俺は敢えて訂正をしなかった。
ゾムも知っているように、職業柄、依頼内容は他言無用とされている「禁物」だ。
それを話し始めたとなれば、彼には何か策があるのだろうと思うしか無い。
彼らに「嘘」までついても実行させたい策が、あるのかも知れない。
「…たいじ」
「にげられる?」
紫色の彼がニコニコと笑う。
「いんや、俺らからは逃げられやん」
ゾムが答える。
「にげられるよ?」
赤い彼が達者になった口で言う。
「だって、ぼくらには「みかた」がついた」
何かに取り憑かれたかのように話す彼は、どこか俺らとは違う「人物」を見ているようで。
不気味さを包んだ空気がジワジワと体を蝕んで行く。
「…どう言うことや」
「もしかして、さっきの男のことか?w」
いつもは誘導する側の俺でもあまり分からなかった状況を、ゾムは答えてみせた。
今日はどうやら頭が早く回るようだ。
「うん。そうだよ」
また、紫色の彼が笑う。
「…じゃあアイツが居なくなっ」
「あいつはいいやつやで」
黄色い彼が口を聞く。
「アイツは、いいやつや」
彼の瞳が黄色く光る。
「手を出そうもんなら、「殺す」」
「…ははw」
自分の口から情けないほどの乾いた笑いが出てくるのが聞こえる。
隣のゾムから聞こえたのかと疑うほどのそれは、ただただ自身に無力な悔しさを植え付けていくだけだった。
「…どうやって逃げるつもりや?」
ゾムが冷静さを取り戻し机に肘を置き、両手に指を絡める。
いつもよりも深く被ったフードの中から聞こえる声は少し、殺気立っていた。
「どうやってだって」
「どうやってかぁ〜」
紫色の瞳が黄色い瞳を見る。
黄色い瞳は天井を見るも、すぐに目を閉じる。
「どうやって…ねぇ?」
その一瞬、子供とは思えない程の低い声が食堂内に響いた。
「…「手段は問わない」、でしょ?」
紫色の瞳が嗤う。
「ちょ、どこに行くつもり〜っ?」
「イイカラツイテキテ」
袖から指へ、小さな手が移動したと思えばどこかへと引っ張られていく。
小さな背中を追う途中、自分たちが出て来た食堂から何か小さな音が聞こえたのは気のせいだろうか。
「ネェ」
「ん?」
「ナマエ、オシエテ?」
「名前…、名前ねぇ……」
ごめんね…。
誰にも、本名は教えたことがないんだ。
「…らっだぁだよ」
「ラ…?」
「らっだぁ。君の名前は?」
「オレはミドリ」
「みどり…変わった名前だね?」
「ウン。カワッタナマエデショ」
コメント
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初見です、1話から見させれてもらいました最高です!
レウさんときょーさん小さいながら威圧感すごそう
さて問題です。 みどり君の最後の言葉は、どのような意味が含まれているでしょうか。