぐすっ……だがらぁ……だがらぁ……ぎらぁいに(嫌いに)……ならなぃで……ぐずっ……おねがいだがら……ぐすっ……ぎらいにならなぃで……ぐすっ……すんっ……すんっ……ムツキに……嫌われたらぁ……私……生きて……いけないよぅ……」
ユウはムツキに抱き着きながら、イヤイヤと言わんばかりに首を横に振る。
「嫌わないよ。というか、俺は好きとか嫌いとかで誰かをコントロールしたくない。だから、そういう言い方をしないでくれ。そういう風に思われていると思うと、悲しくなってしまう」
ムツキはユウの頭をポンポンと優しく叩く。彼が涙を目じりに少しばかり浮かべる。
「すんっ……うん……ごめん……すんっ……」
ユウが落ち着きを取り戻し始め、鼻をすする音も少しずつ減ってきていた。
「ちゃんと謝れるか? サラフェだけじゃないぞ? 今回の件で全員に迷惑を掛けたんだからな?」
コイハやメイリはケガをした。サラフェは結果的に怠惰な生活が送れるようになるものの、本来望んでいない運命へと引き寄せられた。キルバギリーはサラフェの豹変に困惑した。ナジュミネとリゥパはフォローに入り、今、いろいろとがんばっている。
1つのことを変えるだけで、いろいろな変化が起きる。
「うん。全員に謝る……。ムツキは許してくれる?」
正直な話、ユウはムツキが許してくれれば、ほかはそこまで重要ではなかった。逆に言えば、彼が許してくれるためならば、彼女は何でもするだろう。
「まず俺は許すよ。でも、ちゃんと皆からも許してもらうんだぞ?」
「うん。ちゃんと謝る」
「いい子だ。よしよし」
「えへへー」
ムツキはユウがいい返事をするので、笑顔で彼女の頭を撫でる。彼女はそれが嬉しくて、泣き顔があっという間に笑顔に変わった。そこへケットが恐る恐る近付いて話しかけてくる。
「お、終わったニャ?」
「あぁ、ケット、すまないな。今、俺とユウは仲直りをしたところだ」
ケットはムツキの言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。
「よかったニャ……この世の終わりが来たのかと思ったニャ……」
「そんな大げさな」
「そうだよね、ケトちん大げさだなあ」
ケットの心配をよそに、ムツキとユウが笑顔で笑い始めるので、ケットは毛を逆立てて2本の尻尾をピンと立て始める。
「ニャに? 今、ニャんて言ったかニャ?」
ケットがふるふると震えているので、ムツキとユウは恐る恐る話しかける。
「ケ、ケット……さん……?」
「ケトちん……?」
「大げさじゃニャいニャ! ご主人とユウ様がもし、お互いに怒りに任せて喧嘩ニャんかしたら、間違いニャく世界が終わるニャ! それを……それを……そんニャ心配させといてそんニャ言い草はニャいニャ! 今度はオイラが怒りたくニャってきたニャ! いや、もう怒ったニャ! 2人とも朝ごはん抜きにするニャ!」
ケットの頭から湯気が出ているのが見えるようだった。怒り心頭といった感じのケットをムツキもユウも初めて見た。
「ごめんなさい……お腹が空いているので、朝飯抜きはどうか許してください……」
「ごめんなさい……私もお腹空いたの……ケットにも迷惑かけてごめんなさい……」
「もう! ぷんぷんニャ! もっと反省してもいいと思うニャ! もう!」
その後、ケットに平謝りをして、なんとか朝ごはん抜きの刑を回避するムツキとユウだった。