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俺は露天風呂のよこに日本で買ったパラソル付きのテーブルと折りたたみ椅子を取り出した。
長くお風呂に入ると水分補給は必要だよね。
テーブルの上には、お水・ジュース・アイスクリーム・ミルクセーキ・クレープ・牛丼などを並べていく。
「のぼせないよう適度に休憩はとるんだよー。飲み物とか用意したから適当にとっていってねー」
一休みしようとみんなに促しながら、俺はバスローブを羽織って椅子に腰掛けた。
もちろんシロとヤカンの分も忘れてない。
テーブルのよこに牛丼を出してあげると、二匹は尻尾をふりながらなかよく並んで食べている。
スライダーの方から戻ってきたメアリーとサキにもポンポンとバスローブを投げ渡し椅子へ座らせた。
(タオル生地のバスローブはしっかりと折りたたんで帯でとめています)
「じゃあお兄さん、そこの蒸しパンとオレンジジュースをください」
「ほいよ! しっかり遊べたかー」
「はい、楽しかったです。それにしてもメアリー姉さんの体力にはビックリです」
「えへへ、それほどでも~」
メアリーはシャビンシャビンのミルクセーキをロングスプーンを使っておいしそうに食べている。
「あたしも体力にはそこそこ自信があったのですが、ぜんぜんです」
蒸しパンをパクつきながら楽しそうに話すサキ。
「メアリーは獣人だし、小さい頃から鍛えているからなぁ」
「あ、それなんですけど、この町にはたくさんの獣人さんがいるんですねぇ。凄いです。楽しいです!」
あぁ――、サンタクレスは人族至上主義だからね。獣人が居たとしても、そのほとんどが奴隷だったんじゃないかな。
その点でいくと、このクルーガー王国では獣人だろうと関係なくのびのびと生活しているからなぁ。
「じゃあサキはしばらくこの町で暮らしてみるか? ダンジョンも近くにあるし、冒険者としてなら十分食べていけると思うぞ」
「えっ、それでも良いの~?」
「今なら日本に帰すことだってできるけど、せっかく異世界に来てるんだ楽しまないともったいないぞぉ」
「うん、お兄さんありがとう。あたし考えてみるね」
「まあ、日本とちがって危険なことも多いけどな」
と、その話はここで終わらせた。
今は楽しそうにメアリーとデ〇ズニーランドの話題で盛り上がっている。
スプラッシュ・マウンテンがどうたらとか、ちらっと聞こえてきたけど……。
作らないからな! そんなスペースどこにもないし。
あ、でも、デレクのダンジョンリビングに作るという手もあるか……。
いやダメだろう。みんなに公開できないし。
そしてカムバック最終日。
朝から慶子がクルーガーのお金をゴールドに換えて欲しいと言ってきた。
まあ、金 (ゴールド) に換えることは簡単ですけど……。
しかし地金のまま日本に持ち込んだとして、何回も換金していたら怪しまれるだろう。
いくら本物のゴールドであったとしても出所を聞かれたらアウトだし。
裏金というわけではないが、現代社会においてマネー・ロンダリングは非常に難しいのだ。
そういったわけで、ただいま金細工をいろいろと製作中である。
金の盃、金の箸置き、金の印台指輪など、デレクにいくつか作ってもらい慶子に渡している。
こういった【物】にしておいた方があとあと潰しが効くのだ。
長年祖母が集めてきたモノだとか、家の家宝だったとかね。
地球にある金貨でも再現 (コピー) しようと思えばできるんだけど、こちらも数が多くなれば疑われる可能性がでてくるからね。
………………
あちら (地球) へ渡る準備を整えたみんながリビングに集まってくる。
今回の同行者は、いつものメンバーである俺・シロ・ヤカン・慶子・メアリー・マリアベル・チャト・キロに加え、猫人族のタマを連れていくことになった。
タマがどうしても行きたいと言いだしてしまったのだ。
まあ、あちらの魚事情をキロがうっかり喋ってしまったことが原因のようだけど。
北の一部を除いては内陸部にあるクルーガー王国とちがって、海に囲まれている日本は魚が豊富だからね。
どのみち時間は止まっているのだし、たまにはタマ孝行もたまたまでいいだろう。
そして、もちろんサキにも一旦帰らないかと声を掛けたのだが……。
「あたし今回はいいや」
「えっ、みんなが心配してるんじゃないか? お母さんとか」
「…………」
「またこっちに来たいと思えば連れてくることだってできるし」
「…………」
「ゲンちゃん。それぐらいにしといてあげなさい。サキちゃんだっていろいろあるのよ」
慶子の言葉にサキもコクコク頷いている。
(いろいろか……)
すぐにでも帰りたがるだろうと思っていた俺はすこし戸惑ったが、
『まあ、あわてることもないか』
そう思いなおし、あとは本人の意思に任せることにした。
準備に若干手間取りはしたが、昼食を終えてからの出発となった。
全員に光学迷彩を施し、
――トラベル!
