テラーノベル
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「いたぞ」
リヴァイの見据える先には、女型の巨人。
(……あいつが、皆を。)
エレンの叫びと、鈍く響く音。
それを追って飛び続けてきた2人は、
遂に標的を捉えた。
だが、その姿を視界に収めた次の瞬間──
女型の顎が大きく開き、
エレンをうなじごと噛みちぎった。
「っ……」
(食われた……?いや、口に含んだだけ……?)
その光景を目にしたレイは、息を呑む。
「……間に合わなかったか」
リヴァイは小さく舌打ちをし、顔をしかめる。
女型はエレンを回収すると、静かに立ち上がり、兵団が来た道とは真逆の方角へ走り出す。
「追うぞ」
「はい」
2人は軌道を変え、
急ぎ女型の後を追った。
━━━
しばらく進んだ先。
女型が一瞬足を止める。
その視線の先にいたのは──1人の兵士。
「兵長、誰かいます」
「あいつは……」
2人は目を凝らす。
「ミカサ・アッカーマン」
「彼女が、なぜここに……」
レイは少し驚いたように呟きながら、
急ぎ周りの状況を確認する。
「……彼女1人のようです」
「他に追ってきた奴はいねぇようだな。」
「はい。詳しい状況は分かりませんが、あの巨人を新兵1人で相手にするのは不可能かと。」
2人は一瞬目線を合わし、加速。
リヴァイがミカサを回収し、
女型と一定の距離を取る。
「っ……な、なに!?」
ミカサが驚いたように声を上げる。
「一旦離れろ」
リヴァイが短く指示を出すと、
ミカサはそれに従った。
「突然ごめんね。でも、あの巨人には刃が通らない上、戦闘力でも圧倒的に不利だから。」
状況を理解しきれていないミカサに、
レイが落ち着いた声で説明する。
「今は、この距離を保って」
3人は一定の距離を保ちながら、
引き続き女型の後を追った。
「奴も疲弊してか、それほど速力はないように見える。」
リヴァイが女型を見つめながら続ける。
「うなじごと齧り取られていたようだが、エレンは死んだのか?」
ミカサの顔が更に険しくなり、
憎しみの籠った目で女型を見つめた。
「……生きてます。目標には知性があるようですが、その目的はエレンを連れ去る事です。」
「殺したいなら潰すはず……、目標はわざわざ口に含んで、戦いながら逃げています。」
ミカサは感情を押え、
出来る限り簡潔に状況を説明した。
「エレンを食うことが目的かもしれん。そうなれば、エレンは胃袋だ。普通に考えれば死んでいる。」
「生きてます」
リヴァイの想定に対し、
噛み付くように否定する。
「……だと良いな」
そら
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彼の返答を聞いたミカサは、
リヴァイを睨みつけ、勢いのまま続けた。
「そもそも、あなた方がエレンを守っていれば、こんな事にはならなかった!」
その言葉を聞き、レイは唇を噛み締める。
(……そうだ。違和感を感じた時点で、私が行動していれば、エレンは攫われなかったかもしれない。)
(それに、ペトラや皆を失わずに済んだかもしれない……。)
胸を焼く後悔が、一気に押し寄せる。
だが同時に、別の感情が湧き上がる。
(私が選択を誤った。
けれど、やはり奴が全ての元凶。)
「……必ず」
小さく呟く。
「必ず、私の手で」
計り知れない程の憎悪が、
静かに膨れ上がっていった。
そんなレイを横目に、リヴァイが口を開く。
「目的を1つに絞るぞ」
「まず、女型を仕留める事は諦める」
「「……!?」」
リヴァイの指示を聞いた2人が目を見開く。
「奴は、仲間を沢山殺しています……!」
「皮膚を硬化させる能力がある以上は無理だ」
「俺の判断に従え」
ミカサが直ぐに反論するが、
リヴァイは冷静に状況を判断し、話を続ける。
「エレンが生きている事に、全ての望みを賭ける」
「奴が森を抜ける前に救い出す」
鞘から引き抜かれたブレードが、
眩く光を反射する。
「俺が奴を削る」
「レイとお前は注意を引け」
ミカサは頷いた。
しかし──
「……私が奴を殺します。」
先程まで静かに話を聞いていたレイだが、
リヴァイの指示とは異なる行動を宣言。
そのまま加速し、単独で女型に突っ込んだ。
「……っレイ!!待て!!」
リヴァイが咄嗟に彼女を呼び止めるも、
レイは一切振り返らず、加速し続ける。
「クソッ……おい、作戦変更だ。」
「あいつと俺で女型を削って動きを止める」
「お前は死なねぇ程度に注意を引け!」
リヴァイはそう言い残し、
レイの後を追うように飛び出した。
━━━
(……絶対に、私がこいつを)
女型の迎撃範囲にまで辿り着き、
彼女の瞳は、宿敵の姿を捉えた。
女型も即座にレイを認識し、警戒を強める。
しかし、女型が瞬きをしたその瞬間──
足の健・関節など、下半身のあちこちに斬撃が走り、遅れて女型の脚が崩れた。
人並外れた速さと、身体を支える主要箇所を
的確に削ぎ切る正確性。
レイの斬撃は、残酷ながらも美しかった。
そして、女型が下半身を削がれた事を認識した
次の瞬間──
女型の視界は暗黒に囚われ、
腕を支える筋肉は根こそぎ削がれた。
「……ったく、先走るんじゃねぇ」
リヴァイの低い声が響く。
(……速い、速すぎて硬化で防ぐ暇もない)
圧倒的な力と連携で、女型を無力化した2人。
それを見たミカサが、呆気にとられる。
そして遂に、支えとなる筋肉を削がれた女型の腕は落ち、うなじが露わになる。
(っ……うなじが、狙える……!)
