コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
茶を一口啜り、天井に飾ってある坂本の両親と思われる写真を見上げると、坂本は静かに口を開いた。
「儂の両親は共に兵士じゃった。二人ともが腕の立つ兵士で、急時の際にはいつも戦地へと赴いた。父は槍使い、母は砲撃隊。キルロンドで言う、前衛職と中衛職ってところじゃな。父から槍を教わっていたが、儂は出来損ないじゃった。戦うのが…………傷付けるのが怖かった。そんな儂に対し、父は『無理して戦う必要はない』と、いつも儂を励ましてくれていた」
四人はゴクリと唾液を飲む。
この話の続きが、もう分かっていたからだ。
「儂がまだ幼い頃、二人は魔族に殺された。まだキルロンドやエルフ族と交友関係を結ぶ前で、数に圧倒されたそうじゃ。その時に儂は、強くなろうと決めた」
――
生温い風が頬を切り、熱い雫が頬を流れる。
「残念なことだが……他の兵士たちも皆殺された……。し、しかし、必ず私たちが仇を取ろう……!!」
必死に励ましの言葉を掛ける兵士たち。
しかし、頭を過るのは、自分自身の手で仇を取りたいと言う、強い意志だけだった。
毎日、毎日、槍を振るった。
必要最低限の食事を摂り、朝から晩まで近隣のモンスターを退治しては、自らの技術を磨いていた。
そんなある時。
「やあ、そんなにモンスターばかり殺し回って……村に被害もないような生物たちなのに、可哀想じゃないか」
不思議な雰囲気の男に、静かに槍を構える。
「安心してくれ、君に危害を加える気はないよ」
その言葉も信じられず、耳の尖った仄かに青い髪の毛に槍先を向け続ける。
「貴様…………エルフ族か…………?」
「ふふ、残念。 “魔族” だよ」
その瞬間、猛烈な憎悪が身体を支配した。
しかし、その憎悪も僅か、弱い己が姿を見せた。
恐怖心。
殺されるかも知れない、その事実が、身体を支配した。
「もう一度言うけど、君に危害を加える気はない。僕は魔族を辞めてきたところなんだ。やり方が僕には好ましくなくてね。過去がどうだったとかは分からないけど、世界を自分たちだけの種にするなんて、勿体無い」
そう言うと、魔族の男はふわっと笑った。
「勿体無い…………?」
「ああ、争いの種は常に過去にある。でもどうして、現在を生きる僕たちが戦わなければならない? 僕はね、なるべく他者を傷付けたくないんだ」
「魔族の本能と聞いたぞ…………! 油断させる気だろうがそうはいかないぞ…………!!」
すると、眼前から男の姿が消える。
「無意味だと思わない?」
一瞬の間に、男は背後へと回っていた。
その時に察した。どれだけ本気で戦おうとも、確実にこの男には勝てない……と。
「確かに魔族には、本能的に戦闘意欲が高い。だけど、僕みたいな例外もいる。証拠はこの耳と髪だ。君が最初に僕をエルフ族と勘違いしたように、僕は魔族でもあるが、エルフ族でもある。魔族とエルフのハーフなんだ」
「魔族とエルフの……ハーフ…………?」
「ああ。ある時、魔族たちはこう考えた。『唯一の草魔法を扱えて、魔力量にも恵まれるエルフ族の力を自分たちのものにできたら…………』とね。一人のエルフ族を誘拐して無理やり子供を産ませた。しかし、残念なことに、その子供には “魔族の本能” とやらは遺伝しなかった。それに草魔法も扱えなかったしね」
「その子供が…………貴方…………?」
「そう言うこと。僕は戦闘は好まなくてね。でも、欠片は遺伝しているのか、強くはなりたいと思う。自分磨きって言うのが分かりやすいかな? だから、君の技術を僕に見せてくれないか? その代わり、僕の頼みを聞いてくれるならば、僕も君の願いを一つ叶えよう」
そう告げると、男はスルリと剣を引き抜いた。
殺気は、全く感じられなかった。
「僕の…………願いは…………」
――
再び、坂本は四人に目を移すと、静かに茶を飲む。
「まさか……魔族とエルフのハーフがいるだなんて……」
リリムは驚愕な顔を浮かべるが、ヒノトはなんとなく、誰なのか分かってしまい、目を見開いていた。
「その…………坂本さんに剣を教えたのは…………」
「どうやら、分かったみたいじゃな」
「シルフ・レイス…………!!」
その言葉に、リリムとグラムは呆然と口を開ける。
その瞬間、外に続く扉は静かに開かれる。
「やあ、呼んだかな?」
静かに佇み、陽の影で顔を暗く、静かな雰囲気を漂わせたシルフが、そこには立っていた。
「シルフ…………さん…………。魔族だったんですか……」
「今の話を聞いて、まだ僕が魔族だと思うかい? 確かに血はあるけど、僕は魔族ではないよ」
「それじゃあ…………」
しかし、ヒノトの言葉を鋭い目で遮る。
「ただ、近い未来、君たちの敵になるだろう」
その言葉に、全員は目を見開いた。
「達巳、昔みたいに、僕と願いの交換をしないか?」
「相変わらずじゃな、シルフさん。いいじゃろう」
「ここにいる四人を強くしてくれ。そうすれば、君の願いを一つ、叶えよう」
その言葉に、緊張する四人とは打って変わって、坂本はふっと笑った。
「儂の願いは、昔と変わらんよ」
その言葉に、シルフはニコッと笑った。
「君も大分老いてしまったけど、君も相変わらずのようだね。久々に会えて嬉しかったよ。君の願い、しっかり叶えると誓おう」
そう言うと、シルフは静かに去って行った。
「何…………? シルフさんは敵なの…………?」
困惑する皆々だが、坂本は笑みを浮かべたままだった。
その表情を、ヒノトはじっと見つめる。
「坂本さんの願いって…………」
「儂の願いはただ一つじゃよ。儂が技を教えるならば、君たちにもそれを守ってもらう」
そう言うと、槍と剣を両手に構えた。
「決して人を殺すな」
そう言うと、坂本はニカっと笑った。
その言葉に、四人も静かに安堵し、笑みを浮かべた。
――
坂本の言葉を聞いたシルフは、静かに笑った。
「ハハっ、君の願いは殺さないことかい? あははっ、いいだろう! 約束しよう。君も僕も、この先どれだけ強くなっても、誰のことも殺してはならない!」
「約束…………してくれるのか…………?」
「ああ! 凄くいいじゃないか! 君も、近隣のモンスターを殺すのはもう禁止だぞ? 僕たちの強さは、自分や仲間たちを守る為の力…………と言うことだね」
そうして、ニコリとシルフは笑った。