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観客たちの視線は、彼ではなく板に集中していた。
舞台の上に立つ彼と、観客席にいる観客たち。
その両者の間には大きな隔たりがあり、 両者の距離もまた、大きく離れていた。
そして、彼はついに板の前に立つ。
その瞬間、板に書かれた文字が変化する。
そこにはこう書かれていた。
『汝、偽りを語るべからず』
その言葉を見て、彼は笑った。
「なんだ、簡単じゃないか」
彼は観客たちに向き直ると、口を開く。
だが、そこから出てきた声はいつもの声ではなかった。
低く野太い男の声でもなく、高い女の声でもなかった。
子供のように無邪気に笑う少年の声でもない。
その口調は、まるで大人のような落ち着いたものだった。
観客たちは戸惑っているようだったが、それでも構わず彼は話し続けた。
「さぁ、始めましょう。僕とあなた達のゲームを」
彼は、ある村にやってきた旅人です。
村の人達はとても親切でしたが、ひとつだけ困ったことがありました。
それは、村人達がみんな同じ顔をしていることでした。最初はただ単に個性がないだけだと思っていましたが、次第にそれだけではないことに気がつき始めていました。
何事にも無関心で、やる気がなく、自己主張が少なく、協調性に欠ける……そういった性格なのでしょう。
それに引き換え、自分はどうでしょうか? 顔立ちこそ多少整っていますが、特に優れた部分があるとは思えません。
つまり、自分以外の全員がハズレくじを引いたようなものです。
これならばまだ、全員クジを引く前に分かっていた方が良かったかもしれませんね。
しかし、いくら嘆いても状況は変わりませんでした。
そこで私は考えを変え、逆にこの状況を利用しようと決めました。
つまり、私が彼らの代わりに旅に出てしまえば良いのです。
そうすることで自分達の存在を隠匿し、平穏無事に暮らしてきたのです。
旅を続ける中でそのことを理解していった彼は、ある日とうとう我慢できなくなりました。
そこで、一計を案じて村人達に自分を殺すよう指示します。
突然の提案に困惑する彼でしたが、やがて理由を説明してくれました。
自分は神に選ばれた者であり、このまま放っておけば世界に災いをもたらすことになる。
そのため、自分に課せられた使命を果たすためにも、ここで自分を殺さなければならないのだ――と。
納得できないながらも従うしかないと考えた彼らは、言われた通りに彼を毒殺しようと試みます。
しかし、彼は毒入りの食事をわざと食べてみせたり、逆に何も口にしなかったりと、何度も隙を作りながら逃げ続けます。
なかなか殺すことができないと判断した彼らは、仕方なく罠を仕掛けることにしたのです。
まずは森の奥深くにある小屋へ誘導し、そこへ閉じ込めることで身動きが取れないようにさせました。
さらに、食料庫にあった食べ物を全て捨て、飢えさせて体力を奪う作戦に出たのです。
これでようやく準備が完了したと思った次の日、彼らは早速行動を起こしました。
しかし、いくら話しかけても返事をしてくれないどころか、誰一人として顔を上げようとしません。
そこで仕方なく、今度は食べ物を持ってきました。
しかしそれでも反応は同じで、食べてくれる気配すらありません。
途方に暮れて帰ろうとしたところへ一人の老人が現れ、「どうか彼らに話をさせてください」と言いました。
それを聞いて安心したものの、いざ話し始めるとその様子は全く違いました。
これまでの沈黙は何だったんだろうと思うほど饒舌になり、こちらの話も聞かず一方的に喋り続けています。しかもその内容はどれも嘘ばかりで、とても信じられるような内容ではありませんでした。
やがて話が終わる頃には、すっかり疲れてしまいました。
正直言って、二度と会いたくありません。
それにしてもあの話は一体なんだったのでしょう?をつく必要があったのでしょうか? もしかしたら、私達には想像できないような深い理由があるのかもしれませんね。