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暖かい君の音と、ひらめくスカート
与えられた義務をこなすだけの僕《どうけ》
それは所詮小さな理由。
だけど僕にとっては、俺にとっては
とても大きな価値だった。
お前には無理だの、無駄だの
殺さないだけマシだ とさえ言われた。
君は何も無い俺に、存在してもいい理由をくれた。
ありがとう。
もう、大丈夫だから。
恐ろしい夢を見た。貴方が私を置いていく夢。
私は貴方を助けたけれど、救われたのは私の方。
出会った頃の貴方は素直じゃなかった。
瞳の奥は誰よりも暗いのに、
「ねぇ」
それと裏腹に軽やかなステップで踊り私の元まで寄ってきて
「名前は?」
そう手を伸ばし、声をかけてくれた。
「私は、トウカ」
少し怖かった。瞳は笑っていないのに、にこやかなそんな雰囲気が。
「貴方は、?」
でも、恐る恐る手を取った。
「僕はオルト」
そう言って手をぎゅっと握って
「つい声掛けちゃった。」
って無邪気に笑ってまるで舞踏会のようにエスコートしてくれた…
オルトは少し、寂しげな人だった。
「ねぇ」
そう声掛けたとき、君はどう思ったんだろう。君の瞳に僕はどう写ったんだろう。
「名前は?」
気がついたら声を掛けてしまったから言葉に迷って聞いてしまった。
「私は、トウカ」
教えてくれて嬉しかった。想像していた通りの優しい声に、もっと嬉しくなった。
「貴方は、?」
聞き返してくれたから、仲良くなってもいいのかなってこんな俺で、楽しませられるかなって思ったけど
「僕はオルト」
僕はただの道化だから。出来るはず。
「つい声掛けちゃった。」
ってお気楽な脳天気なキャラになって、君と、ずるいと思うけど、トウカと楽しい時間を送りたい。
願ってしまったのが、悪かったんだ。
いつもの街。いつもの時間。
いつの間にか決まっていた。それすら心地いいと思った。
トウカに対してはなぜか偽れなくて、気がついたら素で話していた。
話してるうちに思った。トウカも俺も、同じような扱いを受けてんだなぁって。
「トウカ、来なさい。」
「はい、お母様。」
私の家は、少しいい家系で私も良い人にならなくちゃいけなくて、だから少し苦しくて、でももう戻れないって分かってたから何も言わなかった。
「何?この成績は。なんのために貴女を学校に通わせてると思ってるの。」
「ただでさえ、うちは貴女しかいないのに、貴女しか継げる人が居ないから───」
そんな話を聞くことは多かった。
だから続く言葉なんて覚えてしまったし、話の後は外出禁止になることが当たり前。そんな生活だから友達なんて居ないし、外に出る理由もなかったから、そのまま受け入れた。
嫌われてる訳でもないけど、愛されていない。そんな生活はいいものでは無かった。
そんな日々に嫌気がさした頃。
家にいたくなくて外へ出て、帰りたくなくてぼーっとしてたときに出会った。
「おい、下僕!」
「はい、何でしょうか、。」
俺はいわゆる孤児ってやつで、両親とも記憶になんてなかった。
そんなときに人身売買やってるやつらに捕まってそのままこの家の召使い、つまり奴隷ってわけだ。
そりゃ奴隷なんだからいい扱いなんて受けるわけないし、愛されるわけもない。
他の家なら愛されてる孤児もいるかもしれないがここはそうじゃない。
それが事実でそれだけで十分だった。
「今日は家中の拭き掃除やっとけ」
「一日で終わらせろよ、明日は別のことがあるから」
「はい。承知しました。」
言葉ではそう言いつつ、こんな広い家ひとりで一日で出来るわけねぇだろって思ってた。
