みんなとの連絡を絶ってからだいぶ経ちそうな頃。今日は久しぶりに登庁しようと警察庁の駐車場で車から降りた。
「セリ」
「…ゼロ」
そこにはゼロがいた。
「久しぶりだな」
「久しぶりー」
会話しながら警察庁へ足を進める。
「みんな心配してるぞ。返事よこさないし、飲み会には来ないし」
「ごめん。仕事が忙しいんだわ」
「そういうことにしといてやる」
「あはは…」
「明日の昼、暇か」
「今の所は」
「よし、言質取ったからな」
「え、何」
「明日昼みんなで集まるんだ。既読は付けてるんだ、知ってるだろ?」
「ああ、うん。萩原の姉の友人の結婚式が夕方からあるとかで休暇だから昼から集まらないかって話してたよね」
「セリも参加な」
「え」
「さっき暇だと言っただろ?」
「言ったけど」
「久しぶりに顔を見せてくれ。俺も含めてみんな心配なんだ」
「…分かったよ。久しぶりに私も休暇取るか」
「良かった…明日待ってる」
「うん。じゃ、お互い頑張って今日を乗り切ろうね」
「ああ」
こうしてゼロと別れた。
次の日。
「ほんとにセリ来るんだろうな」
「昨日来るって言ってたよ」
「それに、こんだけみんなでラインしてるんだし、流石に来るんじゃない?」
ガラガラガラ
『おっす』
「「「「「セリ!」」」」」
『みんな元気そう』
「今まで何してたんだよ!」
「連絡寄越さないで!」
「心配してたんだからね!」
「元気そうで良かったぜ」
「昨日振りだな」
『いやー、ごめんね。忙しかったもんで』
「色々聞かせてもらうかんな」
『勘弁して』
「取り敢えず、セリも烏龍茶でいい?」
『みんな、飲んでないの?』
「昼から飲めねえだろ」
『それもそうね。私も烏龍で』
「で?この2年間何してたんだ?」
『仕事ー』
「セリちゃんの部署って何処?聞いたことなかったよね」
『公安です』
「公安でも色々あんじゃないか。俺は警備企画課。他にも公安課とかあるだろ?」
『じゃあそこで』
「絶対違うだろ」
『ところで松田、捜一に移ったんでしょ?どうよ居心地は』
「あ?あー、まあまあってとこかねえ」
「俺も来月から警視庁に配属が決まったから、下手うって追い出されないでくれよ、先輩!」
「バーカ、刑事としてはお前の方が先輩だろうがよ」
『松田刑事と伊達刑事かー。いいね』
久しぶりにワイワイ楽しんだ。
「じゃ、俺行くねー」
萩原がタクシーに乗り込み、予定へ向かう。
『じゃあね萩原』
「じゃあねセリちゃん、また集まろうね」
「ああ、そうね」
私達は二手に分かれて帰ることになった。私と松田はゼロに送ってもらう。
「渋谷駅で下ろしてくれ。後は1人で帰るから」
『私駅手前で』
「松田には悪いが送るのはセリと同じ駅の手前までだ」
「そういやお前ら、諸伏と同じく、人目についちゃあいけねえ立場だったな」
ゼロが何かを見ている。視線の先には雑居ビルの前にパトカーが一台停まっていた。
「どうやら仕事のようだな、刑事さん」
「ったく、なんて日だ!」
『頑張れ刑事さん!』
「お前らもだろーが!」
松田と私は現場へ、ゼロは近くに車を停めに行った。
警官達に警察手帳を見せた松田。警官達が敬礼する。
「どうかしたのか?」
松田が聞くと警官が答える。
「はい。この雑居ビルに誰かが入り込んで暴れていると通報があったのですが…ただ、所有者の許可もなく立ち入るのもどうかと思い…なあ?」
もう1人の警官が頷く。
私と松田は2人を押し退けて中に入って行く。
「いいんですか!?」
「大丈夫、任せて」
遅れてゼロの登場だ。
「2人共、もう少し愛想良くしたらどうだ?」
『愛想良くする必要ないし』
「それな」
「はあ…」
中は荒れ果てていて、ゼロが班長とヒロを応援に呼ぶ。階段を上がり扉を開けると、配管パイプに両手を繋がれた男が座り込んでいた。
『意識ないな』
「日本人じゃねえな」
「大丈夫か?」
ゼロが男の肩を叩く。頭から血を流した男は目を覚ましたが私たちを見てハッと息を呑み、怯える。
「落ち着け。俺達は刑事だ。刑事だ。け、い、じ!分かるか?」
松田は警察手帳を出し大きな声でそう言う。男は私達が敵でないと気付いたのか、少し安堵しまた険しい顔つきになる。
「бегите!」
「ん?」
『ロシア語。逃げろって』
「先に降りてろ。警察に止められたら、この名刺を見せるんだ」
ゼロが周りに落ちているガラスの破片て男の拘束を切りながら、松田の日本語をロシア語に訳す。
「Спустись первым. Если полиция остановит меня, я покажу вам визитку.」
