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数時間後。
だいぶ待った。
辺りも暗くなり始め、意気揚々と待っていた数時間前の自分ももうすっかり冷め切っていた。
漸く野球部も終わり、後片付けに入りだした。
雪乃は立ち上がり、加島を探した。
イケメンなのですぐ発見できた。
「あの、すいません、加島さんですか?」
雪乃はフェンス越しに話しかける。
「あ、はい。加島ですけど…」
片付け中だった加島は驚いた顔で雪乃を見た。
周りの部員たちもチラチラと見てくる。
「あの、私草凪と言います。ちょっと加島さんにお聞きしたい事がありまして…」
「え、草凪って…」
「あ、妹です」
多分春翔を知ってるんだろうなと思ったので、聞かれる前に教えると「おぉ、ほんとにいたんだ」と何故が嬉しそうに言われた。
「ちょっと待ってて。着替えたらすぐに行くから」
「はい。ありがとうございます」
雪乃はもう少し待った。
しばらくすると、「おーい、お待たせー!」と加島が走ってきた。
「ごめんね、待たせちゃって」
「いえ、こちらこそ突然すいません」
もう夕日もすっかり沈んでしまって冷たい風が吹き抜けるグラウンド前で、ようやく2人は出会えた。
そして雪乃は、ムウマのことを聞いた。
加島は目を丸くして驚いた後、少し寂しそうに目を伏せた。
「…そうか、あの子はまだ待ってるのか」
「ムウマが待ってるのは加島さんですよね?会いに行ってあげてくれませんか?」
「…ごめん、俺じゃないんだ」
雪乃は驚いて加島を見つめる。
「あの子が待っているのは…」
後日。
「で、どうだったの雪乃、話は聞けたの?」
「ムウマが待ってる人は見つかった?雪ちゃん」
美希とミナミに迫るように聞かれた。
雪乃は「うん」と静かに頷く。
「え、見つかったの?」
「その人は…?」
雪乃は一瞬、言葉を詰まらせる。
「…加島さんて人が、以前ムウマの事を気にしてたらしいの」
「じゃあ、その加島って人が…?」
雪乃は首を振る。
「ムウマが待ってるのは…その加島さんの、お爺さんらしいの」
2人は同時に「え?」と驚く。
「お、お爺さん?どういうこと?」
「加島さんのお爺さんは、元中等部の校長なんだってさ」
「えぇ、何それ、そんな事が…」
「こ、校長先生…?」
「そう、お爺さんはよく中庭のムウマの話をしてくれたんだって。お菓子を持っていくと喜んで食べてくれるって…けど、お爺さんは校長を引退して、今は病院にいるって」
「病院?」
雪乃は少し顔を曇らせる。
「…数年前に足を悪くして、今は病院生活を送ってるらしいの」
2人はいよいよ、言葉が出なくなった。
どうやら事はそう容易ではなくなったらしい。
「お爺さんもムウマのことを気にしてるらしいんだけど、足が悪くて会いに来れないらしい…」
「…なるほどね」
「そっか…」
場の空気が重たくなる。
「ムウマを病院に連れていくのはどう?」
「…そうだね、もしかしたら話を聞いてくれるかもしれないし、ムウマに会いに行ってみよう」
ミナミの言葉に2人も頷く。
そしてお昼休みにムウマに会いに行くことにした。