いわば豪邸ってやつ。やっぱ貴族とかっていいやついねぇんだよな。
そう思いながら生活してて、珍しく買い物頼まれて、外に出たとき見たんだ。
一際明るくて、悲しそうで、綺麗な女の子を。
「ねぇ、オルト」
「んー?なんだ?」
「私たち、いつまでこうしてられるかな」
気になって放ったその疑問、言った瞬間オルトは困った顔をした。
「え、あ、まぁ、俺としては、トウカが望まなくなるまでこうしてたいけど、」
「お互い親とか、雇用主とかなんて言うかとかどう考えるとか、色々考えなきゃだよなぁ」
やっぱりそうだよね…
そう言葉にはできなくて、言ったら泣いてしまいそうで、黙った。
「やだなぁ…」
小さい声で言った言葉が聞こえていたようで、オルトは前に立って言ってくれた。
「トウカ、トウカが俺を明るい気持ちにしてくれたように、俺がトウカを助けるよ」
「約束する、俺が大人になって、力がついたら、必ずトウカを迎えに行く」
「そのとき、俺と結婚してくれないか」
結婚。そう聞いてびっくりした。
でも、嬉しかった。なんで嬉しかったのかは分からなかった。でも
「うん、!」
気づいたらそう返事をしていた。
そんなこと、願ったのが悪かったのかな。
「っ!」
「トウカっ!!」
気づいたときには遅かった。
周りを貴族に雇われている軍人に囲まれた。すぐにトウカが抱きかかえられ、人質にとられた。
「嫌!離してっ!」
どうしよう。なんでトウカが攫われる?攫ってなにをする?どうされる?俺が気づくのに遅れたから、だからトウカが傷つけられるのか、?
「オルト!」
「っ!」
「ごめんっ!必ず助けるから!絶対に迎えに行くからっ、!」
だからっ、どうか無事でいてくれっ、、
オルトは凄く強ばった顔をしていた。
悲しいような苦しいような、悔しいような、後悔するような
ごめん、オルト
私が弱いから、だから貴方にそんな顔をさせる。早く貴方のそばに行きたい。
「離してっ!」
貴方が1人になってしまう。
「オルト!!」
「嫌だっ!ねぇ!」
「はぁっはぁっ、、」
1人その場に残された俺は必死だった。
冷静になることに必死だった。どうする。どうすればいい、!どうすれば君に、傷をつけずに済む、?
「っ、」
落ち着け、落ち着け大丈夫だ。
まず状況を整理しよう。”正確に”理解しよう。それが大切だ。
俺が、トウカを助けるんだろ。
どうしよう。貴方は多分、ちゃんと私を助けてくれる。そんなこと分かってる。でも、貴方を少しでも1人にしてしまった。貴方は絶対に自分のせいだと思う。貴方が、オルトが、自分で命を絶つとは思えないけど、それでも心配だ。確証がない。
私が、救えたらいいけど、。
「ふぅ。」
仕掛けてきたのは間違いなくあの貴族。俺の主だ。おそらく俺の外出の頻度が増え、楽しそうにしているのが気に食わないのだろう。それならトウカが狙われたのにも納得がいく。
だが、そんな露骨に敵に回す方法をとるか、?トウカの母親にかけ合った可能性は?いや、トウカは「私は一人っ子だし、一応大事にされてるはず…」って言ってたし、、いや、待てよ。俺がトウカの母親からして”悪”だとしたら。
「チッ」
あいつ、トウカの母親に伝えてないことをしようとしている。
そうなるとトウカはッ
どこかに着いた、?
オルトは無事かな。こんなこと貴方が聞いたら”今は自分の心配しろ!”って怒られてしまいそう。
状況的に、オルトの雇用主って人が私を捕まえたのだろうけど、。貴方に任せた方が安心なんだろう。けど、オルトも私もまだ17歳。大人には敵わない。
だから、私は私のできることを!
