テラーノベル
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【Scene 1: 深夜のファミレス『ジョイフルガーデン』練馬店】
午前2時。
店内に客はまばらだ。
数組の酔っ払いたちと、テスト勉強をしているのか、突っ伏して寝ている学生らしき姿がいくつか。
その片隅、ドリンクバーに一番近いボックス席に、四人の大学生グループがたむろしていた。
彼らはここ一時間ほど、周囲を警戒するように小声で話し続けている。
「……で、どうなんだよ、タカシ。本当なのか?」
茶髪の男が、向かいに座る友人に詰め寄った。
「だ、だから本当だって。マジなんだよ」
タカシと呼ばれた青年は、黒いキャップを目深にかぶり、少し怯えたような声で答えた。
彼はポケットから自分のスマートフォンを取り出し、テーブルの上に置いた。
画面は暗い。
だが、彼が指でタップすると、ホーム画面に見慣れない、禍々しい黒いアイコンが一つだけ浮かび上がった。
「……これが『KAII HUNTER』……」
仲間たちが、ゴクリと唾を飲む。
「一昨日、夜中にトイレに起きたら、勝手にインストールされてたんだ。
消そうとしてもエラーが出て消えなくて……。それで、試しに起動してみたら……」
タカシは、周囲をもう一度見渡した。店員は奥で作業中だ。
「……見てろよ」
彼はそう言うと、テーブルの隅に置いてあったスティックシュガーに、右手をかざした。
「はっ! お前、何する気だよ!」
「静かにしろって。……いいか、集中するぞ……」
彼が目を閉じて、深く呼吸をする。
額に、じわりと汗が滲む。
数秒の沈黙。
やがて。
カタ、と。
テーブルの上のスティックシュガーが、小さく震えた。
「……っ!?」
仲間たちが息を呑む。
振動は止まらない。
カタカタカタカタと、まるで意志を持った虫のように震え続け、そして次の瞬間。
フワッ。
スティックシュガーが、テーブルから数ミリだけ浮き上がったのだ。
フユめん
519
#初心者だからつまんないかも....
バガラジー
733
#男主人公
パラレル・ゲーマー
173
パラレル・ゲーマー
2,839
「うおぉっ!?」
「ま、マジかよ!?」
思わず、大きな声が出る。
タカシは慌てて「シーッ!」と口に人差し指を当てた。
シュガーは力を失って、パタリと落ちた。
「……見ただろ? これが俺の『能力』だ」
タカシは、興奮と恐怖がないまぜになった顔で、言った。
「アプリには『SR:微弱念動』って書いてあった。
まだこれくらいしかできないけど……。でも、レベルを上げればもっと凄いことができるって書いてあるんだ」
「すげー……。マジですげーよ、お前……」
仲間たちは、羨望の眼差しで彼を見た。
「なあ、それ俺らにもインストールできないの? 招待とかないわけ?」
「ないよ。選ばれた奴にしか来ないんだってさ」
「チェッ、つまんねーの」
彼らの会話は、その後も続いた。
だが、その空気は確実に変わっていた。
退屈な深夜のファミレス。
ただ時間を浪費するだけだった日常の中に、突然「非日常」への入り口がポッカリと口を開けたのだ。
タカシの目には、これまでとは違う、暗く熱っぽい光が宿っていた。
「俺、このアプリ続けてみるわ。……なんか変われそうな気がするんだ」
彼の指が、スマートフォンの画面を愛おしげに撫でる。
その姿を、ドリンクバーの陰から、一人の清掃員の老婆が無表情で見つめていたことに、彼らは誰も気づかなかった。
老婆の影が、店内の照明とは逆の方向に、異様に長く伸びていたことにも。
【Scene 2: 丸の内のオフィス街・昼下がり】
高層ビルが立ち並ぶ、日本のビジネスの中心地。
ランチタイムの終わりかけ、カフェのオープンテラスで、二人のサラリーマンがコーヒーを飲んでいた。
一人はベテラン風の課長、もう一人は若手社員だ。
「――で、どうしたんだ? 鈴木(※別人)。急に呼び出して」
課長が、タバコの煙を吐き出しながら尋ねた。
「いいえ。ちょっと気になる噂を聞きまして……」
若手社員は、声を潜めた。
「課長、ご存じないですか? 『能力者』の話」
「はあ? なんだそりゃ。アニメの見過ぎか?」
課長は、呆れたように笑う。
「いえ、違うんです。うちの取引先の……A社の新人君、いるじゃないですか。急に退職した」
「ああ、いたな。優秀だったのにもったいない」
「彼、実は『引き抜かれた』らしいんですよ」
「引き抜き? どこにだ? 外資か?」
「いえ……。『裏の組織』にです」
若手社員は、スマートフォンの画面を見せた。
そこには、SNSの鍵垢(鍵付きアカウント)のスクリーンショットが映っている。
