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短編

1 - 君色に染ったあの夕焼けは

♥

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2022年10月20日

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「はぁ……」

「どうしたの?」

「暇だなぁって思ってたんだ」

「そんなことでため息をついちゃうと幸せが逃げちゃうぞ。優一」

前田優一の前で微笑む髪の長い綺麗な顔をした女は、紛れもない優一の交際相手の立花美奈だった。真夏の正午。部活もバイトもしてない2人は休日に美奈の家でくつろいでいた。

「どうする?何かする?」

「うーん」と悩みながら優一は美奈に向かって提案をした。

「アイス買いに行かない?」

「え・・・やっと思いついた!みたいな顔しといてそんなことなの?」

「ダメ?」

「ま、いいよ。コンビニも近いし」

「おぉ、何買うか決めておかないとな」

「近いんだからそんな急ぐ必要ないでしょ。コンビニの中だって空調は聞いてるだろうし。生憎とこのお家はクーラーさんが怠けているおかげで空調最悪だけどね〜」

そんな最もなことを言いながら、美奈は2階へ上がろうとした。

「どこ行くの?」

「準備するのよ。だからそこでくつろいで待ってて」

「分かった」

美奈が階段を上がろうとした時、優一は美奈がふらついたのに気づいた。思わず優一は美奈に「大丈夫?」と声をかけた。それに対し美奈は

「大丈夫だよ。ちょっとつまづいただけ」「それならいいんだ」

にしても暑い。クーラーが故障を起こしているらしいから仕方の無い事なのだろうが・・・

「よーし、お待たせぇ」

明るい声と共に手を振りながら美奈が一階へと降りてきた。

「よし、じゃあ行こうか」

「うん、そうだね」

暑い街中を歩く中、優一はふと考え込む。

(こうやって隣を歩いて、一緒に話して、一緒に笑って、一緒に同じ時間を美奈と過ごしていく。これが幸せなんだ。)

(こんな幸せがいつまでも続けばいいな。)

コンビニに着いて、自動ドアを通り2人は迷うことなくアイス売り場へと向かった。

「あぁーー涼しいーー!」

「ね、うちの家とはまるで違うよ」

その時、優一の腹辺りがグルグルという音を鳴らした。

「ごめん、ちょっとトイレに行ってくる。決めたら先外で食べちゃっていいよ」

「言われなくても、そうしまーす」

優一は足早にトイレへと駆け込んだ。

店に戻って携帯を確認すると、美奈から外暑いから先家に戻っているという旨の事が知らされていた。

そう決めてアイスを選ぶ優一に外の騒がしさなど到底聞くことは出来なかった。


アイスを買って店を出ると、初めてそこで外が騒がしいことに気づいた。

「なんだろう?」

気になって駆け足で向かうとそこには・・・

血だらけの美奈が倒れていて、そのすぐ後ろには軽トラックが止まっていた。その後着々とパトカーが到着した。

優一はそこに立ちつくすことしか出来なかった。頭が真っ白だった。

何故、美奈が倒れているのか。

何故、運転手はこんな苦しい顔をしているのか。

何故、僕はここに立つことしか出来ないのか。 様々な事が頭をよぎった。

いてもたってもいられなくなった優一は溶けきったアイスを捨て、走り出した。どこに向かっているのかは分からない。ただ、走ったひたすら走って走って走った。 ふと立ち止まった場所は2人の思い出の公園だった。

「そうだ、僕はここで美奈に告白をして、付き合った場所だ」

それを頭で理解した瞬間、優一からは大粒の涙がこぼれ落ちた。何度も何度も留まることなく、その涙は優一の頬を伝った。

きっと、美奈は元から体調が良くなかったはずだった。家にいた時からそう薄々気づいていた。 それなのに何故美奈を1人で帰らせてしまったのか。

ぶつけようのないやるせなさと、今までの楽しかった思い出が、涙となって優一の目から流れた。

何時間そこで泣いただろうか。辺りを見渡すと夕方だった。綺麗な夕焼けだった。

今は美奈の事だけしか考えられなかっ。この夕焼けも街並みも人混みも美奈の思い出に染まってしまう。

だが、もういない。美奈はいない。

それを実感するだけでまた涙が溢れ出す。大好きだった。美奈の事が、誰よりも好きだった。 夕焼けへ手を伸ばしながら僕は言う。

君色に染まったあの夕焼けは

「とても残酷で、とても美しい」

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