テラーノベル
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青年がゆっくりと口を開いた。「……君たちは、子供にまで手を出すのかい?」
その紫の瞳が鋭く光を帯び、狼獣人と人間を射抜く。
「なんだてめぇっ! 離しやがれっ!」
狼獣人は腕を引き抜こうとするが、青年の手は微動だにしない。
「はぁ……君たち、随分と落ちぶれたね。」
吐き捨てるように言うと同時に、青年の手がぎゅっと締め上げた。
――ゴキリ。
不快な音を響かせ、狼獣人の手首が握り潰される。
「ぐぎゃああっ!」
絶叫と共に膝をつく狼獣人。
「てめぇ! 調子に乗んな!」
人間の男が怒声を上げ、拳を振りかざして突進する。
「お兄さん、後ろっ!」
ヒヨリの必死の声。
青年はそれにフッと笑みを返すと、振り返りざまに膝蹴りを叩き込んだ。
ごふっと鈍い音。男は白目を剥き、そのまま宙に浮く。
間髪入れず、裏拳が唸りを上げて顔面を打ち抜いた。
轟音とともに男の身体は吹き飛び、背後のコンテナを盛大にへこませながら崩れ落ちる。
「……ったく。弱い奴が弱いものいじめなんて、見苦しいね。」
青年はそう呟き、口元に笑みを浮かべた。
「俺が……まだいるだろうがッ!」
倒れ込んでいた狼獣人が、最後の力を振り絞って背後から飛びかかる。
「――ッ!」
ヒヨリが声を上げるより早く、青年の紫の瞳が細められた。
刹那、空間が歪む。
ドン、と車に轢かれたかのような衝撃音とともに、狼獣人の巨体が横に吹き飛ばされた。
静寂。
青年はくるりと振り返り、ヒヨリに視線を向ける。
「……さて、大丈夫かい、坊や。」
先ほどまでの鋭さは影を潜め、そこにあったのはただ飄々とした笑顔だった。
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