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時間は止まってくれなくて。


どんなに辛くて、苦しいときでも、感情なんて置き去りにしたまま、時間だけが過ぎていく__。


だからこそ、立ち止まるわけにはいかなかった。

守りたいものがあるなら、考える前に動かなきゃいけない瞬間がある。


それが、いまなんだと思った。






樹音side



〇〇の手の震えも、少しずつ治まってきて

やっと呼吸が戻ってきた頃。


『ごめんなさい…ほんとに、…』


そう言いながら、今にも消えてしまいそうな顔をする。

自分の存在そのものが、誰かの迷惑なんじゃないかと信じ込んでいるみたいな目。



「謝るのもう禁止。」




これ以上、彼女に責任を負ってほしくない。

辛い思いをしてほしくない。


――縁を切る。


これは簡単なことじゃなくて、相当な覚悟と恐怖があったと思う。


それがどれだけ怖くて、どれだけ勇気がいることか。

想像しなくてもわかる。


それでも彼女は、そこまで追い詰められた。





「もし…〇〇が思ってるようなことが起きても、おれは離れないよ。」


それは慰めでも、勢いでもなかった。

約束というより、選択だった。


この先、どんな面倒なことが待っていようと、

後悔する方を選ばないと決めただけの言葉。



おれは、あまり人に思っていることをなんでも口にするタイプじゃない。

言わなくてもいいことは、胸の奥にしまっておく。


でも、いまこの時だけは、しっかり口にしないと終わってしまう気がして。


いつもなら心に留めておけることも、無意識に言葉に出てしまう。







━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




夕方、日が沈み初めて空の色が変わってきた時間。


家の外から、やけに大きくエンジン音が聞こえる。


その音は、ただの車の音じゃなかった。

過去を引きずるような、嫌な予感を連れてくる音。



それを誤魔化すかのように、テレビの音をあげる。


『……わたし、やっぱり、』

〇〇が何かを言い切る前に言った。


「ここ、セキュリティしっかりしてるから、そう簡単に家の中には入れないよ。」


「合鍵持ってるの〇〇だけだし。」



言葉にしなくても、〇〇も気づいていたんだと思う。

誰かが近くまで来ていること。


そして、それが“望まれない誰か”だということ。






『なんで……そんなに、優しくしてくれるんですか?』


テレビから目を離さないまま、答えた。


「いまは教えない。」


一拍置いて、続けた。


「全部終わって、〇〇がここにいても安心していいって思えるときに、ちゃんと伝える。」


本当は、今すぐにでも言えたし言いたかった。

でも、片付けなきゃいけないことを残したまま、大事な言葉を使いたくなかった。



そのとき、部屋の中にインターホンが鳴り響いた。


1回、また1回と、遠慮を知らないかのように鳴り続ける。


鳴るたびに、胸の奥が締めつけられる。

――〇〇は怖がっているかもしれない。


でも、おれは動揺を見せるわけにはいかない。





「寝室、ドア閉めてそこで待ってて。」


短くそれだけ伝える。


振り返ると、〇〇は小さく頷いた。

その仕草ひとつで、十分すぎるほどだった。





歩くたびに廊下の床が軋む音が響き、外のエンジン音が胸に刺さる。


光の影が伸び、壁に不気味な影を作る。




手のひらに汗が滲むのを感じ、心臓が早鐘のように打つ。

怒りと緊張と守りたい気持ちが、混ざり合って体中を駆け巡る。








チェーンを外さずにドアを開ける。


「どちら様ですか。」


なるべく冷静に、必要な口数だけ。

でも、手はわずかに震えていた。


顎の奥が重く、息が荒い。



(〇〇、いますよね此処に。)


おれよりも少し身長が低く、黒いスーツを着た男がそう言った。


「いないです。それだけですか?」



(全部知ってます。親としてしっかり把握しておかなければならないので。)


腸が煮えくり返るほどの怒りに包まれる。

頭の中で言葉が暴れ、吐き出したい衝動に駆られる。


拳を握りしめ、肩の力が自然と入る。


「親ね……。」



「その立場、いいように使って〇〇を管理してきただけじゃないんですか?」



「おれには、都合のいい言い訳にしか聞こえませんけどね。」



鼻で笑いながら、

(そういう関係……なんですか?)



