夏休みが終わって、学校が始まってから数日。俺は自分の中で、もやもやした感情を抱え続けていた。
それは、千奈のことだ。
…好きなんだ。間違いなく、俺は千奈が好きだ。
だけど、この気持ちをどうやって伝えたらいいのかわからない。恋愛のことになると、俺は本当に不器用すぎて、考えるだけで空回りする。
兄弟たちはみんな、どこかで恋愛を楽しんでるみたいだけど、俺はどうしたらいいのか全然わからない。
「清水…ちょっと、話があるんだけど。」
放課後の教室。机に向かって委員会の書類を整理していた千奈に、俺は思い切って声をかけた。
千奈が顔を上げて、俺を見てくる。その瞬間、俺の心臓は跳ね上がったけど、なんとか平静を装った。
「うん、なに?」
千奈はいつも通りの、優しい声。だけど、ちょっとだけ驚いているようにも見える。俺がこうやって声をかけることなんて、あまりないからだろう。
「えっと…ちょっとだけ、外で話せない?」
俺はそう言って、教室の廊下に千奈を連れ出した。
廊下には、夕方の柔らかい光が差し込んでいる。人気の少ない空間に、俺と千奈の二人だけが立っていた。
「それで、話ってなに?」
千奈が不思議そうに首を傾げる。その仕草がまた可愛くて、俺は緊張で頭が真っ白になりそうだった。
「えっと…その…最近さ、よく一緒になること多いよな。」
「そうだね、委員会のこととか、たまたま近くにいることも多いし。」
千奈は穏やかに頷きながら答える。俺の心臓の音が自分の耳に聞こえそうなくらい、緊張していた。
「その…俺、清水のことが――」
言いかけたその瞬間、学校のチャイムが鳴り響いた。
「――っ!」
肝心なところで、タイミングが全部崩れる。俺は思わず拳をぎゅっと握りしめた。
「チャイム…もうそんな時間なんだね。」
千奈が微笑んで時計を見る。その表情が何も知らないみたいで、余計に俺は落ち着かなくなる。
「えっと…なんでもない!委員会のことで、なんか聞こうと思ったんだけど、忘れた。…じゃあな!」
勢いだけで言い訳して、その場から逃げるように歩き出す俺。後ろから千奈の「そうなんだ、また明日ね!」という声が聞こえるけど、振り向けなかった。
家に帰っても、俺は悶々とした気持ちで布団に突っ伏した。
なんで、あのタイミングでチャイムが鳴るんだよ…。しかも、俺の緊張をほぐしてくれる千奈の笑顔が、余計に自分の不甲斐なさを痛感させる。
「はぁ…」
深いため息をついて、俺はそのまま眠りについた。
次こそ、ちゃんと伝えられるようにしなきゃ。そう思いながら、心の中で小さく決意した。
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