確証は無いけど、向かった方角的に屋敷の地下室だろう。
走って荒れた息を整えながらゆっくりと階段を下りる。下ではなにか騒がしい。
「おい!あいつはどこだ!」
「あいつってなんだよ」
「誰か来たとか知らねーけど?」
「あー、あれだよ」
「トウカ?とかいうやつ!」
「そういやなんか騒がしかったなぁ」
「脱走とか言ってたぜ?」
「警備大丈夫かよ笑」
「知らねぇ〜」
どうやら、トウカは脱走したようだ。
思わず笑ってしまいそうになった。やっぱりトウカは突拍子もないことをする。静かな見た目で、その通りの部分もあるが天然で、可愛らしく可憐で、見惚れてしまうくらいだ。
あとから気づいたが、俺はやはりトウカに一目惚れしていた。
「無茶するなぁ、笑」
そういうとこも好きだけどさっ
「はぁっはぁっはぁっ 」
走る、なんていつぶりだろう。脱走なんて言われるからついドキドキしてしまう。少し楽しんでる自分もいて、びっくりする。貴方が来るまでどこにいようか。
「わっ!」
「しー」
「ここを通るのを待ってたんだ」
いつの間にか前にいたオルトがいたずらっぽく笑った。
「オルト、よかった、」
「こっちのセリフだよ」
「ははっ、泣くなよ?まだここからだ」
「言っただろ?」
「必ず助けるってさ」
そう調子よく言ったが、内心怖くて怖くて仕方がなかった。君を失うのが怖かった。このことは、しばらく黙っておこう。君はバカにしそうだから、笑
「何もされてないか?」
「うんっ!」
そう応えるトウカを見て、心底安心した。
が、ここを出るまでほんとの安心は手に入らない。
「注意深く行くぞ?」
「うん、行こう」
それからは意外とすんなりと、何も無く出ることが出来た。
違和感はあったが、今は一時の安全を手に入れることが出来て良かったと思う。
本当に、君を救えてよかった。
貴方は思ったよりいつも通りだった。後悔とか、自己嫌悪とか感じているようには思わなかった。
でもなんか違和感がなぁ。
「トウカー?」
「はぁい?」
名前を呼ぶなんて珍しい。
やっぱり最近おかしいな。
「はぁい?」
そんな呑気な返事が聞こえて安心した。
そうか、安心したんだ。
俺は、怖かったんだな。
「オルト」
「はい 」
ずっとしてた違和感の正体に気づいた。
あなたは、怖かったんだ。
私が自惚れてるだけかもしれないけど、怖かったんだ。
だから、あの日貴方がしてくれたみたいにいたずらっぽく笑って手を広げてみる。
「おいでよ」
「…ん」
私の肩に頭を置いて、ゆっくり息をするオルト。ちょっとは安心してくれるかな。
「トウカ」
「俺さ、トウカの母さんに会ってきたんだ 」
「トウカを、俺に任せてくれませんかって」
いきなりのことで心臓が早くなる。なんて言ったんだろう。オルトの次の言葉を待っているのに、いつまでも出てこないように感じる。
「そしたらね、」
『私はあの子を縛っていたのかもね。ずっと暗い顔しか見てなかったもの。あとから攫われたと聞かされたとき、怖かった。あの子が、どうなろうとどうでもいいんじゃないかとすら、思っていたのに、。
どうか、あの子をよろしくね。ここに帰ってこなくたっていいと、幸せになってねと、トウカに伝えてちょうだい。』
「だそうだ」
「トウカ」
「君は、十分愛されていたよ」
「これからも君は愛されていくよ」
涙が溢れてきた。安心なのか、嬉しいのか、感動しているのか、なんなのかは分からないけど、幸せを感じているのは確かだった。
「…ぅんっ」
頑張って、それだけ言った。
「トウカ」
「俺は君を、世界中の誰よりも好きだよ」
「愛してるよ」
あぁ、やっぱり私には貴方しかいない。
「私も、愛してるよ」
「オルトっ」
どうか君に、欲を言うなら俺にも幸運がありますように。幸せが溢れ続けますように。君に幸せを、捧げられるように。
──俺は君に、永遠を捧ぐ──