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シェアハウスのリビングは、薄くオレンジ色に満たされていた。カーテンの隙間から光が差して、床の木目をゆっくり辿っている。
夕方の静けさは、いつもより少し湿った空気をまとっていた。
えとはソファに座り、
膝の上にノートPCをのせたまま、編集を進めるでもなく閉じるでもなく、
ただそこに置いていた。
「それは集中してるのかしてないのか、どっちなの?」
じゃぱぱの少し笑い混じりが背中から落ちてきて、
えとは少し肩を揺らす。
「まったくしてないよ。
てか、今日むだに眠い」
「眠いときは寝るといいよ。無理して起きてても何も進まんし」
「それはそう。言われんでもわかってるよー」
じゃぱぱは、すこし呆れたような、
けど責めるでもない眼差しでえとを見た。
それだけで“気遣われてる”と気づかせるあたり、ずるい。
階段を降りてくる音がして、なおきりが姿を見せる。
髪が少し乱れていて、たぶん昼寝の名残。
「夕飯、どうする?
今日は正直作る元気ないんだけどさ」
そう言いながら、ソファの背に片手を置く。
ひろはすでにソファに座っているえとの横でスマホを見ていて、
しれっと会話に加わる。
「じゃぱさんが作ってみたら?今日人数少ないし量も多くないし」
「え?おれ?なんで?え?」
えとはPCをパタンと閉じ、
淡々とした声で言う。
「じゃっぴ、任せた。」
「作るのはいいとして誰か一緒に作ろろうよ 」
「んー、じゃあえとじゃが」
「わたし?」
「ま、好きなもん作っていいから」
「共同作業って案外楽しいんだよ」
普段あまり料理をしないふたりは少し不満気な顔もしながらも楽しそうな雰囲気もあった。
2人とも「えー、」と言いながらもキッチンに向かって、
冷蔵庫の中身を確認している。
たぶん結局作る気になっているのがわかるから、
ひろもなおきりも何も言わない。
えととじゃぱぱはキッチンに立つとまず何を作ろうと、スマホでぽちぽちと調べる。
少しすると決まったのか、冷蔵庫の材料を再確認して、作り始める音が聞こえてきた。
「えとさんに包丁持たせたらあぶなかっかしいから俺するわ」
「包丁くらいできますぅ」
「まあまあ、そっちの野菜の皮だけ剥いててよ」
何気に楽しそうに料理するふたりの声をきいて、ひろとなおきりは顔を見合せて笑う。
じゃぱぱがメインとなって料理を進めていたようで、割と作業は少なく後半はほぼ後ろに座って料理するじゃぱぱの様子を眺めていたえと。
「えとさん味見してみて」
イスにちょこんと座るえとの口元に匙を運び、少し冷ましてからそっと食べる。
「んん、結構うまいよ」
その言い方があまりに素直で、
じゃぱぱは一瞬だけ照れたように視線をそらした。
「そらよかったですわ」
味見をしている声を聞いてなおきりとひろもキッチンへやってきた。
「僕たちも味見しちゃおうよ」
「しようしよう、えとさん匙貸してー」
楽しみそうにえとから匙を受けとると2人とも順番に一口ずつ口へ運ぶ。
すると表情がぱっと明るくなり口角が上がる。
「いいじゃん、うまい」
「案外料理できるんだねじゃぱさん」
2人が褒めるとじゃぱぱはニヤッと笑い「だろー?」ときめる。
すぐに調子に乗る様子に3人は呆れながらも笑う。
「じゃあもうちょいでお米も炊けるからリビングで待ってて〜」
「はーい」
それから15分くらいすると夕飯が運ばてきた。ふんわりと湯気がたっていて温かいのが伝わってくる。
全員そろうと手を合わせて、いただきます!と言う声がリビングに響いた。
「で、結局えとさんは野菜の皮剥くのしかしてないってことなの」
「うん、案外やること無くてずっと眺めてた」
「えとさん料理できんの?」
「それなりには」
えとが微妙な顔をして返答する様子にほか3人は思わず吹き出すように笑う。
いつもとは少し違う、けど暖かい雰囲気の漂うシェアハウスだった。