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かなり昔になるけど、地元の某金属加工メーカーにて人材派遣で働いていた。
仕事内容は上下二枚の金属片を機械の型にセットし、左右の押しボタンを同時押しすると型がプレスされ、エアーで射出されたリベットが金属片に突き刺さって固定されるという単調なもの。
なんで同時押しかといえば、作動中に不用意に手を入れて挟まれないようにするための配慮だ。
これを三交代制で1日24時間、何千枚もひたすら繰り返すという忍耐力に挑むかのような地道な作業だった。
さて、そこの現場にはシルバー雇用で正社員からスライドしてきた年配のヌシがいて、これがとにかくキツイ奴だった。
機械を動かす以外の、資材調達などの作業はすべて他人任せ。
何かトラブルがあっても自分一人では対処できない。
そのクセ、ベテラン風を吹かせて大口ばかり叩き、僕たち派遣組を完全に足下に見てるという、とにかくヤ〜な奴で、同僚たちから嫌われまくっていた。
…問題のその日は休日出勤日で、よりにもよってそのヌシと二人きり。
他のラインに何人かついてたけど、うちの現場は別室で隔離されてるから他の作業者は滅多に来ない。
僕は比較的マジメに働いてたから、ヌシにも比較的可愛がられてはいたけど、内心では憂鬱で、あ〜早く勤務時間終わんねーかなーとばかり考えながら作業していた。
で、資材を取りに数分ほど席を外し、再び現場に戻ってきた途端、
「のりたまくん、ちょっと見てくれるかな?
なんだか様子がおかしいんだ」
ホラさっそくおいでなすった。今度はなんだ、プレスミスか? リベット詰まりか?
「ちょっと感覚が無くなっちゃってね…」
と言いながら、ヌシは自分の右手を差し出す。
機械トラブルじゃなくてオメーの身体の調子かよ!?
しかもその手、なんだか…人差し指の爪が剥がれて…いや、爪の部分そのものが見当たらなくて…なんか…指先が真っ赤に染まって…短くなってる?
「……!?」
人間いざというときは判断能力が鈍るもので、僕はようやくその異常事態に気づいた。
このジジイ…指落としやがったッ!!
「うわっ、ダメだこりゃ!」
叫ぶなり、僕は慌てて別室にいる責任者を呼びに行った。
…その後の工場内はもう阿鼻叫喚の大混乱で、もはや仕事どころじゃなくなった。
ヌシは他の社員の車に乗せられ救急病院へ直行。
ここ最近ただでさえ労災が多くて社長から発破をかけられていただけに、正社員たちは皆、頭を抱えていた。
一人、現場に残された僕は…こんな時はかえって冷静になるもので、まずはヌシの機械の後始末を行っていた。
作業台のあちこちに血飛沫が飛び散っているが、それほど多くはないから簡単に拭き取れた。
左右の押しボタンには異常なし。てゆーか両手押しだから、ここで異常が発生する訳がない。
と、いうことは…指を挟まれたのは、プレス後に型が開いたときか?
そもそも指を挟まれそうな箇所なんてそう多くはなくて、型を上下動させるためのエアーシリンダーぐらいしか…
「……あった。」
シリンダーの隙間に、ぺちゃんこに潰れたヌシの指先を発見した。ちゃんと爪も付いてる。
「マジかよ…!?」
気分はブラッド・ピット主演の戦車映画『フューリー』冒頭、敵弾の直撃を受けて車内に飛び散った乗組員の頭部を主人公の新米兵士がビビりながら片付ける、あのシーン。
でもあっちはつぶらなお目々、こっちはたかが指先だからさほどの恐怖はない。
シリンダーにこびり付いたソレを素手でペリッと剥がして、責任者のところに持って行った。
「コレ…もうくっ付きませんよね…?」
責任者は露骨に青ざめて、
「…捨てといて。」
とはいえ何かに使えるかもとティッシュにくるんでしばらく持ち歩いてたけど、やっぱ捨てた。
その後、ヌシは指先一本だけにもかかわらずひと月以上入院していたが、社長には相当ドヤされたらしい。まだそんな時代だった。
僕はといえば、派遣会社の都合で別の現場に移ることになり、その工場はそれっきりになった。
せっかく仕事に面白さを覚えてきたところで、結局、仕事が手に付かなかったなぁ…と。
そして指先も元通りには付かなかったなぁ…とゆーお話。
…今回は少しの不思議も無かったね。