なんかね、私の友達が、めっちゃいい作品書いてくれたの!個人的にめチャ最高
それを載せても大丈夫と言ってくれたので、そんな神作品をここに載せますっ、
※これ以降の続編はありません
—## アメ 1〜5話
夜、雨。
僕は塾の帰り、ひっそりしたバス停に立っていた。
雨粒が跳ねる音ばかりが大きい。
イヤホンは電池切れ、ただ静かに雨に耳を澄ませる。
ふいに、隣に誰かが立った気配。
見知らぬ制服、濡れた黒髪、レインコート。
その女の子はイヤホンを片耳だけ差し、もう片方は鞄の上に垂れ下がっている。
「夜の踊り子、いい曲だよね」
彼女がふと呟く。
ドキッとする。まるで心を読まれたみたいだった。
「…知ってるの?」
「うん、毎日聴くんだ。雨、こういう夜にピッタリ」
そう言って遠くを見ている彼女。
色彩がぼやけて、世界ごと夜の中に沈んでいきそう。
「君も好き?」
「なんか…夜っぽくて、全部が。」
彼女は、ポケットから赤い飴玉を差し出す。
「雨の日は、ちょっと甘いほうがいいよ」
言われるがまま受け取り、口に入れる。
バスのライトが滲む。
「じゃあね」と手を振って彼女が乗り込む。
包み紙の手触り、舌に残る甘さ。
ぼんやりと響く「夜の踊り子」のフレーズと、消えていく靴音。
たしかに始まった一瞬と余韻だけが、夜に残った。
また雨。火曜日の夜。
僕は前よりも早くバス停に向かっていた。
ちょっと期待して、傘を忘れたふりで立ってみる。
けれど、そこに彼女はいなかった。
バスのライトが近づく頃、不意に声がする。
「やっぱり、来てた」
振り返ると、彼女が傘をささずに立っている。今日は制服の上から水色のパーカー。
イヤホンから音漏れ。「夜の踊り子」のイントロ。
「…また雨だね」
「雨の夜は、ここが好きなの」
「どうして?」
「雨が、みんなや町の音を消してくれるから。」
イヤホン片方差し出す彼女。ふたりの世界にだけ流れる「夜の踊り子」――
バスが来て、並んで座る。
「またね、雨の日に」
心もわずかに濡れて、夜が静かに揺れていた。
また雨の日。
僕はもう迷わずこの場所に来る。
自販機の灯りの下で、また彼女が歌っていた。
「夜の踊り子じゃないの?」と聞いたら、
「たまには違うのも良いよ」と新しい曲を流してくれる。
今日は水色の包み紙の飴。
手渡す時、彼女がふと言う。
「名前、訊かないんだ?」
「知らないままでもいいかも」
「雨の日のバス停だけの“誰か”って、ちょっといいよね」
言葉少なに、ふたりバスに乗る。
この胸の高鳴りも、夜に滲んでいった。
次もその次も、雨の日だけ再会する。
「天気予報、気にしてるでしょ」と茶化されて、「たまたま」と答える。
今日の曲は「アルクアラウンド」――
イヤホンから流れる、リズムと夜の足音。
「この曲を聴くと、遠くまで歩きたくなるよね。どこか知らない街、誰にも邪魔されず歩き回るの」
「今度、アルクアラウンドしようか。バス停じゃなくて。」
そう言いかけて、照れて「たとえば、だけど」とごまかす。
車内で彼女が包み紙に小さく“また歩こう”と書いて渡す。
「バス停の夜だって、じゅうぶん冒険なんだよ」と彼女は笑った。
雨と歌と飴玉が、見知らぬ夜を少しだけ素敵なものにしてくれていた。
梅雨の終わり、小雨の夜。
沈黙のままバス停に並んで立つ。今日は音楽さえいらなかった。
「今日で、ここは最後かも」
突然、彼女が言う。
理由は言わない。けど、その目は遠くを見ている。
「これ、あげる」と、いつも片方だけ耳にしていた赤いイヤホンと、最後の飴玉。
「また雨の日に、どこかですれ違えたら…名前、教えてもいいかな」
バスが来て、彼女は乗り込む。
残された僕がイヤホンを耳に差すと、
「夜の踊り子」が優しく流れ始める。
雨音とともに、どこかで彼女も聴いている気がした。
楽しい時間は本当に一瞬だけ。でも、心の奥で静かに長く続いている。
コメント
1件
すご…凄すぎて言葉がでねぇ〜…