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気分次第で非公開にしたりフォロワー限定にする予定です
「蘇枋さんまた食べないんですか?」
「ダイエット中なんだ。」
もう十分華奢だと言うのにまだそんなことを口にする蘇枋に対し少しマイナスな感情を抱く楡井。 学校に入学して早3ヶ月。まだ蘇枋が食べている姿を見たことは無い。
「なんや蘇枋。 前は少しでも食べとったやないか ! 」
「おふたりって中学一緒だったんですよね?」
「せやで!さすがに中学の頃は給食やったから蘇枋でも少しは食うとったんやけどな」
「さすがに全部食べないのは作ってくれた人に申し訳ないからね。少しでも食べるのは常識だよ」
「蘇枋にも飯って概念あるんだな」
「さすがにあるよ。桜くん俺をなんだと思ってるの?食べたこと無ければ納豆が苦手って概念もないでしょ?」
「そういえばそうでしたね!納豆が苦手っていう弱点!」
「弱点って言い方はやめてくれるかな?」
「まぁ、誰かが食べさせてくれたら俺食べるかもな〜」
「は、はぁっ!?!?」
食べさせてもらう。つまりはあーんということだ。もちろんそんなこと慣れてもいない桜は紅潮する。得意そうな桐生は今に限ってお手洗いに行っている。 もちろん楡井も自分の師匠である存在にそんなことする自信は生憎持ち合わせていない。柘浦に関しては笑顔で眺めるのみ。となればそんなことができる存在はいないことがわかっているのだろう。
だがそんな蘇枋の思考な裏切られることになった。遠くで寝ていた杉下がこちらにズカズカと歩いてくる。
「杉下くんどうかしたのかい?というより今日は梅宮さんの方に行ってないんだね。」
「…今日、いないから。」
「珍しいね。それで何か用かい?」
「…食え。」
「へっ?」
突然自分より長身で普段から嫌な雰囲気のある人がこちらに来たことに対し驚き目が点になる楡井と突然の出来事すぎて固まる蘇枋。相変わらず中は良くないようで睨む桜。それを見て茶化す柘浦と帰ってきたら早々にカオスな状況を見せられる桐生。
「杉下くんほんとにいっかなッ!?」
蘇枋が口を開いた瞬間、 自分が持っていたおにぎりを口へ入れる。米というものは比較的柔らかい為、 口へ放り込まれると噛み砕かなければ粗末にしてしまう。ご飯を食べること自体は好きではないが食べるしかない状況になった今、逃れることは無理だろう。
「わぁ~ すぎちゃん大胆~」
「茶化す前に助けてくださいよ!お二人共!蘇枋さんに何かあったらどうするんですか〜!」
できるだけ少なめな量でご飯を口に入れる。久しぶりに白米を口にする。やっぱり口に固形物を入れるのは気持ちが悪い。
小さくなるまで噛み砕き飲み込むとクラスメイトから声が飛んでくる
「杉下くん。どういうことかな?」
「はわわ。まっずいですよー!!!!!
あの目はほんとにダメです!!!ガチギレしちゃってますよー!!!」
――
数日前
屋上
「梅宮さん。」
「どうしたー?杉下」
珍しく畑仕事の手を止めると梅宮に相談をし始める杉下。
「蘇枋が、 飯食わないんです。 ずっとダイエットって。 どうしたら…」
「どうしたらか〜。 ん〜 。 俺もわかんねぇな! 」
「でもな杉下。 俺はお前が思うように行動すればいいと思う。 俺も蘇枋とは飯が食いたい。 だから頼んでもいいか?」
「まぁ蘇枋がガチギレしたりしたらやめるのが1番だがな!」
――
「ちょっとは食べた方がいい。ダイエットにも悪い。」
「杉下くんだいぶ豪快だね。僕は嫌なの。」
「どうせ梅宮さんからの指示でしょう?」
相当怒っているのであろう。ずっと言葉を向ける。だが楡井は気づいてしまった。
蘇枋の目は怒っているが何処か哀しげな目をしていた。
――
家に帰るとトイレに直行した。胃の中の物が気持ち悪いからだ。授業中ずっと胃の中が気持ち悪かった。
――
僕の師匠は日本人ではなかった。だが日本語は上手なお方で基本日本語で指導をしてくれた。僕が日本語以外を喋れるのはこのことが原因とも言える。
師匠なご飯が好きな方だった。師匠のご飯は特別美味しかったし僕も昔は食べることが好きだった。
「ししょーさん!今日はなんですか!」
「今日は隼飛の好きな納豆を使ったカレーを作りましょうか」
「やったー!」
昔、納豆が好きだった。師匠のご飯のためならどんなにキツイ鍛錬も頑張れた。
けど幸せは長くは続かない。
ある日。いつも通り家に帰った。けどその日は少し違った
「ししょーさん!ただいま帰りました!」
しーん⋯
そんなオノマトペが合うような沈黙が響く。同時に鼻を劈くような鉄の匂い。
匂いのする方へ向かうとそこには血塗れになった師匠がいた。人に殴られたような傷が沢山あった。そこでわかった。僕が学校に行っている間に師匠は何者かに襲われた。しかも殺されない程度に。それが一番キツイ。
「ししょーさん!ししょーさん!!!