その時、隣の部屋からガコンと大きな音がし、立て続けにゴトッ、ガツッと音がする。
「まだお客さんがいるみたいだな」
男は立ち上がった。
「Я сбегу!」
そう言って逃げていった。隣の部屋にいるのは気配からして非術師。私は上着の下から拳銃を抜いた。ゼロも同様に拳銃を抜く。
「流石、何でも持ってやがるな、公安は」
私とゼロは拳銃を構え、ゼロが扉を蹴り開けた。
「動くな!」
銃を構える。そこにはペストマスクをした人が1人。
『松田、あれ、まずくね?』
「ああ」
「何だ」
「後ろにあるのは爆弾だ。下手に撃ったらドカンの可能性がある。あの大きさだと、このビルに居たらまずお陀仏だ」
「…止められるか?」
「止められないとでも?」
『よ!爆処元エース』
「呑気かよ」
「頼んだよ」
その時、ペストマスクの人物の下ろした右腕から、するりと拳銃が出てきて即座に発砲する。私は2人を後ろに引っ張る。
「「助かった」」
『はいよ』
ひとしきり銃声がおさまると駆ける足音と扉が開く音。
「待て!」
ゼロが部屋に入ったが、ペストマスクの姿はない。
「僕とセリで奴を追う。松田は早く爆弾を!」
「ああ、そっちこそ頼むぜ」
私とゼロは走って奴を追う。非常階段を駆け上がると上からドアがゼロ目がけて降って来る。私はゼロをこっちに引っ張り、ドアを避ける。
「助かった」
『はいよ』
「中へ逃げた…?」
ペストマスクはビルの中へ逃げる。後を追うと下に降りたようだ。
「下に降りた…」
『やっばいよゼロ!狙いは松田だ』
私達は急いで後を追う。
そこには車のドアを持った班長と回し蹴りを喰らわせ、その反動でペストマスクが落とした拳銃を素早く構えたヒロがいた。
「すまん、助かった!」
遅れて私とゼロも拳銃を構える。
「奴がぶっ壊した車のドアを持ってきて正解だったな」
ペストマスクはまた逃げ出した。ヒロが発砲したが当たらず。
「待て!」
ヒロと班長が後を追う。ペストマスクフック付きのワイヤーを腕から出し、非常階段から隣のビルへ飛び移る。ヒロが捕まえようとしたが逃げられてしまう。
「2人共避けろ!」
ゼロが拳銃を構えている。
「逃がさないよ」
ゼロが撃った弾はワイヤーを撃ち抜いた。が、ペストマスクは隣のビルに着いてしまう。
「班長!頼む!!」
ゼロは班長に向かって走り出した。
「まじかよ!」
班長はゼロを飛ばす。
「セリ!ヒロ!班長!まだこいつの仲間が潜んでいるかもしれない!松田を頼む!」
「お、おう!お前も気をつけろよ!」
『私、ゼロの援護に回る。ゼロ1人で相手するにはきついと思う』
「じゃあ俺も行くよ」
「…おう、じゃあ頼むぞ!」
ヒロと私はゼロの元へ、班長は松田の元へ向かう。
向かった先には倒れたゼロとゼロに拳銃を向けるペストマスク。ヒロが発砲し拳銃を握っていた肩に命中する。
『ゼロ!』
「無事か!?」
「ひ、ヒロ…セリ…」
ペストマスクは逃げ出す。私はペストマスクに発砲する。弾がペストマスクの足に当たったが逃げてしまう。
「くそっ!」
ヒロが追いかけようとするが、ゼロが止める。
「待て、ヒロ!奴は手負いだ。後は応援に任せよう」
「大丈夫か?ゼロ」
「ああ、助かったよ。ヒロ」
「セリに足も打たれたのにあの動き、只者じゃないね」
『松田のところに戻ろうか』
私とヒロはゼロを支えながら松田の元へ戻る。
『ごめん。捕まえらんなかった』
「大丈夫か、ゼロ!?」
「心配ない。状況は?」
「こっちもあんまり良くねえな。ここは俺に任せて周辺の人達を避難させてくれ」
「で、でも…」
「いいから行け。後3分だ。ガス漏れとか適当な理由で、このビルの周りから避難させろ」
『分かった。行くよヒロ、ゼロ』
「班長もだ」
「チッ。分かったよ」
「松田。下で待ってるから」
「…約束は出来ねえな」
私達は周辺の人間を避難させた。私が松田と残って無下限で守った方が良かったかな。でも、松田ならやれるだろう。暫くすると松田が降りてきた。私達は手を挙げハイタッチをする。子気味良い音が響いた。
『松田ならやれると思ってたよ』
「ちょっと危なかったがな」
♪♪
私のスマホが鳴る。偽名の方だ。
『ちょっとごめん』
私はみんなから離れて電話に出る。
《hi、マイアミ》
『何、ベルモット』
《仕事よ》
『りょーかい』
仕事の話をいくつかして電話を切る。
『みんなごめん、仕事入った。先帰るね。後よろしく』
「ああ、五条もお疲れ」
『うん、じゃあね』
こうして久しぶりのみんなとの飲みは終わった。
コメント
1件
あれ?これ松田そろそろ居なくなるタイプくね