退職した新人の裏アカウントだ。
投稿されている写真は、明らかに異常だった。
高級外車の運転席からの自撮り。
背景には、見たこともないデザインの黒いカードキー。
そして、夜景をバックに、彼の手のひらから『青い光の玉』が浮かび上がっている動画。
『ついに来た。新しい仕事給料良すぎワロタ。一般社会の皆さんサヨウナラ』
そんなコメントが添えられている。
「……なんだこれは。CGか?」
課長が、眉をひそめる。
「そう思うでしょ? でも、これを見てください」
若手社員は、別のニュースサイトの記事を表示させた。
『都内深夜原因不明の発光現象多発。目撃者「プラズマのようなものが空を飛んでいた」』
「日付と場所、この動画と一致するんです」
「……」
課長は、言葉を失った。
「噂じゃ、選ばれた人間だけが入れるアプリがあって、そこで能力を開花させた奴は、政府公認の秘密組織にスカウトされるとか……。
給料も破格で、俺たちみたいなサラリーマンが一生かかっても稼げない額を、一晩で稼ぐらしいですよ」
「……馬鹿な。そんなことが」
「でも、現に彼は……」
ビルの谷間を、一陣の風が吹き抜ける。
サラリーマンたちが忙しなく行き交う日常の風景。
だが、その足元には、すでに見えない亀裂が走っていた。
「課長。もし……もしですよ」
若手社員は、課長の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「もし、課長のスマホにそのアプリが来たら……どうしますか?」
課長は、答えられなかった。
吸いかけのタバコの火がフィルターまで燃え尽き、彼の指先を熱く焼いた。
【Scene 3: 放課後・都立S高校の駐輪場】
夕暮れのチャイムが鳴り響く。
自転車置き場の隅で、三人の女子高生たちが、深刻な顔で話し込んでいた。
「……ねえ、やっぱりミカおかしくない?」
ショートカットの子が言った。
「うん。今日も休んでたし……。これで一週間だよ?」
ミカとは、彼女たちのグループの一人だ。
先週から、突然連絡が取れなくなり、学校にも来なくなっていた。
「LINE送っても既読つかないし。家に行っても、お母さんが『今は会わせられない』って……」
「病気かなぁ?」
「でもさ」
ロングヘアの子が、怯えたように口を開いた。
「私、見たんだ。先週の金曜日の夜……ミカが一人で、学校の裏山に入っていくの」
「えっ? 夜に?」
「うん。なんか、スマホ見ながらブツブツ言ってて……。あと、彼女の周りだけ空気が変だったの」
「変って?」
「……歪んでた。陽炎(かげろう)みたいに。で、彼女が指をパチンって鳴らしたら……、近くにあった枯れ木が、いきなりボッ! って燃え上がって……」
「うそっ!?」
「本当だって! 怖くなって逃げちゃったけど……。あんなの絶対普通じゃないよ」
沈黙が落ちる。
夕日の朱色が、コンクリートの地面を、どす黒く染め上げている。
「……ねえ」
一人が、震える声で言った。
「最近、TikTokとかで流れてくる『怪異ハンター』ってやつ……知ってる?」
「知ってる。能力者とかいう……」
「もしかしてミカも……」
「やめてよ! 怖いじゃん!」
彼女たちは、抱き合うようにして、身を縮こまらせた。
日常が壊れる。
昨日まで一緒に笑い合っていた友達が、ある日突然、手の届かない「あちら側」の住人になってしまう。
「……私たちの学校にも『いる』のかな」
誰かの呟きが、冷たい風に乗って、消えていった。
ふと、駐輪場の屋根の上に、一羽の黒いカラスが止まった。
カラスはじっと彼女たちを見下ろすと、カーッと一声鳴き、西の空へと飛び去っていった。
まるで、誰かに何かを報告するかのように。
ネットの深淵から湧き上がった噂は、もはや止めようのない勢いで、現実の世界を侵食し始めていた。
深夜のファミレスで。
昼下がりのオフィス街で。
そして、放課後の学校で。
誰もが、その影に怯え、そして心のどこかで、その力を渇望している。
「選ばれたい」。
その甘く危険な囁きが、灰色の日常を覆う薄皮を、少しずつ、しかし確実に突き破ろうとしていた。
世界は変わろうとしている。
その変化の中心にいるのが誰なのか、彼らはまだ知らない。
ただ、漠然とした予感だけが、都市の喧騒の下で、低く唸りを上げていた。
コメント
1件
うわあ、一気に世界が侵食されていく感じが不気味でたまらなかったです。特に、ファミレスのスティックシュガーが浮く瞬間の「フワッ」という表現が軽くて、だからこそ現実に起きたら怖いんだろうな…とぞくっとしました。カラスが報告するように飛び去るラストも、日常の裏側に別の意思が蠢いているみたいで、続きがすごく気になります。