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「ベッド、行こう」
そう言ったすちに、みことは慌てて首を振った。
「だ、大丈夫だよ! ほんとにちょっと切れただけで――」
「うるさい。俺が寝かせたいの」
一言でぴしゃりと封じられ、みことはしょんぼりと頷いた。
その後、すちは何も言わず、淡々と行動に移った。
救急箱を取り出し、清潔なガーゼと消毒液を用意し、そっとみことの腕をとる。
「痛かった?」
その問いかけはとても静かでやさしかった。
みことは、ほんの少しだけうなずいた。
「ちょっとだけ……でも、すちがこうしてくれると、もう大丈夫な気がする」
すちは言葉を返さず、代わりに傷口に細心の注意を払って消毒を施した。
みことが少し顔をしかめると、すちは指先でやさしく髪を撫でた。
「我慢しなくていいからね」
その声に、みことの心がじわりとほどける。
唇をかすかに震わせて、みことはぽつりとつぶやいた。
「……ありがとう、すち。優しすぎて、ずるいよ」
すちはガーゼを留めながら、苦笑いを浮かべた。
「ずるくてもいい。みこちゃんが笑ってくれるなら、それでいいよ」
みことの胸がきゅっと鳴った。
その後、すちはみことをそっと抱きしめたまま、ベッドに連れて行き、毛布をかけてやった。
「何か欲しいものある? あったかい飲み物? 甘いの?」
「……すち」
「ん?」
「すちがいてくれたら、何もいらないよ」
ぽそりと呟いた言葉に、すちは表情をやわらげて、みことの額にキスをした。
「その言葉、毎回やばいくらい嬉しい。……もう、ほんとに大事にするから」
「……もうしてるよ、十分」
微笑み合いながら、ふたりはそのまま静かに寄り添った。
何も飾らない、あたたかい夜が、ゆっくりと流れていった。
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翌朝。
カーテンの隙間から差し込む光に、みことはゆっくりと目を覚ました。
(……あれ? なんか、すっごく、あったかい)
ふわふわの毛布の感触と、すぐそばで聞こえる静かな寝息。
横を見ると、すちが自分を抱くようにして眠っていた。
(……あ。そうだ、昨日……)
怪我のこと、バレて、看病されて、ベッドまで連れて行かれて。
すちの手のひらのぬくもりなど鮮明に蘇ってくる。
(うう、なんか……なんかもう、甘やかされすぎて……!)
顔がじんわり熱くなって、思わず毛布に顔を埋める。
すちはまだ寝ている。起こしたくないけれど、このままくっついてるのも、なんだか恥ずかしい。
けれど、そんなみことのモゾモゾとした動きに、すちが目を開けた。
「……みこちゃん?」
「っ、すち……おはよう……」
すちは微笑みながら、みことの髪をくしゃりと撫でた。
「おはよ。どう? まだ痛む?」
「……ううん。もうほとんど大丈夫。すちが、すごく丁寧にしてくれたから」
「そっか。よかった」
柔らかい朝の光の中、すちの優しさがさらに胸に沁みて、みことは俯いた。
「……でもさ、ちょっと、甘やかしすぎだよ。さすがに恥ずかしい……」
ぽつりとそう呟いたみことの耳は、真っ赤だった。
すちはその反応に少し口角を上げて、くすっと笑った。
「照れてる? かわいい」
「っ、からかわないでっ……!」
「かわいいから言ってるだけ。嘘じゃないよ」
「……もう、ほんとに、すちってずるい……」
そう言いながらも、みことはちゃんと笑っていた。
恥ずかしさの中にある、嬉しさと安心。
そして、なによりも――“この人になら、甘えていいんだ”という、静かな信頼。
すちの腕の中で、みことはもう一度小さく目を閉じた。
あと少しだけ、このあたたかさに甘えていたいと、思いながら。
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