テラーノベル
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食堂を出た後、私たちはルークの部屋に集まった。
……本当は私の部屋で話をしようと思ったのだが、何やらルークが難色を示してしまって。
曰く、『私がアイナ様のお部屋に入るなんて!』……らしいのだが、私の家の、私の部屋でもあるまいし。
そんなわけでルークの部屋に来たのだが、間取りは同じだし、荷物も同じくらい整頓してるし――
……特に変わりなんて無いんだけど、ルークが良いならそれで良いか。
「それじゃ、お話の前にお茶でも」
私はエミリアさんにお茶セットを渡して、私は錬金術でお湯を作る。
ルークは特にやることもなく、静かに椅子に座っていた。
「はい、お茶をどうぞ」
お茶を淹れ終わったエミリアさんが、カップを渡してくれる。
……はぁ、美味しい。
「それでアイナ様、お話というのは何ですか?」
「あ、うん。
早速本題に入るんだけど……これを見て欲しいの」
私はアイテムボックスから、今日作ったばかりのダイアモンド原石を取り出した。
ずっしりと重いこれを、しっかりとテーブルに置く。
「これはガラスですか?」
「ううん、ダイアモンドの原石」
「ぶふ――――ッ!?」
エミリアさんが豪快にお茶を噴き出した。
「ごほっ、ごほっ……。
す、すいません! アイナさん、大丈夫ですか!?」
大丈夫だけど……飛沫がめっちゃ掛かりました!
エミリアさんは申し訳なさそうにハンカチを渡してくる。
「えっと……アイナ様、本当にこれが……?」
ルークも驚きながら聞いてくる。
そりゃそうだ、私も驚いたんだから。
「うん。錬金術で色々試してたら、出来ちゃった」
「出来ちゃったって……?
アイナさん、こんなのまで作れちゃうんですか?」
「はい、材料があったので……」
「えぇ……。ちなみに材料って、何ですか?」
「炭」
「「え?」」
「これ」
私はアイテムボックスから、黒い炭を取り出した。
二人はそれをまじまじと見つめる。
「アイナさん。これ、炭ですよね」
「はい、その通りです」
「アイナ様。こんなに黒いものが、何で透明になるのでしょう」
……さぁ?
それはこの世界が、そういう風に創られているから――
「……炭を限界まで細かくして、並べ替えるとこうなるラシイヨ?」
私も化学は詳しくないからね。
元の世界では既に社会人だったし、学校で勉強していたとしても……きっと忘れているだろう。
「へぇぇ……。
錬金術って、本当に凄いですねぇ……」
エミリアさんは、ダイアモンド原石を恐る恐るつっついている。
「それで、鑑定でざっくり値段を調べたら……金貨2000枚くらいでした」
「へぁ!? に、にせんまい……ですか?」
「サイズも大きいですし――
……私が作ったものだから、品質もS+級になっていますので」
「――……」
エミリアさんは、私を呆然とした目で見てくる。
「アイナさんは、これを作り続ければ億万長者に……」
「ま、まぁそうなんですけど、でもダイアモンドって希少価値ですからね。
あまり作りすぎると、価値が下がっちゃうんじゃないですか?」
……それに、ヴィクトリアのように難癖を付けてくる輩も出て来るだろうし。
「そ、そうですね……。
それで、これはさっさと売っちゃう感じですか?」
「錬金術だと、宝石のカッティングがそこまで上手く出来ないんですよね。
売るにしても、色々と売り方があるような気もしますし……」
「高価なものは、それはそれで売りにくいですからね。
でも、急ぎで売る必要が無ければ、タイミングを見計らう形で、わたしは良いと思います!」
エミリアさんは空を仰ぎながら、うんうんと頷きながら話す。
「そうですね、私もそう思います。
目下、魔物討伐の依頼はしていきたいですし」
そもそも、ルークは魔物討伐をしたがっているからね。
お金にもなるし、戦いの経験も手に入るし――
「……それじゃこれは一旦保留にして、引き続き依頼を受けていきますか」
「はい、是非よろしくお願いします」
「わたしもそれが良いと思います!」
うん、真面目な人たちで良かった。
人によっては『お金がたくさんあるぞ! 遊びまくるぞ!』みたいな考えになる場合もあるだろうし。
「……はぁ。それじゃ、ひと段落っと」
「アイナさん? ひと段落って?」
「急にこんなものが作れちゃったから、私もびっくりして。
これはタイミングの良いときに売るということで、私の中でようやく整理が付きました」
「作れちゃった……っていうのも、凄いんですけどね」
「エミリアさん、同感です。そしてアイナ様、さすがです」
……はい、いつもの通りにまとめられました。
ぐぬぬぬ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、少し話をしてから今日は解散になった。
明日は冒険者ギルドに行ってみて、長時間並ぶようでなければ依頼を受けることに――
……もしも依頼を受けられなかったら、何をしようかな?
依頼なしで魔物討伐をしても良いんだけど、やっぱり目的が無いとね……。
「ふにゃーん」
変な声を出しながら、ぼふんとベッドに飛び込む。
今日は朝から、何だか色々なことがあった気がする。
そのせいで、魔物討伐をした日よりも疲れた感じがしなくも無い。
……うーん?
でも魔物討伐はあれはあれで疲れるし、戦闘ならではの緊張があるからなぁ。
疲れの大小ではなくて、違う種類の疲れって言うか……。
――それにしても、ダイアモンド原石で金貨2000枚!
この事実は大きいよね。
金策の状況が一変するから、時間は掛かるとしても、タイミングを見極めて早々に売ってしまいたいところだ。
しかしそう言うのは簡単だけど、どうやってそのタイミングを見極めれば良いものか……。
こういうとき、商人の知り合いがいれば良いんだけど――
そんなことを考えながら、とりあえず今まで会った人を思い浮かべてみるものの……ハマる人は、やはりいない。
……うーん。それはこれからの出会いに期待することにしよう。
ダイアモンド原石はひとまず置いておいて、引き続き真面目に金策に励まないといけないからね。
……つまり、結局は今までと一緒なわけだ。
よーし、明日からもまた頑張るぞー!
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