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先場所引退を発表した人気力士の桃山は、その日馴染みの蕎麦屋にいた。
話の相手は、タニマチの運送会社社長、木村だ。
「関取、昨夜の千秋楽祝賀会は、良い会でしたね。
関取の引退発表には、みんな涙ぐんでいましたよ。」
下膨れで福耳の、いかにも金持ちらしいこの六十歳前後の社長は、そう言って桃山を労った。
桃山は、静かに微笑みながら頷くと、この隠れ家的な蕎麦屋の、こだわりの十割蕎麦をすすった。
「膝の怪我さえ無かったら・・・いや、もう言わないでおきましょう。
関取、これからどうなさるんです。」
木村はこう尋ねた。
「自分は、ちゃんこ屋をやろうと思うんです。」
桃山は静かな、きさき強い決意を秘めた口調でこう言った。
「そうですか。
それは思い切った決断をなさいましたな。
まあ関取の人気なら、まず上手くいくでしょう。」
木村はそう言うと、何やら思い付いた様子で、こう切り出した。
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