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やっと声を張り上げた陽菜に向かって男は口に人差し指をあて「シーッ」と制止した。
「どうやら時間航行空間には入れたようだが、私がこれで」
そう言って扇子を一杯に広げるとさっきの光のパネルが現れた。それを陽菜たちの目の前に持ってくる。その光のパネルは明らかにコンピューターのキーボードだった。
「あのタイムマシンを外から操作して、時間、空間、両方の移動を制限した。場所も時間も私にはもう分かっている。さて君たちはどうする? このまま21世紀へ帰るのなら迎えを手配しよう。私はあのFDの少女を追跡して逮捕しなければならない」
「なら、一緒に連れてけ!」
陽菜は反射的に言った。何の迷いもなかった。フーちゃんはもう陽菜の友達だ。このまま最後まで見届けずに帰る気にはなれなかった。玄野と明雄も無言で陽菜に同意した。タイムパトロールの男はあっさりとうなずいた。
「よかろう、君たちも同行させよう。ただし、少し私に合わせて芝居をしてもらうよ」
三十分ほど後、陽菜、玄野、明雄は上皇の部屋の前の廊下に下の地面にひざまずいていた。廊下ではタイムパトロールの男が上皇と言葉を交わしていた。
「お上、どうやら、あの娘は元はれっきとした人、それが妖狐に憑依されたものと思われまする」
「ヒョウイ? 乗り移りであるか?」
部屋の御簾の向こうから上皇の弱々しい声がした。
「御意。どうやら供の者たちはその事を知らずにいた模様。嘘をついても陰陽師の目はたばかれません故に」
「さようであったか……」
「それにあの妖狐の居場所も既に八卦見で突き止めておりまする。力を使い果たし、その地にて再起を図っておるものかと」
「そ、それはどこじゃ?」
「は。下野(しもつけ)の国、那須野の辺りとにらんでおりまする」
「では、そなたが追手として行くと言うのじゃな」
「御意。あれほどの妖怪、陰陽師の加勢なくしては討ち取れますまい。お上、お願いの物はいかに?」
「うむ!よいであろう」
御簾の向こうから女官が廊下に出てきて大きな白い髪の包みを渡した。
「そちが院の命を受けている者である事の証しとなる印状である。持って行くがよい」
タイムパトロールの男は大きな封筒のような紙の包みを頭の上高く捧げ持ち頭を下げた。
「ありがたき幸せ。必ずや不埒な妖狐を退治して参りましょう」
「うむ、下野の国守にはすぐに早馬で正式な追討の院宣を出す。それで、その者たちをどうすると?」
どうやら陽菜たちの事らしかった。タイムパトロールの男が言葉を続ける。
「ともに下野の国へ連れてゆきとうございます。あの者たちも妖孤にたぶらかされていたのであれば、退治を手伝いたいと申し出まして。それに、あの妖狐に関わりがある者たちをこのまま院の近くに置いていくわけにもまいりますまい。万が一という事も考えると、われが同道した方がよろしいか、と」
「よい、そなたに任せよう」
「では、さっそく旅立ちまする。これにて御免」
タイムパトロールの男は扇子を取り出して例の立体コンピューターを起動させ、周りに大声で言った。
「怪しげな物がまた出て参りますが、これはわれの使役する式神にございますれば、ご心配召されぬよう」
数秒後、院の庭園にまたタイムマシンが出現した。形はフーちゃんの物と同じだが、色がこちらはメタリックブルーだ。騒然とした院の武者たちをなだめながら、男は陽菜たちをタイムマシンの操縦室に入らせた。
男が操縦席に座り計器を素早く動かす。すぐにタイムマシンは巨大な機体を空中に浮かび上がらせ、次の瞬間にはもう時間航行空間に突入していた。
それから十分ほどの短い間だったが、時間航行空間を移動するタイムマシンの中で陽菜たちは未来人の男とこんな会話をした。
明雄がまず言った。
「ええと、あなたの事は何と呼べばいいんです?」
「アベでかまわないよ。苗字の方は私の本名なのでね」
「ではアベさん。あの上皇の懐に入っていた球体は何なんです?」
「詳しく分析しないと確かな事は言えないが、おそらくは放射性セシウムの塊だろうね」
「セシウム?!」
玄野が驚愕の声を上げた。
「俺たちの時代の原発事故で大騒ぎになっていたアレですか?」
「そのようだね。なるほど、だから21世紀のあの時代に寄り道する必要があったのか」
玄野は少し青い顔色になってアベに尋ねる。
「だったらあの上皇様、死んじゃうんじゃ?」
アベは軽く頭を横に振って答えた。
「いや、それは心配ないだろう。確かに体調を崩したのは急性の外部被曝だが、短時間だったから深刻な健康被害ではない。念のために22世紀の治療薬を飲ませておいたから、一か月ほどで回復するはずだ」
今度は陽菜が訊いた。
「それでフーちゃんは今どこにいるの?」
「北関東の山の中だ。多分もうタイムマシンは動かなくなっているはず。私たちが上皇の屋敷にいた、あの時点から三日経過した時空に不時着したようだな。計算通りだ、おっと」
不意に計器の一つが断続的な警告音を発した。アベはそれを見て、さらに真剣な目つきになった。
「どうやらレーダーで捕捉できたようだ。私たちも降りるぞ」