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「…春翔に手を出してみろ、お前の首ごと吹っ飛ばすぞ」
感情の起伏のない、冷たい声音。
「くそッ、そんなに大事か、兄貴がッ」
「…大事?」
雪乃は淡々と言葉を紡ぐ。
「そんなもんじゃない。
ーーーー春翔は、私の神様だ」
ぐっ、と枝を持つ手に力が入った瞬間、
「ーーーなぁぁぁにやっとるんやお前らぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
よく通る大きな声が響き、逃げ道を塞いでいた男2人を…投げ飛ばした。
雪乃はスッと小枝を落とす。
「ユキ!!!」
グッと腕を引かれ、顔に紙を貼り付けた男に引き寄せられる。
「…お前らなぁ」
そして大柄な男の胸ぐらを掴み、
「3人で寄ってたかってこんなとこ連れ込んで、ーーー許される思っとるんかコラァァァァァァ!!!!!」
背負い投げた。
男は雪乃の頭上を超え、他2人の上に落ちる。
「た、助かった!!」
「ひぃ!逃げろぉ!」
「あの女やべぇ!!」
男たちはポケモンも引き連れ、一目散に逃げ出した。
「…助かった?」
顔に紙を貼り付けた男子生徒は不思議そうに逃げて行く男たちを見た。
「気のせいですよ。それより、助けてくれてありがとうございました…ロボロ先輩」
雪乃は隣にいる柔道着に身を包んだ男子生徒を見た。
自分よりも一回りも大きい男を投げ飛ばした、顔に『天』という文字が書かれた紙を貼り付けた男…ロボロは「いや、間に合ってよかった」と雪乃を見た。
「怪我ないか?お雪」
「はい。大丈夫です。でも何でここが分かったんですか?」
「あー、実は道場の方からお雪の姿が見えて、こんなとこにおるなんて珍しいな思うて見てたら、あいつらに連れて行かれたから心配になって後つけたんや。…やっぱ来てみて正解やった」
ロボロは表情の見えない顔でホッと胸を撫でおろす。
「お雪が無事で良かった」
いい声で言われ、少しドキッとする。
本気で心配してくれていた事が伝わり嬉しいのと、
…見られてなくて良かった、という安堵。
「で、何でこんな所に連れ込まれてたんや」
「え?…あー、なんか私に用がありそうだったんで…」
「アホ、あかんやろそんな知らん男にのこのこ付いてったら」
「は、はい、ごもっともです。…ごめんなさい」
「たまたま俺が見とったから良かったけど…ほんま心配になるから、やめてや?」
優しい声音で雪乃の頭を優しく撫でるロボロ。
嬉しくてマフラーに口元を埋める雪乃。
「…私がピンチの時、いつも駆けつけてくれるのはロボロ先輩でしたね。…先輩は私のヒーローです」
何の気なしに伝えると、ロボロはパッと手を離す。
「な、なんや急に…そんな恥ずかしいこと言わんといて」
照れているのか動揺するロボロを、可愛いなと思いクスクス笑う雪乃。
そして2人は一緒に校舎裏を出た。
「で、何で高等部におるんや?」
「ちょっと人を探しておりまして…」
「誰を?」
「えっと、野球部の加島って人なんですけど…」
その人物の名に、「あぁ」とロボロはグラウンドを見る。
「知ってるんですか!?」
「うん。知っとるよ」
ロボロはグラウンドに近付き、指を差した。
「あの茶髪のイケメンが加島や」
雪乃はその人物を凝視した。
「ホントだイケメンだ!」
すごく爽やかなイケメンで目立っていた。
「良かった、実はどれが加島さんか分からなくて困ってたんです。ありがとうございます」
「いやいや、お役に立てて良かった」
「じゃあ私、もうちょっと近くで加島さんを待つので!教えてくれてありがとうございました!ロボロ先輩も部活頑張ってくださいね!」
加島を発見できて嬉しい雪乃は跳ねるように走りだす。
「おー、きぃつけてなー」と声を掛けてから、ロボロも道場の方へと戻っていった。