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何か変わったことがあるわけでもない。ただひとつだけ、新しい環境に身を置いた。それだけのことだ。「じゃあ出席番号1番から自己紹介してください」
先生の指示に従って1番の男子が立ち上がり、名前、出身中学と簡単に言って座る。そして何事もなく次へと回っていく。
「では次、出席番号14番」
「は、はい」
そう返事して立ち上がったのは『彼女』だった。彼女が緊張した面持ちで前に出ると教室中の視線が一斉に集まる。
「えっと……篠崎花蓮です。東京から来ました……」
彼女は少し間を置いて続ける。
「……よろしくお願いします……」
そして彼女は軽く一礼して席に戻った。
私は彼女から目が離せなかった。
透き通るような白い肌に真っ黒な髪とブラウン気味な目の色。まるで作り物のように均整の取れた顔立ち。
一通り自己紹介が終わったあと、案の定クラスの男子が彼女の周りに群がっていた。
「ねぇ、どこから来たの?」「部活とか何やってた?」
周りから質問攻めにあってるにも関わらず彼女は驚くほど落ち着いていた。まるで質問に全て答えられるかのように一人一人丁寧に対応していた。
気がつくと授業開始のチャイムが鳴っていて、みんな慌てて席に着いた。そして先生が入ってきて授業が始まったが、私は上の空で先生の話を聞いていなかった。
私は彼女に惚れてしまったのだろうそう認識するまでさほど時間はかからなかった。ふと視線を感じて前を見ると彼女と目が合ってしまった。すると彼女は少し微笑んでまた授業に戻った。
私は急に恥ずかしくなって視線を黒板の方に向けた。
「じゃあ日直、号令を」
「気をつけ、礼」
「「ありがとうございましたー」」
そして放課後になった。みんなが思い思いに友達を作って帰る中、私はぼーっとしていた。すると目の前にいた篠崎さんが私に声をかけてきた。
「ねぇ、一緒に帰らない?」
「え?あ、いいよ」
篠崎さんはクラスの中心人物で、休み時間には彼女がいないと話題がなくなってしまうほどだった。彼女の周りは常に賑やかでいつもみんなの輪の中心にいる存在だった。
「じゃあ帰ろ!」
そして2人で家路に着いた。彼女は口数が多く、私は聞き役に徹していた。でも不思議と嫌な感じはしなかった。
「ごめん、私こっちなんだ」
そう言って彼女は申し訳なさそうに言った。どうやらもう別れ道のようだった。
「そっか、じゃあまた明日ね」
そう言って私は彼女を見送った。彼女の姿が見えなくなると私は自分の家に向かって歩き出した。
それから1週間、私と篠崎さんは仲良くなっていった。
「ねぇ、花蓮って呼んでもいい?」
「いいよ、私も美桜って呼ぶね」
「うん!よろしくね」
花蓮は明るくて優しくてとてもいい子だった。そして何より美人だった。私は彼女と一緒にいる時間が楽しくて仕方がなかった。
でもそんな日々も長くは続かなかった。ある日を境に花蓮が私を避けるようになったのだ。
「ねぇ花蓮、一緒に帰ろ?」
「……ごめん……今日は用事があるから」
そう言って彼女はそそくさと教室を出て行ってしまった。私は避けられてる理由がわからなかった。だから思い切って直接聞くことにした。
放課後になり、帰ろうとする花蓮を追いかけて声をかけた。すると彼女は一瞬驚いたような顔をした後すぐに笑顔になった。でもその笑顔はいつものような自然なものではなくどこか無理をしているようなものだった。そして彼女は口を開いた。
「どうしたの?美桜」
「どうして最近一緒にいてくれないの?」
「別に理由なんてないよ、ただ一緒にいるのが当たり前になりすぎちゃったからさ」
「嘘だ。絶対に何か理由があるはずよ」
すると彼女は少し困ったような顔をした。
「……美桜は私のこと好きなの?」
「え?そ、そりゃ好きだけど……」
私がそういうと彼女は少し悲しそうに笑って言った。
「そっか……じゃあ私の秘密教えてあげるね」
そして彼女は私の事を目で捉えてはっきりと言った。
「美桜の事、恋愛的に好きなの…」
「え?」
「急に言われても困るよね、ごめん。」
「違う!私もっ!花蓮の事…好き…」
「ほ、本当?」
「冗談でこんな事言わないよ」
すると彼女は私に抱きついてきた。彼女の体温が直に伝わってくる。それだけでドキドキしてしまう。
「嬉しいよ、美桜」
「うん、私も」
私たちは手を繋いで帰った。ずっとこの時間が続けばいいのに。