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あれから、何日か経った。
勇斗と仁人と一緒に過ごしていても、仕事をしていても、ふとした瞬間に二人のことを思い出す。 何か特別なきっかけがあるわけじゃない。
ただ、いつもなら舜太に送っていたような話を見つけたときとか、柔太朗が好きそうな服を店先で見かけたときとか。
そういう、ほんまにどうでもいい瞬間に限って、二人がもういないことを思い知らされる。
いつもみたいに、どうでもいい話をして、くだらんことで笑って。それだけでよかったのに。
今になって、そんなことばかり考えてしまう。
「……あかんなあ」
考えたところで、何も変わらない。そう 分かっているのに、気持ちだけが、あの日からずっと取り残されたままだった。
その日、仕事帰りに、勇斗と仁人の元へ向かっていると、道の途中にある花屋さんが目に入った。 花屋さんの店先には、季節の花がいくつも並んでいた。
赤や黄色、淡いピンク。 普段なら、気にも留めずに通り過ぎていたと思う。
けれど、その日は違った。 ガラス越しに見えた花の中に、ひとつ、目を引くものがあった。
細い花びらがいくつも重なって、花の中心から外側へ向かって広がっている。光を受けた花びらの表面が、きらきらと小さく輝いていた。 まるで、花びらに細かな宝石が散りばめられているみたいやった。
「…これなんて花なんですか?」
気付けば、店員さんに声を掛けていた。
「ネリネですよ。ダイヤモンドリリーとも呼ばれているんです」
「ダイヤモンドリリー……」
名前まで、なんだか綺麗やった。
「ダイヤモンドリリーは、花言葉も素敵なんですよ。『また会う日を楽しみに』とか、『幸せな思い出』とか」
その言葉を聞いた瞬間、俺は何も言えなくなった。『また会う日を楽しみに 』『 幸せな思い出 』 今の自分には、あまりにも似合いすぎている言葉やと思った。
「……これ、ください」
店員さんが花を包んでくれた紙は白色で、リボンは赤色。奇遇だなと思いながら俺は、花を受け取った。
思っていたよりも、その花束はずっと軽かった。
「それ…どうしたの?」
「2人の家に持っていこうかなって思って」
「俺らも行こうか?」
「じゃあ3人で行こうや」
揺れるたびに、細い花びらがかすかに震える。
窓から差し込む光を受けて、花がきらりと輝いていた。
2人も、こんなふうに何気ない日常の中で輝いていたんやろうか。
自分たちにとっては、隣にいることも、声が聞こえることも、くだらない話ができることも当たり前やった。だから ずっと続くものやと思っていた。 失くしてからじゃないと、その当たり前の大切さに気づかれへんかった。
「…太智、着いたよ」
そう言われて顔を上げると、見慣れた場所が目の前にあった。それなのに、前とは何もかも違って見えた。
何を言えばいいのか、分からなかった。
会いたかった。 話したいことも、聞きたいことも、山ほどあった。
それなのに、いざここまで来ると、何ひとつ言葉にできない。
後ろにいる勇斗と仁人も、何も言わなかった。
急かすことも、慰めることもせず、ただそこにいてくれた。
ゆっくりとしゃがみ、持ってきた花束をそっと置いた。
白と淡いピンクのネリネ。 光が当たると、花びらの表面が小さくきらめいた。
「……これな、ネリネって言うんやって」
静かな声が、自分でも驚くほど自然に出た。
「ダイヤモンドリリーとも言うらしいわ。名前、めっちゃ綺麗やろ」
返事は返ってこないけれど、それでも俺は話し続けた。
「花言葉もええねんで。『また会う日を楽しみに』やって」
「…ずるいよなあ、そんなの」
「……なあ」
「俺は、2人とおった時間が何よりも好きやったで。楽しかったし、うるさかったし、ほんまに腹立つときもあったけど」
後ろでは仁人と勇斗が小さく息を漏らしていた。俺にはそれが笑っているのか、泣きそうになったのか分からなかった。
「……それでも、ずっと楽しかったで」
2人がいなくなったことは悲しい。もっとたくさん話したかったし、もっと一緒にいたかった。けれど、2人と過ごした日々まで悲しい思い出にしたくなかった。
「……また来るわ」
「今度はもうちょいええ花持ってくるからな」
そんな約束をしたところで、二人が喜ぶわけでもない。 分かっているけれど、言わずにはいれなかった。
光を受けたネリネが、静かに輝いていた。
その花言葉は、「また会う日を楽しみに」。
今はまだ、その言葉を信じられそうになかった。
それでもいつか、 二人と過ごした時間を思い出すとき、悲しさだけじゃなく、ちゃんと笑える日が来たらいい。
百本目の花が枯れる日が来ても二人と過ごした日々まで、枯れてしまうわけじゃない。
あの日、確かにそこにあった笑顔は、今も俺たちの中に残っている。
また会う日を楽しみに。
その言葉を胸の奥にしまって、俺たち3人はゆっくりと歩き出した。
これにて「100本目が枯れるまで」完結となります。
よいお話ではありませんでしたが、 最後まで閲覧いただきありがとうございました🙇🏻♀️🙇🏻♀️
コメント
3件
コメント失礼します 完結おめでとうございます.ᐟ この作品が本当に大好きで、最後まで読むことができてとても嬉しい限りです 素敵なお話を届けてくださり、本当にありがとうございました!!😭💕 完結してしまったのは少し寂しいですが、この作品に出会えてよかったです。 執筆お疲れ様でした!これからも応援しています🙇🏻♀️
「100本目が枯れるまで」完結おめでとうございます。読了後、静かな余韻に包まれています。ネリネの花言葉「また会う日を楽しみに」を選んだ太智の心の動きが、とても丁寧に描かれていて胸が締め付けられました。当たり前の日常の尊さを失ってから気づく切なさと、それでも前に進もうとする3人の姿に、自分自身の大切な人たちを思い出しました。素敵な物語を届けてくださって、本当にありがとうございます。