うなじを守る弊害がなくなった事を確認した
ミカサは、直感で判断。
(疲弊してる、きっと動けない。)
(殺せる───!!)
即座にブレードを持ち替え、臨戦態勢に入る。
そしてアンカーを女型に突き刺し、加速。
アンカーが刺し込まれた瞬間、
女型は小さく反応した。
ミカサは気づかない。
しかし、その様子を見た2人は僅かな変化に気付き、リヴァイが咄嗟に叫ぶ。
「よせ!!!!」
その叫びも虚しく、ミカサは全身の力を込め、
女型のうなじへと斬り掛かる。
だがその時、彼女を叩き落とそうと
女型の手が動いた。
ミカサの反応が遅れ、もうダメかと思われた。
その時だった───
女型の手首は宙を舞った。
同時にミカサの身体が強い力で引っ張られる。
「っ……」
勢いのまま宙に投げ出されたミカサの瞳には、
白く長い髪が映った。
状況をいち早く理解したレイは、即座にアンカーを打ち直し、ミカサの窮地を救った。
そしてレイの動きに合わせ、
リヴァイが女型の顎の筋肉を削ぐ。
「……エレン!!」
顎が外れ、口の中からは食われたエレンの姿。
ミカサは咄嗟に、彼の名を呼ぶ。
リヴァイは素早くエレンを回収し、
女型と距離を取る。
「……おい!ずらかるぞ!」
「……エレン」
ミカサがホッとしたように声を漏らす。
しかし、唾液のようなもので膜を張られた状態を見て、再度表情が曇る。
「多分無事だ。生きてる!汚ぇが……」
そんな彼女を安心させようとしたか否か、
リヴァイもエレンの無事を伝える。
その言葉を聞き、
ミカサの表情に安堵の色が広がる。
「もう奴には関わるな、撤退する。」
「作戦の本質を見失うな。自分の欲求を満たす事の方が大事なのか。お前の大切な友人だろう。」
そう言い、兵団の待つ方角へ飛び出す。
ミカサもその姿を追うように後に続いた。
「……」
しかし、レイは作戦完了後にも関わらず、
撤退はせずその場立ち尽くしていた。
「……?」
ふと後ろを振り返ったリヴァイが、どこかいつもと様子の違うレイを見て顔をしかめる。
「レイ!!何をしている、撤退だ!!」
自身の名を呼ぶ声。
その声は、確かに彼女に届いていた。
しかし───
「……すみません、兵長。」
レイは、身体中を削がれて座り込んでいる
女型へと視線を落とし、小さく呟く。
そして 木の枝から飛び降り、
再度立体機動に移った。
「……私は、この巨人を許す事は出来ない」
ブレードを構え直し、回復も追いつかない速度で腕・足・目など、主要器官を念入りに切り刻んだ。
その様子を見たリヴァイは、
小さく舌打ちをし、エレンをミカサへ投げる。
「っ……エレン!!」
突然の行動に、ミカサは声を上げエレンを抱き止めた。そして、彼を睨みつける。
「お前はエレンを連れて、
他の班がいる所まで戻れ」
「俺はあいつを連れて後を追う、いいな?」
ミカサはリヴァイを睨みつつも、軽く頷いた。
両者はそれぞれの方向を目指し、
再び動き出した。
━━━
女型が完全に弱りきった事を確認し、
レイは女型の肩へアンカーを突き刺す。
そして、出せる限りの最高速度で
うなじに迫り、刃を振るう。
カキンッ───
刃の折れる鈍い音が響き渡る。
女型は明らかに消耗している。
だが、うなじを硬化する能力は衰えなかった。
幾度となく折れたブレードの刃を見つめ、
ギリッと歯を鳴らす。
やるせない気持ちを抑え、
彼女は女型の頭上へ降り立つ。
「ねぇ、私の声聞こえてるんでしょ?」
「いい加減、出てきてくれないかな。」
