まってよ。置いてかないで、僕なりに頑張るから。
嫌だよ。ねぇ、捨てないで、
「ーーー×××」
ハッと目が覚める。
どれだけ昔の記憶だろうか、嫌なモノを見てしまった。
旅人は睡眠を取ると気分が良くなる。と言っていたけれど
「やっぱり、人形が寝るなんてやめた方がいい」
ボソリと呟いて、上半身を起こす。
いつもよりも、身体が重く感じる。
辺りを見渡して、時計を見つめる。今は深夜の1時半、また眠るなんてことはしたくないし、だけど別にすることもない。宿といえど主はどうせ寝ているのだから、と散歩をすることにした。
笠は…要らないか、誰かに会う訳でもないのだから
やはり、あの悪夢は稲妻に来たのが原因なのだろうか
僕が俗世に産み落とされて、初めて意識を持った時にはもうあそこにいた。今思い返せば、意識を持ったのはもっと前だったのかもしれない。まぁ、思い出したところで何も無いのだが、
…うん、やっぱり辞めた。あんなのはメモリから削除されて、封じ込めてしまえばいい。
けれど、それができたならどれ程楽だっただろう?
りんりんと虫の音がする。いつもなら、煩い。と風元素の塊をぶつけて黙らせていたと思うけど、運が良かったね。今日の僕はそうとは思わない。
たしかに煩いのは事実だけれども今は耳によく馴染む
細々とした道を月明かりがほんのり照らして、何故か気分が落ち着く感じがする。
城下町には….行かないでおこう。万が一誰かにあったりでもした…。それに大した用事もないし。
ゆっくりゆっくり歩いていけばいつの間にか宿は見えなくなっている。
…たたら砂に行こうか?
そんなことが頭に過ぎる。
ここからあそこへはそう遠くない。でも行ってなんになるのだろう。
さっき過去のことは思い出したくないと思っていたのに、これは矛盾だらけの行動だろう。
けれども無意識のうちに、身体がたたら砂の方向に進んでいることは、考え事をしていて気が付かなかった。
「…、変わらないね」
ここへ来るのは何百年ぶりだろうか。エッシャー…いや、博士に行かされてそこから逃げ出した時以来だ。
アイツのことを思い出すだけで虫唾が走る。ギリ..と歯をかみ締めながら、立ち止まっていた足をまた動かす。
手入れもされておらず、道はぐちゃぐちゃで歩けるスペースすらない。橋も所々崩れており、僕じゃなきゃそこを渡ることすら出来なかっただろう。
何百年ぶりに訪れた。…故郷は、ヒルチャールや宝盗団やファデュイの住処になっていた。
何となくそれが気に食わなくて、無防備に寝ているヒルチャールに風元素の塊をぶつけて起こす。
〜~~~○×○▷?!???!?
と意味のわからない悲鳴を上げながら去っていく姿は滑稽そのものだ。普段なら、そんな様子に口角をつり上げて追いかけ回して遊ぶ。のだが今日はアイツらがここから去っていっただけで満足した。本当に、今日の僕はどこかおかしい
今度はファデュイを見つけて、また攻撃をして叩き起す。さっきのヒルチャールとは違って理性があるらしく、僕の攻撃を避けた。
…知性を付けた猿のくせに生意気だ。
それが気に食わなくて、攻撃する手を早めると意外にもあっさり当たって呻き声を出す。
上から嘲笑うように見下ろすと、キッと殺意の籠った目を向けられる。あ、そういえばこんな奴部下に居たなぁ
「あーらら、自分が負けてることにも気付かずに僕に逆らう気?」
ーー君如きが、僕を直視する気かい?
一際低い声でそう言って蹴り付ければ、また何やら叫んでどこかへ行く。
塵を見つけて駆除する。
そんなことを繰り返しているうちに、もう日が昇ってきていた。
ここに着いた時とは違い、月明かりではなく太陽の眩しい光に照らされていた。何故かそれがものすごく眩しく思えた。
「…さっさと戻ろう」
そうでもしなきゃ、金を払わずにどこかへ行った客って思われそうだし。
人間とは面倒くさいものだなと思いながら来た道をまた戻っていく。
りんりん鈴のような音を鳴らしていた虫達の声も聞こえなくなって自分の足音だけがよく聞こえる。
ざり、ざり、何故か足が重くなるような感じがする。
なにか、なにか今しなければ後悔することがある気がする。
人形の勘が当たるのは分からない
けれども強くそう思った。
目を凝らさないと見れないくらい遠く離れたたたら砂を見つめながら、
ごめんね、ごめんなさい。桂木…、丹羽…、他のみんなも…。
そう心の中で復唱すると、
なにやら神の目がある当たりが刺されたような…。
ズキズキと痛み出す何かがある。原因不明のエラーだろうか、
ああ、いや、これは彼らの祟りだろうか、やっぱり彼らは僕のことを許していないんだろうか、
….、それは当然だろう。どこの馬の骨とも分からない、僕にあんなに親切に接して、それだけでなく『人』としての暮らしや感覚を教えてくれた彼らを僕は、信じきれずに裏切って、それでもまだ足りなくて彼らの刀工を、彼らの誇りを、…潰そうとしたのだから。ごめん、ごめん
「ご、め、ごめん、ごめんなさい…、」
心の中で復唱していた言葉を口に出すと、神の目辺りの痛みが少し収まる。
それに安堵して居ると、
懐かしい、もう聞けばしないあの声がする
『傾奇者、お主は拙者達の仲間であり、家族でござるよ。大丈夫、安心なされよ』
そう聞こえた気がして、後ろを振り返る。当然だけれども誰もおらず、自分はついに幻聴すら聞こえるのかと動揺した。
だけど、
『傾奇者』はひとつの違和感に気づく。自身の頬に涙が伝っていることに気が付く。
僕の神の目辺りは未だに少し痛むのに、ポカポカと暖かくなる。後悔やら安堵やら悲しさやら嬉しさが入り交じった曖昧な初めの感情に、思わず膝から崩れ落ちる。
でも何処かゆっくりと、誰かが支えてくれるような感じがした。
ちなみにそこから宿に帰れたのは太陽が真上にある時間になってしまって、何故かそこの主である老婆は僕を心配してくれた…話はまた別のおはなし
コメント
2件
めちゃくちゃよかったです😭😭😭🤝