「バンドを辞めたい。」
二人からの申し出は、何となく予感していたものだった。
パンデミックに沈む世間。
人が集まる事は全てが悪とされる世の中。
先の見えない闇の中に、俺らはいた。
「オレとはもう散々やり合った後だから、オレは何も言わない。二人の意見が、聞きたい。」
目の下にクマが出来た元貴が、投げやり気味に問いかける。
涼ちゃんは、何も言わない。
ただ、まっすぐ二人を見つめてる。
「…夢を、追うの?」
ぽつりと彼の口から出た言葉には、何の感情も乗ってはいなかった。
「…うん、やりたい事が出来た。」
あやかはすぐ答えたけど、高野は何も言わなくて。
高野と涼ちゃんは見つめ合ってた。
「…そっか。僕も夢を追ってこのバンドに来たから何も言えないや。応援する、あやちゃん。」
「ありがとう…りょーちゃん…。」
「たかしは、後で聞く。家へ来て。」
涼ちゃんの高野へのその声は、冷たく無情に響いて。
その響きに、もう一度、みんなが黙った。
「…若井は?」
「なんか…もうどうでもいいや。」
みんなみんな、夢だったんだ。
夢だったら、よかった。
隣に座ってた涼ちゃんが、俺の手をぎゅっと握った。
指先がちょっと冷えたその手は、震えてた。
コメント
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タイトルがないのは、ミスではないです。