テラーノベル
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それから数時間。私は科学王国に連れて行かれた。
小屋が並び、道具がごちゃごちゃしていて、
それでもどこか人の気配があって、あたたかくて。
”文明”とはほど遠いけれど、
それは”管理された世界”ではなく、
誰かが「作っている」世界だった。
私は静かに、そこに立っていた。
誰も無理に話しかけてこない。
けれど、私の目をまっすぐ見て、
ただ「一緒に居ていいんだよ」と言ってくれる目があった。
夕暮れ。
私は小屋の前に一人で座り、
ポケットからスケッチブックを開いた。
石化から目覚めてから、
ずっと描いていなかった。
まだ、この世界の”今”がよくわからなかったから。
描くことが怖かったから。
けれど今。
私の手は、自然に鉛筆を持っていた。
ひと筆、またひと筆。
誰かに教わったわけでもない。
だけど私の”視界の奥”には、確かに、絵が見えた。
そして私は、静かに描く。
ゴゴゴ……
地鳴りのような音が――”来る”気配。
私の中に”未来”が流れ込んでくる。
心の中で“誰かの声”が聞こえた気がした。
(千空……気をつけて……)
気づいたときには、
私は”それ”を描き終えていた。
スケッチブックの上には、
奇妙な地形と、崩れ落ちる岩場。
そして、その前に立つ――千空たちの姿。
私は急いで立ち上がり、
その絵を抱えて走った。
……いや、”走る”というほど速くはない。
でも、この足は確かに――動いていた。
「っ……!」
私は息を切らしながら、小屋の中に飛び込む。
千空が振り返る。
ゲンも司もいる。
私は無言で、絵を差し出した。
千空は絵を覗き込むと、目を細めた。
「……これ、さっきクロムたちが調査してたエリアだな」
ゲンが顔色を変える。
「まさか……何かが起きるってこと?」
私は、うなずいた。
千空が立ち上がる。
「よし、未来。検証してみる価値はある。――信じてみるぜ、お前の”未来”。」
それは、
誰かに「未来を信じて」もらえた、はじめての瞬間だった。
そのあと、
千空たちはすぐに現地へ向かい、”絵に描かれた崩落” を寸前で回避した。
予知は、的中した。
でも千空は、それを”奇跡”とは言わなかった。
ただ、「次も頼むな」とだけ言った。
私はまた、鉛筆を握る。
未来を、誰かのために描けることが、
こんなにもあたたかいなんて――知らなかった。
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