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📖 第八章:「揺れる温度」
帰り道。
空はもう、夕焼けから夜へと変わり始めていた。
薄暗い青と、わずかに残るオレンジが混ざる曖昧な時間。
二人は並んで歩いていた。
会話はない。
足音だけが、静かに続く。
○○は少しだけ前を歩いている。
でも——完全に離れることはない距離。
さっきの言葉が、まだ残っている。
「壊れそうだから」
理解できない。
意味も、理由も。
それなのに——
なぜか、離れない。
○○:「……ね」
小さな声。
冴は少しだけ視線を向ける。
○○:「……なんで、わかるの」
足を止めずに言う。
独り言みたいに、軽く。
冴:「何が」
短い返し。
○○:「……壊れそう、とか」
一瞬の沈黙。
夜の風が、少しだけ強くなる。
冴はすぐには答えない。
ただ前を見たまま歩く。
そして——
冴:「別に、わかってるわけじゃない」
○○の目が、わずかに動く。
冴:「そう見えただけだ」
淡々とした声。
○○は何も言わない。
否定もしない。
肯定もしない。
ただ——
少しだけ、歩く速度が落ちる。
冴も、それに合わせるみたいに少し遅くなる。
無意識に。
○○:「……変なの」
ぽつり。
でも——
さっきより、少しだけ柔らかい。
その時。
前から、笑い声が聞こえる。
数人の男子生徒。
冴を見るなり、軽く声を上げる。
男子生徒:「お、冴じゃん」
「珍しく誰かと一緒だな」
視線が○○に向く。
一瞬で、空気が変わる。
男子生徒:「……え、誰?」
「その子」
「なんか暗くね?」
軽いノリのまま、でも遠慮はない。
○○は足を止める。
視線を下げるわけでもなく、ただ静かに立つ。
何も言わない。
冴はため息を一つ。
冴:「邪魔」
それだけ。
男子生徒:「は? 何その態度」
少し空気が尖る。
でも——冴は興味がないみたいに視線を外す。
冴:「行くぞ」
○○の腕を軽く引く。
強くない。
でも、はっきりとした動き。
○○は一瞬だけ目を見開く。
触れられた場所が、少しだけ熱い。
男子生徒:「……は?」
「マジで何なんだよ」
後ろから声が飛ぶ。
でも、もう振り返らない。
そのまま通り過ぎる。
少し歩いたあと——
冴は手を離す。
何もなかったみたいに。
○○はそのまま立ち止まる。
数歩遅れる。
冴:「……どうした」
振り返る。
○○は、自分の腕を見ている。
さっき触れられた場所。
○○:「……別に」
小さく言って、また歩き出す。
でも——
少しだけ距離が変わる。
さっきより、ほんの少しだけ近い。
沈黙。
でも、さっきまでとは違う。
完全な空白じゃない。
どこか、満たされているみたいな沈黙。
○○:「……ね」
また声を出す。
冴:「何だ」
○○:「……さっきの」
言葉が少し詰まる。
○○:「……あれ、普通にやってるの」
冴は少しだけ考える。
冴:「別に」
○○:「……ふーん」
興味なさそうな返事。
でも——
その耳は、少し赤い。
冴はそれに気づかない。
○○は前を向いたまま、少しだけ笑う。
ほんの一瞬だけ。
すぐに消える、小さな変化。
夜が、完全に降りる。
街灯がぽつぽつと灯る。
二人の影は、もう伸びない。
それでも——
隣にある温度は、確かに感じられる。
壊れそうだったものは、まだ壊れていない。
むしろ——
少しずつ、形を持ち始めていた。
でもそれが何なのか、二人ともまだ知らない。
ただ一つだけ確かなのは——
離れる理由が、少しずつ減っているということ。
END
コメント
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ああああああああ(化け物の悲鳴)翻訳:私もこんな青春したいな〜