挑発するようにそう言ってくる。




その一言に含まれた、 下卑た含みに耐えきれず、声を低くする。

「これ以上ここにいるなら警察呼びますよ。」


(警察呼ばれて、困るのはどっちなんですかね)


勝ち誇ったかのような顔で伝えてくる。


思わずため息がでる。


「さっさとおれの前から消えてくれ、って意味なんですけど。」


自分でも驚くほど低くて、怒っているのだとわかる声が出た。


(また来ますね。)


相手がそう言い切る前に、ドアを閉める。

重い金属音が響き、玄関に残った空気が震える。



ドアを背に、しばらくその場で立ち尽くす。

――やっと守れた。

――でも、まだ安心できない。


肩の力が少しだけ抜け、荒い呼吸を整える。


胸の奥には、守れたという安堵と、再び訪れるかもしれない危険の予感が、同時に重くのしかかっていた。










〇〇side



外から聞こえる車のエンジン音が、やけに胸騒ぎをさせる。




「……っ」


声にならない息が漏れる。


来た。

そんな予感だけで、身体が先に強ばる。



樹音くんが、すぐにこちらを見る。



その目を見た瞬間、

「大丈夫」って言われなくても、

何かを察したのが自分でもわかった。


『……わたし、やっぱり……』


言葉にしようとしたのに、

最後まで続かなかった。


何を言おうとしたのか、自分でも曖昧で、

でも言ってしまったら、何かが壊れる気がした。




「ここ、セキュリティちゃんとしてるから。」


樹音くんの声は、落ち着いていた。


「簡単に家の中には入れないよ。」


テレビの音が、少し大きくなる。

わざとらしいほどの音量。


『……でも』


喉の奥が、ひりつく。


「合鍵持ってるの、〇〇だけだし。」


その一言で、

胸の奥に、じわっと何かが広がった。


守られてる、って思うより先に、

信じてくれてるんだ、って感じた。


それが、少し怖い。


『……なんで、そんなに……』


声が震える。


『なんで、そんなに優しくしてくれるんですか?』


樹音くんは、テレビから目を離さずに答えた。


「いまは教えない。」


即答だった。


「全部終わって、

〇〇がここにいても安心していいって思えるときに、 ちゃんと伝える。」


胸が、ぎゅっとなる。


嬉しいのに、

信じてしまうのが、怖い。


そのときだった。



インターホンが鳴り響く。


押す側の焦りが、音に滲んでいるような。


身体が、びくっと跳ねる。


『……っ』


思わず、樹音くんの服の袖を掴んでいた。


「大丈夫。」


短く、でもはっきり。


「寝室、ドア閉めて、そこで待ってて。」


『……ひとりで、行くんですか』


声が、思った以上に弱かった。


樹音くんは、一瞬だけこちらを見て、

それから、静かに言った。


「すぐそっち行くから。」


それだけ。


それなのに、

胸の奥が、少しだけ落ち着いた。





寝室のドアを閉める。


外の音が、急に遠くなる。


ベッドに腰を下ろして、

手を重ねると、指先がまだ震えている。


――聞こえる。


インターホンの音。

低く、抑えた声。


内容まではわからないのに、

それが“あの人”だと、身体が理解してしまう。


息が浅くなる。


来ないで。

見つけないで。

連れていかないで。


頭の中で、同じ言葉が回る。

樹音くんの声が、廊下の向こうから聞こえる。


低くて、落ち着いている声。


――怒ってる。


でも、それが怖いんじゃない。


わたしのために、

怒ってくれていることが、苦しい。


わたしのせいで。

わたしが、ここにいるから。


「謝るのもう禁止。」


その言葉が、

頭の奥で、何度も反響する。


ドアの向こうで、

チェーンの音がした。


金属が擦れる音。


胸が、ぎゅっと縮む。


外に出ていく背中を、

ひとりで向かわせてしまったことが、

何よりも怖かった。


もし、何かあったら。

もし、傷つけられたら。


ベッドから立ち上がって、

ドアに近づきかけて、立ち止まる。


「待ってて。」


そう言われた声を、思い出す。


いまは、それだけを信じて息を殺しながら待っている。



通り過ぎられなかった夜

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コメント

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めっちゃいい話やーん!!!😭早く続き書いてください!待ちきれへん!

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