普段通りの冷静な姿に見えたが、
その声は微かに震え、強い憎しみが籠っていた
彼女の問いかけに女型は反応せず、
ただ静かに身体の回復を続けていた。
その姿を見たレイは、右手に持つ折れたブレードを女型の頭に突き刺し、続けた。
「貴方は硬化で自分を守ったり、体を抉られても回復できたりするから良いわね。」
「対して私たちは、1度失った四肢は戻ってこないし、貴方が殴ったり蹴ったりすれば、蚊のようにいとも容易く命を落とす。」
ブレードを握る手に力が入る。
「私たちの仲間や家族を殺すのは楽しかった?」
「踏んだり、蹴ったり、噛みちぎったり……
あぁ、貴方の持つブレードに切り裂かれた仲間もいた。」
彼女の瞳からは光が失われ、
理性を削るほどの怒りを滲ませた。
「ねぇ、答えてよ」
「私たちの大切な人を奪った気持ちを……」
「答えろ……この人殺し!!!」
レイは感情を顕にし、強く叫んだ。
その瞬間、女型の身体がピクリと動き、
同時に女型の左手が彼女目掛け振りかざされた
「っ……」
(まずい、避けきれない)
急ぎ回避に移るも、感情の乱れからか、
普段よりも一歩行動が遅れてしまった。
その時──
彼女の目の前で、女型の腕が血を飛び散らせながら吹き飛んだ。
そして次の瞬間には、彼女の身体は宙に浮き、
女型の巨人から遠ざかっていった。
「……兵、長」
「てめぇは犬死するつもりか!!」
「感情に任せてバカな事するんじゃねぇ!」
彼女の身体を抱きかかえ、リヴァイは女型と
距離を離し続ける。
「兵長離してください!!私はあの巨人を殺さなければならないんです……!!」
「アイツは、ペトラを……仲間たちを……!」
レイは感情に飲まれ、その声は涙ぐんでいた。
「今のお前に、奴を殺せるのか?」
「その時々の感情に任せて、あいつらが繋いでくれた、この状況やお前の命を投げ打つのか?」
落ち着きを失っている彼女に、
リヴァイは淡々と告げる。
「今回の目的はなんだ?」
「アイツを殺すことか?いや、違うな。」
「俺たちの任務は、あのガキを守り抜く事だ」
「それはお前が1番、よく分かっているだろう」
リヴァイはレイの目を見つめる。
言葉は叱責に近い。
しかし、リヴァイの声はどこか優しかった。
「家族を殺されて、
奴の息の根を止めたい気持ちも分かる。」
言葉を続けながら、
リヴァイは彼女の背中をポンと1回叩いた。
「だが今は耐えろ。」
「あいつらの意思や行動が紡いだこの状況を
無駄にするな。」
「お前が、あいつらの意志を繋げ。」
「そしていつか、
あの野郎に報いを受けさせてやれ。」
レイの目からは、一粒の涙が零れた。
そして、女型に向かい叫んだ。
「お前はいつか私が殺す!!絶対に!!」
「逃げられると思うな!!どこへ行っても、どんな姿になろうとも、絶対に報いを受けさせる!!」
力の限り叫ぶと、レイの体からは力が抜け、
同時に抑えていた涙が溢れた。
(ペトラ……
貴方の仇は、いつか必ず私が討つから──)
そう強く心に誓い、
2人は巨大樹の森を後にした。
女型から離れる間、
彼女は子供のように泣きじゃくった。
普段の姿からは、想像が出来ない程に。
リヴァイは何も言わず、ただ優しくレイを抱えたまま、兵団の後を追う。
“ 作戦失敗 “
” 家族・仲間の喪失 “
2つの事実は、彼らの心に重く、
そして確かに残り続けていた。
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めっちゃ涙出た( ; ; )