ねえ”!!!!返事してよ”ッ!!!!!」
僕の言葉も耳に通らない。今救急車を呼べば助かる。そう思った瞬間。
「隼飛ッ!!!!危ない!!」
師匠の掠れた声。振り向いた瞬間。右目に何かが刺さった感じがした。
「ぁ”ッ。痛い!痛い痛い痛い痛い痛い」
右目が焼けるように痛い。刺してきたと思われる人物は、舌打ちをすると右目にあるものを抜いて立ち去った。 警察に行かないと。
師匠は既に息が薄くなっていた。早くしないと間に合わない。痛む右目を無視して交番まで走る。 交番に着いた時、警察の人達は何かがあったとすぐに気づき家まで着いてきてくれた。帰った頃には師匠は息をしていなかった。
病院には運ばれたが結局は助からなかった。自分の手にあるのは師匠が常につけていたピアスのみ。師匠も右目も失った。師匠のことを聞きつけて自分の兄弟子達が集まった。今後どうするか。運良く師匠は金持ちだったため兄弟子たち含め3人で家に住むことにした。
兄弟子たちは自分に同情してくれた。齢10にして親も師匠も失った。どれだけ辛いことか。
あとから聞いた話師匠を殺した人物は、自分が養子縁組にも恵まれないため、たくさん弟子がいる師匠を恨んだからやった。という子供地味た理由が原因だ。
中学生になる頃、自分は給食の度昼休みにトイレで吐いていた。自分でも嫌気がした。もちろん兄弟子達はこのことを知っていた。僕に寄り添ってくれる。ご飯の匂いが苦手だった。特に納豆は苦手になった。師匠を思い出すからだ。
右目も嫌いだ。色素が薄くなった目。昔の出来事を思い出してしまう。そんな時に1番上の兄弟子が眼帯をくれた。中華風という部類に入るものだった。師匠もこんなものを好んでいたな。そんなことを思ってつけていた。
中二の頃。兄弟子達が家を出ていくことになった。兄弟子達は既に成人していて、仕事にもついていた。既に共に過ごす時間が少なくなっていたのにもう無くなる。その現実が辛い。兄弟子達もそんなことを思ってくれたのだろう。残りの時間、基本一緒に居てくれた。
お別れの日。言葉を交わした後、別れた。
家に帰ると普段とは違い静まり返っている家。心に穴が空いている様な感じがして寂しい。珍しく師匠の部屋だった場所に行く。師匠の服が沢山ある。ふと気になって机の引き出しを開ける。そこには昔僕が書いた手紙が入っていた。手紙には『師匠は僕の憧れです。いつか師匠の様な素敵な大人になりたいです』と書いてある。そうだ。昔からの夢だった。師匠の様な人になること。
いつもは付けていないタッセルピアスと兄弟子達がくれた眼帯をし、師匠の好きな中華風の服を着た。前の様に活発な性格を捨てる。一人称も僕はできるだけ控えた。
――
いつも通り、師匠との写真の前で手を合わせる。
次は師匠が辛い思いをしませんように
『もう幸せですよ』
師匠の声が聞こえた気がした。