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短いやつ

49 - 今だけでいいから.l

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2025年09月23日

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💙×💛

💛視点


「なんか静かだね。」

「…だね〜。でもやっぱり暑いー!」

涼しいとも暑いとも言えないような生温い風が頬を撫でる。隣を歩く彼の首筋にも、汗が滲んでいた。

「夜なんだからちょっとくらい涼しくなってくれたっていいのにさ〜!」

「まあ、夏だから。」

静けさに目を瞑っている街には僕の嘆く声だけが響き、隣の彼が乾いた笑いを零す。もうちょっと夏っぽいことをしたい!とは思っていたが、こんなにもジメジメとした暑さで夏を感じたくはない。

「ねえ、若井。海行かない!?」

「え、今から?」

夏=海、という安直な考えの元、僕の口から突飛な提案が出た。もう既に時刻は22時。夜の海なんて危ないに決まっている。けれど、1度スイッチの入ってしまった僕の心は完全に踊っている。

「俺は酒飲んでないから運転出来るけど…、酔ってる涼ちゃん海に連れていくの怖いよ。」

「だいじょーぶだいじょーぶ!ほら、行くよ若井〜!」

「うわ、ちょっと!急に走ったら危ないって!」

納得の行かなさそうな表情を浮かべる若井の手を取り、急いで帰路を走り出す。手のひらから伝わるひんやりとした感触は、火照った僕の身体とは対照的で、不思議だった。


「あーーー!!わんちゃーーん!!」

「危ないから身乗り出さない、!!犬にも叫ばない!」

海の近くと言うこともあり、髪を靡かせる風がとても涼しい。助手席の窓を全開に開き、下がることの無いテンションのまま言葉を叫ぶ。運転席から若井の怒る声が聞こえるが、そんなのどうってことない。今日は、特別だから。

「こっち来ると何か人多いね〜。やっぱりお盆だから?」

「そうかもね。もうちょいあっちの方出れば人居なくなると思うよ。」

「GOGOー!!赤甲羅投げちゃえー!」

「マリカじゃないから。」

笑い声が絶えない車内。こんな身勝手な僕の行動に付き合ってくれる若井が楽しくて、嬉しいのに、何だかちょっぴり悲しい。酔っているせいか、情緒が上手く安定してくれないみたいだ。

「…っ、若井!ちょっとお店寄ってよ〜!」

「いいけど、なんで?お腹すいた?」

「ちがう。花火売ってないかな〜って。」

そういうことね、と軽く相槌を打った若井がウインカーを出し、左へと曲がる。いつのまにか零れ落ちていた涙が重力に従い、風に乗せられ夜の空気に溶けていく。何故だか酷く、頭が痛んだ。


人の居ない店内は涼しく、滲んでいた汗が冷えていく。季節物の花火は、入口の近くのコーナーに並んでおり、派手そうなやつを適当に選び手に取った。

「ちょっとお腹空いちゃった〜。甘いもの食べたい。」

「ええ?こんな時間に?」

「こんな時間だからだよ!食べたい時に食べるのが1番なの。」

絶対太るでしょ、と文句を並べている若井を無視し、スイーツコーナーへと足を運ぶ。僕を1人にできない若井は案の定僕の後ろを慌てて追いかけてきた。

「え、これ僕の大好きなやつ!」

スイーツコーナーに着くやいなや、僕の目には美味しそうなシュークリームが飛び込んでくる。前に元貴が買ってきてくれて、とっても美味しかった記憶がある。早速商品に手を伸ばした時、隣の若井が声を上げた。

「でもこれ1人1つまでだってよ。 」

商品のPOPの横に、おひとり様1点限り。と赤い文字で記されている。どうやら今日の広告の品のようで、人気商品でもあるらしい。でもそんなことは関係ない。若井の分も僕が食べればいい。

「じゃあ2つ買えるじゃん!」

若井は太るの嫌だもんね〜、と少しだけ煽りながらシュークリームに手を伸ばすと、若井が僕の手首を強く掴んだ。予想していなかった痛みに、体がびくりと大きく震える。

「…あ、ごめん。」

「……若井、?」

何だか纏う雰囲気の違う彼に怯えたような視線を向けると、それに気付いた若井がはっ、と慌てて手を離した。

「……買うの1つにしておきなよ。」

そう言い、「先に車戻っておくね」と足早に出口へと向かって行ってしまった。あんなにも機嫌を損ねてしまうことをしただろうか、と悩みながら、シュークリーム1つと花火を両手にレジへと向かった。


「お待たせ若井〜」

助手席の扉を開け、手に持っていた花火を雑に後部座席に置く。何故だか隣の彼は思い詰めたような表情をしていて、ハンドルを握る手に酷く力が籠っていた。

「若井、?」

「、…あ。ごめ、涼ちゃん!考え事してた。あ、シュークリーム買えたんだ。」

「……うん。若井も半分食べる?」

軽く肩に手を触れると、身体が大きくビクリと動いた。一瞬目を見開いた様子を見せたが、すぐにいつも通りの表情に戻ってしまった。若井だって日々忙しいし、考え事の1つや2つくらいするだろう。そう考え、特に気にしないことにした。

「大丈夫、涼ちゃんが食べな。」

「ほんと!?ありがとう若井!!」

「めっちゃ嬉しそうじゃん。」

揚々とした気分でシュークリームの袋を開ける僕を横目に、呆れたような笑いを零した若井がハンドルを握り直した。シュークリームも食べれて、海で花火も出来るだなんて。


今年の夏は思い残すことはなさそうだ。

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