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作戦を一通り指示した慎太郎は、行方が取り付けていた発信機を頼りに六現夢結のドールの下へ向かっていた。
行方の情報が確かであれば、六現が操り異能戦を繰り広げている相手は異能祓魔院の為、六現からの攻撃はない。
しかし、意識のない昴の体に憑依していれば異能は使える為、本体は昴の中の可能性が高いのだ。
発信機の示した場所は、グラウンド横の倉庫だった。
「本当にここにいるのか……?」
疑心暗鬼な中、注意深く慎太郎はその扉を開ける。
「置いてあるだけの可能性もあるが、ドールの方を先に回収してしまってもいい。まあ、本人の意思で消滅されてしまえば元も子もないのだが」
それに続く行方。
キィン!!
開けた瞬間、銀色のプレートが慎太郎の頬を掠める。
「どうやら……警戒は十分みたいですね……」
中にいたのは、憑依された昴だった。
「逆に言えば、確実に六現の実体を捕えられる好機とも取れる。さあ、二人の活躍に掛かっているぞ」
対昴戦に慎太郎が選んだのは、自身、慎太郎と三嶋の三年生二人組だった。
そして、バック支援、もとい、意識奪取のために、行方と共に後衛補佐に選ばれた志帆。
慎太郎の合図で、四人は陣形を整えた。
「昴……すぐに解放してやるぞ……!」
「やってやる……! 行こうぜ、慎太郎!!」
太陽光、つまり光が差している内は、三嶋は光そのものになることが出来る。
光になっている間は、どんな物理攻撃もすり抜ける。
その為、昴の攻撃は何も通らない。
「行くぜ!!」
早速、三嶋は光化し、昴の目の前を飛び回る。
昴は狙って鋼鉄を放つが、避けられてしまう。
「やはり六現は、光化している三嶋に物理攻撃が効かないことを知らない……。この隙が狙いだ……!!」
そして、撹乱させている間に刃を抜く。
「四波流 三ノ型 暴風波!!」
昴目掛けて竜巻のような巨大な風波を放出する。
三嶋ばりの移動能力がなければ避けられない。
しかし、昴は前方に巨大な鋼鉄を出現させ、竜巻から倉庫ごと守ってしまった。
「昴にこんな異能の余力なんてねぇぞ……」
慌てて慎太郎の元へ避難する三嶋。
「どうやら、六現憑依中は異能の底がないのかも知れないな……。俺たちの知っている昴とは違うと思った方がいい……!」
そんな慎太郎に、焦りを見せる三嶋は訊ねる。
「また撹乱か……?」
「いや、これも計算の内だ。プランBに移行する……」
正面には巨大な鋼、慎太郎は刃を真っ直ぐ構える。
「四波流 四ノ型 風陣車!!」
慎太郎は、刃を縦に振るい、そのまま回転。
すると、慎太郎の前後には風の膜が現れた。
「攻守共に万能なニノ型……お前……本気だな……」
「当たり前だ。次は俺が攻める……!」
そう言うと、そのまま走り出し、巨大な鋼鉄を斬る。
昴と目が合う0コンマ数秒の駆け引き。
「まずはそこから出て来てもらう! 四波流 ニノ型 風烈波!!」
斬られた鋼鉄の狭間から繰り出す風の斬撃。
倉庫の中は風の勢いで物が弾け飛ぶ。
昴は四方に鋼鉄で守備し、そのまま外に出た。
しかし、その背後を光速の三嶋が捉える。
「鋼は……効かねえ……!!」
四方の鋼鉄をすり抜け、握り拳を昴に向けるが、昴はその拳をヒョイと交わしてしまう。
しかし、更に二段構えで慎太郎の刃が迫る。
キィン!!
鋼鉄一枚では斬られてしまうことを理解した昴は、三重に重ねた鋼鉄で慎太郎の刃を防ぎ、後退した。
二人の背後からの攻撃を防いだ事実がもたらす答えは、六現自体の目は昴と同化していないと言うこと。
360度死角がないことを現していた。
「ふぅ……No.3とNo.4が束になってこのザマだ。アイツ、鍛え方次第じゃマジで追い越されちまうな……」
「休んでいる余裕はないぞ、三嶋……。あの力は、憑依されていて初めて為せる。昴の異能『鋼鉄』は、シンプル且つ単純明快、鋼鉄を出現させる異能だ。しかし、無尽蔵のエネルギーと死角のない目は、本来の異能力を遥かに上回る」
昴は二人目掛けて更に鋼鉄を振り落とす。
「休ませる気すらない……と言うことか。でもな、昴。いや、中身は六現か。それも、“計算の内” だ」
その瞬間、校舎裏から二体の影が飛び出す。
「灰になりなさい……!!」
飛び出したのは、二宮と九恩だった。
二宮は飛び出して早々に業炎を昴に放つ。
燃え盛る炎は、昴の鋼鉄を全て溶かしていく。
そして、炎に紛れて九恩は握り拳を作る。
「さあ、覚悟しな!」
九恩櫛。異能力『怨念』。
腕を振るい、相手目掛けてぶん殴ることで、拳に込めた “ムカつく” というエネルギーをそのまま放出する。
燃え盛る鋼鉄の隙間、九恩の瞳は昴を捉える。
拳を振り、エネルギー体の長距離パンチを繰り出す。
しかし、突如として九恩のパンチは消滅した。
「なんだ!?」
「一対二ってだけでもズルかったのに、一対四は流石にフェアじゃないかなー?」
現れたのは、十二鳴美。
音波により、エネルギー体のパンチを消滅させた。
「ナル……」
十二の出現に行方に言われたことが頭に過ぎる。
「十二は異能力検査で嘘をついていた。あの子の本来の力は、四波兄妹の波動、九恩の怨念拳、そして、三嶋の光でさえも掻き消せる。分かるな? お前の炎だけが、十二鳴美には通じるんだ」
そして、二宮は覚悟を決め、十二と向かい合う。
「絶対に、ナルは私が取り戻す……!!」
ゴォ! っと、拳から炎が漏れ出す。
「九恩さんは、引き続き会長たちの支援をお願いします。ナルは、私が止めます……!」
「ふん、随分気合が入ってるじゃないか。気に入った。この場は任せるよ……!」
そう言い、九恩は慎太郎たちの元へ駆けた。
しかし、その瞬間、
「止まりなさい」
九恩の横から、声が聞こえる。
横を見ると、無防備にも檻口が立っていた。
「嫌に決まってるだろ!! バーカ!!」
答えた瞬間、檻口はニヤリと笑みを浮かべる。
すると、九恩はその場に静止してしまった。
「九恩さん!?」
行方の側で九恩を見遣っていた志帆が声を上げる。
「ふふふ……ハハハハハ!! 今ので、九恩櫛が私に従った回数は三回目となった!!」
「なんで……? 嫌だって言ってたのに……」
「 “言葉” ではな。私の心の中では『止まるな』と考えていたのだ。そして、口では『嫌だ』と発していた九恩だが、行動では進み続けた。あとは分かるな……?」
「そんな……九恩さんまで……」
「これが異能教徒のやり方だ。『罠』を張るのもお手のもの、と言うわけだ」
冷静に状況判断をする行方。
「なんでそんな冷静でいられるのよ!!」
「まだ敗けていないからだ。それに、奴らの目的、本当の標的も僕には分かっている」
「本当の……標的……?」
そして、再び昴は四方に鋼鉄を出現させた。