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「なんか静かだね。」
「…だね〜。でもやっぱり暑いー!」
涼しいとも暑いとも言えないような生温い風が頬を撫でる。隣を歩く彼の首筋にも、汗が滲んでいた。
「夜なんだからちょっとくらい涼しくなってくれたっていいのにさ〜!」
「まあ、夏だから。」
静けさに目を瞑っている街には僕の嘆く声だけが響き、隣の彼が乾いた笑いを零す。もうちょっと夏っぽいことをしたい!とは思っていたが、こんなにもジメジメとした暑さで夏を感じたくはない。
「ねえ、若井。海行かない!?」
「え、今から?」
夏=海、という安直な考えの元、僕の口から突飛な提案が出た。もう既に時刻は22時。夜の海なんて危ないに決まっている。けれど、1度スイッチの入ってしまった僕の心は完全に踊っている。
「俺は酒飲んでないから運転出来るけど…、酔ってる涼ちゃん海に連れていくの怖いよ。」
「だいじょーぶだいじょーぶ!ほら、行くよ若井〜!」
「うわ、ちょっと!急に走ったら危ないって!」
納得の行かなさそうな表情を浮かべる若井の手を取り、急いで帰路を走り出す。手のひらから伝わるひんやりとした感触は、火照った僕の身体とは対照的で、不思議だった。
「あーーー!!わんちゃーーん!!」
「危ないから身乗り出さない、!!犬にも叫ばない!」
海の近くと言うこともあり、髪を靡かせる風がとても涼しい。助手席の窓を全開に開き、下がることの無いテンションのまま言葉を叫ぶ。運転席から若井の怒る声が聞こえるが、そんなのどうってことない。今日は、特別だから。
「こっち来ると何か人多いね〜。やっぱりお盆だから?」
「そうかもね。もうちょいあっちの方出れば人居なくなると思うよ。」
「GOGOー!!赤甲羅投げちゃえー!」
「マリカじゃないから。」
笑い声が絶えない車内。こんな身勝手な僕の行動に付き合ってくれる若井が楽しくて、嬉しいのに、何だかちょっぴり悲しい。酔っているせいか、情緒が上手く安定してくれないみたいだ。
「…っ、若井!ちょっとお店寄ってよ〜!」
「いいけど、なんで?お腹すいた?」
「ちがう。花火売ってないかな〜って。」
そういうことね、と軽く相槌を打った若井がウインカーを出し、左へと曲がる。いつのまにか零れ落ちていた涙が重力に従い、風に乗せられ夜の空気に溶けていく。何故だか酷く、頭が痛んだ。
人の居ない店内は涼しく、滲んでいた汗が冷えていく。季節物の花火は、入口の近くのコーナーに並んでおり、派手そうなやつを適当に選び手に取った。
「ちょっとお腹空いちゃった〜。甘いもの食べたい。」
「ええ?こんな時間に?」
「こんな時間だからだよ!食べたい時に食べるのが1番なの。」
絶対太るでしょ、と文句を並べている若井を無視し、スイーツコーナーへと足を運ぶ。僕を1人にできない若井は案の定僕の後ろを慌てて追いかけてきた。
「え、これ僕の大好きなやつ!」
スイーツコーナーに着くやいなや、僕の目には美味しそうなシュークリームが飛び込んでくる。前に元貴が買ってきてくれて、とっても美味しかった記憶がある。早速商品に手を伸ばした時、隣の若井が声を上げた。
「でもこれ1人1つまでだってよ。 」
商品のPOPの横に、おひとり様1点限り。と赤い文字で記されている。どうやら今日の広告の品のようで、人気商品でもあるらしい。でもそんなことは関係ない。若井の分も僕が食べればいい。
「じゃあ2つ買えるじゃん!」
若井は太るの嫌だもんね〜、と少しだけ煽りながらシュークリームに手を伸ばすと、若井が僕の手首を強く掴んだ。予想していなかった痛みに、体がびくりと大きく震える。
「…あ、ごめん。」
「……若井、?」
何だか纏う雰囲気の違う彼に怯えたような視線を向けると、それに気付いた若井がはっ、と慌てて手を離した。
「……買うの1つにしておきなよ。」
そう言い、「先に車戻っておくね」と足早に出口へと向かって行ってしまった。あんなにも機嫌を損ねてしまうことをしただろうか、と悩みながら、シュークリーム1つと花火を両手にレジへと向かった。
「お待たせ若井〜」
助手席の扉を開け、手に持っていた花火を雑に後部座席に置く。何故だか隣の彼は思い詰めたような表情をしていて、ハンドルを握る手に酷く力が籠っていた。
「若井、?」
「、…あ。ごめ、涼ちゃん!考え事してた。あ、シュークリーム買えたんだ。」
「……うん。若井も半分食べる?」
軽く肩に手を触れると、身体が大きくビクリと動いた。一瞬目を見開いた様子を見せたが、すぐにいつも通りの表情に戻ってしまった。若井だって日々忙しいし、考え事の1つや2つくらいするだろう。そう考え、特に気にしないことにした。
「大丈夫、涼ちゃんが食べな。」
「ほんと!?ありがとう若井!!」
「めっちゃ嬉しそうじゃん。」
揚々とした気分でシュークリームの袋を開ける僕を横目に、呆れたような笑いを零した若井がハンドルを握り直した。シュークリームも食べれて、海で花火も出来るだなんて。
今年の夏は思い残すことはなさそうだ。
コメント
6件
やっぱり樒さんのお話は本当に読んでて楽しいです!
ひゃー💕💕💕 樒さん〜💕💕💕 更新めちゃくちゃ嬉しいです!! ありがとうございます! 寝落ちしてましたが、目が覚めました笑 はぁ、また樒さんのお話が読めるなんて、幸せ✨ 樒さんの💙💛、やっぱり最高です😭 2人がどういう関係なのかめちゃくちゃ気になります!!
更新 待ってました ~ ! ! 🥹 ✨️ 今回 の お話 も 最高 です … ! ! 🎸 さん … 一体 何を 考えているのか 気になります … 🤔 💭 次回 の 更新 も 楽しみ に しております ! ! 😆 💞