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第六十話 春を待つ風
「春は、ある日突然やってくるものじゃない。気づかないうちに、少しずつ近づいてくる。」
二月中旬。
冷たい風の中にも、
どこか柔らかな空気が混ざり始めていた。
登校途中の川沿いでは、
冬枯れだった木々の枝先に、
小さな芽が顔をのぞかせている。
「もうすぐ春なんだな……。」
湊はカメラを構え、
その小さな変化を写真に収めた。
カシャッ。
誰も気づかないような小さな春。
でも、その一枚には
確かな季節の始まりが写っていた。
*
放課後。
写真部では、
三年生の卒業展示について話し合いが行われていた。
「来月には卒業式か。」
蓮がぽつりとつぶやく。
「先輩たちがいなくなると、部室も寂しくなるね。」
陽菜が少し寂しそうに笑う。
顧問の先生は部員たちを見渡して言った。
「卒業は別れでもあるけれど、新しいスタートでもある。」
「だからこそ、送り出す一枚を撮ってあげてほしい。」
その言葉に、湊は静かにうなずいた。
*
その日の夜。
紬とビデオ通話をする。
「そっちも少し暖かくなってきた?」
湊が聞くと、紬は窓の外を映した。
雪はまだ残っている。
でも、空はどこか明るかった。
「うん。昼間は少しだけ過ごしやすくなったよ。」
「もうすぐ帰国して一年だね。」
紬が笑う。
「本当に早い。」
留学生活も残りわずかになっていた。
「帰ったら、まず何したい?」
湊が尋ねる。
紬は少し考えてから、優しく笑った。
「神崎くんと、一緒に写真を撮りに行きたい。」
その一言だけで、湊の胸はいっぱいになった。
「じゃあ約束。」
「帰ってきたら、最初の一枚は一緒に撮ろう。」
「うん、約束。」
*
#異世界転移
花月夜れん
1,957
200
ユキ
85
47
休日。
湊はいつもの公園を歩いていた。
雪はほとんど溶け、
ベンチの周りには小さな草花が顔を出し始めている。
そこで、一組の親子を見かけた。
父親が小さな娘の手を引きながら歩いている。
娘はしゃがみ込み、
小さなつぼみを見つけると嬉しそうに叫んだ。
「お花、見つけた!」
父親も同じ目線までしゃがみ、微笑む。
「本当だ。春が来るね。」
その瞬間——
カシャッ。
湊は静かにシャッターを切った。
そこに写っていたのは、花ではなく、
“季節を一緒に見つけた喜び”だった。
*
帰り道。
カメラの画面を見返しながら、湊は思う。
春は、景色だけじゃない。
人の心にも、少しずつ訪れるものなんだ。
そして、その変化を残せるのが写真なんだと。
📷 Photo.060『春を見つけた日』
撮影日:2月16日
春は、
花が咲いた日から始まるんじゃない。
「見つけた」と笑った、
その瞬間から始まる。
コメント
1件
ええ〜〜!!もうこのエピソード、めっちゃ沁みるやつやん😭🌸 「春は、花が咲いた日から始まるんじゃない。『見つけた』と笑った、その瞬間から始まる。」この一文に全部詰まってる…!湊くんの写真への向き合い方、どんどん深くなってて尊いし、紬ちゃんとの「帰ってきたら一緒に撮ろう」の約束、心がぎゅってなるよ、、💕 季節の変化を人の心の変化と重ねる描き方、クラリスさんの作品らしい優しさが溢れてる📷✨ 春、待ち遠しくなっちゃうな〜!