「難しい質問ですね。どのくらい……といわれても、何と比べたらいいのか。どんな物とも比べようがないくらい、俺は穂乃果のことを大切に思ってるので」
「そうですか……。いいですね、月城さんは大切な人といつも一緒にいられて。本当に……うらやましい。心からそう思います」
思わず、ハサミが止まってしまった。
「僕は、穂乃果ちゃんのことがずっと好きで。でも……2人きりで話したことも昨日が初めてで。会えない日ばかりで、つらくて心が張り裂けそうな時もあったんです。お見合いの話が持ち上がった時、本当に嬉しかった。もしかして、穂乃果ちゃんとずっと一緒に居られるんじゃないかって。色々勝手な想像したりして。でも実際は……」
真剣な告白だった。
その切ない様子に何も言葉が出ない。
「実際は、あなたがいて、僕なんか全く相手にされてなかった。そんなあなたが……正直ちょっと憎いです」
「氷野さん……」
「こんな気持ち、どこにぶつければいいんですかね。いっつもどんなことでも全部前向きに捉えて自分で解決してきました。でも、このことだけは解決なんてできない。ただ苦しいだけなんです」
氷野さんは、俺の前で少し……涙を流した。
穂乃果には、きっと、こんなこと言えなくて、涙も見せられなかったんだろう。
この人の気持ちが手に取るようにわかる。
もし立場が逆だったら、俺も……
苦しい気持ち、張り裂けそうな気持ち、きっと同じ痛みを感じていただろうから。
「泣いて下さい。俺には気を遣わずに、苦しい思いも全部吐き出して」
俺は、思わず氷野さんの肩に手を置いた。
氷野さんは、涙を流しながら、それでも必死に我慢して堪えようとしていた。
肩が……小刻みに震えている。見ていて、どうしようもなく切なくて、つらくなった。
こんなにも、この人は穂乃果のことを想っていたんだ。
俺は、氷野さんが落ち着くまでゆっくり待った。
「すみません、自分でもびっくりです。誰かの前でこんなに泣いたのは初めてです。きっと月城さんが良い人だから、甘えたくなったんですね。情けないですよ、僕は……」
俺が差し出したティッシュで涙を拭いながら氷野さんが言った。
「そんなことはないです。氷野さんは素晴らしい人です。穂乃果も言ってました。改めて考えれば、情けないのは俺の方かも知れません」
俺はまだ穂乃果と一緒に住んでるだけで、付き合ってもなければプロポーズもできていないんだから。
氷野さんより情けない。
「何を言うんですか。月城さんは立派ですよ。自分の力で美容師として頑張ってる。穂乃果ちゃんもそういうところに魅力を感じてるのかなって……。それに、めちゃくちゃカッコイイし、大人だし、そんな色気は僕には到底出せません。本当に穂乃果さんは幸せです。だけど……」
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