「「「「ただいまー!」」」」
「ワン!」
「コン!」
「ウニャン!」
「お邪魔しますニャン」
なんとも賑やかな帰還である。
「やぁおかえり~。さあ上がって上がって」
いつものように茂 (しげる) さんが出迎えてくれる。
「…………!? ご主人様、どうして誰も出てこないのニャ?」
「ああ、フウガたちは下の秘密基地に居るからね」
「でも、今日戻ることは知ってるはずニャン」
「ああ、まあ……」
「たるんでるニャ! ちょっと行ってくるニャ!」
あちゃ~、怒ってますよね~。
まあ、たしかに以前のような緊張感はないよな。平和ボケしてきたかな。
母屋の裏へタマを案内して転移台座への登録を済ませる。
俺も一緒について行こうとしていると、
「ご主人様は上でゆっくりしておくのニャ。タマひとりで行ってくるニャン」
そういい残し、タマは地下秘密基地へ下りていった。
居間にもどった俺は、帰還中に何事もなかったか茂さんから話をうかがっている。
すると、やはりというか、ダンジョン前でキャンプしている自衛隊から人が訪ねてきたそうだ。
来たのは昨日。
「ダンジョンに出入りしている者を見かけたが、心当たりがあればよろしく」
ただ、それだけ言って帰っていったそうだ。
(………………)
う~ん、そろそろ潮時かな~。
拗れないうちに、何をやってるのかだけでも説明すべきだよな。
現在、日本政府からは『ダンジョンへの立ち入り禁止』などの措置はとられていない。
これは政府がダンジョンについて今もなお秘匿しているからである。
なのでダンジョンを探索していても咎められることはないと思いたいけど……。
一方その頃、地下秘密基地では。
「おにゃーたちはご主人様が帰還したのに挨拶もしないで何してるニャ?」
怒気を含んだタマの声が基地内にこだまする。
「こ、これは、タ、タ、タ、タマ様。どうしてこちらに?」
「聞いているのはわたしニャ。それでフウガは何処にいるニャ?」
「も、も、申し訳ございません……」
タマに耳を引っ張られながら涙目で答えていく影たち。
そのころフウガは、
タマが来ていることなど夢にも思わず、悠々と温泉浴場で入浴を楽しんでいた。
「ふんふんふふ~ん♪」
鼻歌も絶好調のフウガである……が、
「真っ昼間から鼻歌うたって温泉とは、いい身分になったんだにゃーフウガ氏。とっても気持ち良さそうニャン」
フウガは湯舟から飛び上がった。
――ゴチン!!
天井に頭をぶつけてしまう程に。
クラクラする頭をおさえながら浴室の入口に目を向けると、鬼の形相で仁王立ちしているタマの姿が。
―― oh no!
怒りに満ち、ギラギラと光ったタマの目にフウガのタマは縮みあがった。
そして見事なまでのジャンピング全裸土下座である。
一列に正座させられたフウガと影たち。
「おにゃーたちは元々奴隷だったニャン。ご主人様が買ってくださらなければ、今頃どうなっていたかもわからないニャン。それにゃのに帰還の挨拶もせず昼から温泉入って太平楽ニャ?」
「「「「……………」」」」(汗)
「……それでフウガ氏、レベルはいくつになったんニャ?」
「「「「……………」」」」(汗)
「当然上がっているニャ? ダンジョンが目の前ならレベルも上げやすいニャン?」
「「「「……………」」」」(大汗)
タマ姉のお小言と説教はつづく……。
そうこうしている内に、健太郎 (けんたろう) 、紗月 (さつき) 、茉莉香 (まりか) が次々に学校から帰ってくる。
これよりダンジョン部の活動開始である。
装備を身に着けた者からダンジョンへ突入していく。
……それから2時間。
活動を終えた戦士たちが家に戻ってくる。
『もどってきた。黄泉の国から戦士たちが帰ってきた』
冗談だから……、シロも眉間にしわを寄せてモロのまねしないの。怖いから。
みんな引き締まった良い顔をしている。まさに命がけだからな。
嬉しくなった俺は近所のス〇ローから沢山の寿司を買い込み、臨時の【寿司パーティー】を開くことにした。
「タマもいいのかニャ? 嬉しいニャン!」
初めて見る沢山の寿司をまえにタマは目を輝かせている。
シロとヤカン、チャトにはそれぞれ ”ばら寿司” を出してあげ、健太郎には特盛牛丼を付けてやった。
んっ、寿司と牛丼ってどうなの? っと一瞬おもいもしたが本人は喜んでいるから、まぁいいだろ。
この思いも掛けない寿司パーティーにみんなは大喜びであった。
ただし、地下秘密基地ではフウガたちの正座はいまだに続行中であったが。
10月1日 (木曜日)
次の満月は10月26日
ダンジョン覚醒まで35日