コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「…」
電話に出るけど無言。🌸は追いかけてくる足音から逃げるのに必死で電話が繋がった事に気づいてない。
『っ、はぁ、はぁ、』
結構走って息があがってきてるし、風を切る音が電話越しに聞こえるのに異変を感じて
「…は?今外いんの、何時だと思ってんだよ」
とキレ気味に声を発する。
『あ、?っかずとら?』
「オレ言ったよな?夜一人で外出んなって。まじでいいい加減にしろよオマエ」
ぶっきらぼうだけど一応心配(?)はしてくれる。だけど🌸は逃げるのに必死できこえてない。
『あ、…あ、かず、とら、たすけて、おとこのひとが、おいかけてきてて、っは、こわいよ…おねが…』
と、そこでガッシャーーン!!と衝撃音が聞こえてあまりの大きな音に咄嗟に耳元から携帯を遠ざける一虎。でもさすがに非常事態に気づいて
「…おい?」
と声を掛けるけど聞こえてくるのは🌸の泣き声だけ。
『…う、っ、やだ、や、こないで、や、だ、や』
「転んじゃって…。急に走り出すからだよ?」
携帯を落とした拍子にスピーカーになったから一虎にも男の声が聞こえてきて察する。誰のモンに手ぇ出してんだってブチ切れてるけどここで自分がなにか喋ったら男にも聞こえて変に刺激してしまうかもしれないと思い敢えて何も声を発さずにゼンリー起動して🌸の居場所まで走る。
あぁ、ほんものだ…!ほんものの🌸ちゃんだあ!」焦点があってない目でゆっくり近づいてくる男に完全に怯えてしまって声も出せないし立ち上がれない🌸。「いつも見ていた笑っている顔も可愛いけどその怯えてる表情もイイよ。…すっごいそそられる」と、あたかも愛おしいものを愛でるように頬に手を滑らせてきた男に全身がトリハダ立って叫ぼうとするけど恐怖で震えた声しか出せない。『っあ、だれ、か、…っ、』それでも何とか両脚に力を込め、立ち上がって走り出す。さっき転んで擦りむいた膝が痛むけど今は一刻も早くこの場を離れようとがむしゃらに走り続ける。『…っ、かず、とら』電話してた彼氏の存在を思い出すけど携帯を落としてそのままのことに気づく。でも今更取りには戻れない。とりあえず今は逃げようと思い、もつれそうな脚になんとか力を込めて走る。
…どのくらい走っただろう。ふと足を止めて後ろを振り返ると誰も居なくて。途中まで聞こえてきていた足音もいつの間にか止んでいた。
あきらめて、くれたのかな?…携帯、どうしよう。一虎も、もしかしたら助けに来てくれてるかもしれない。でも連絡手段がないからどうしようもない。だからと言って携帯を取りに戻る勇気はない。…なによりどっと疲れた。逃げてる時はそんなに気にならなかったけど膝はジンジン痛むし手のひらも軽く切ったみたいでヒリヒリする。全力疾走したせいで呼吸をする度に心臓が痛い。『っはぁ、は、』なんとか呼吸を整えながらとりあえず明るい大通りに出ようと足を進めた瞬間後ろから口を塞がれ、お腹に手を回されてそのまま路地裏に引っ張られる。『…ッんんぅ!?』大きな手で鼻から顎まで覆われているので声が出せなくて、お腹に回された手もがっしりホールドされて逃げられなかった。『っンンー!!!ん、ぐ』身体を捻ったりして抜け出そうとするけど暴れれば暴れるほど力が強くなっていく腕。安心したのも束の間、あまりの恐怖についに涙がぼろぼろと溢れる。
先回りされてたんだ…!だから途中で足音が聞こえなくなったんだ、どうしよう、振り解けない、やだ、や、かず、とら!
心の中で彼氏の名前を読んだ瞬間首筋に這う生暖かい感触。『ッッ!?』怖くて、気持ち悪くて。その間も気持ち悪い感触が止まることはなかった。時々ピリッとした痛みが走ってもう何をされているかなんて考えなくても分かる。抵抗する気力は無くなったけど全身に逆立つように鳥肌が立って段々と身体の力が抜けていく。もう叫ばないと思ったのか口を覆っていた手が離れていく。『っぷは…、…ぁ、うぇ、う、〜〜〜ッ、』男の手に抑えられていた嗚咽を漏らしながら脚の力が抜けてガクッと座り込みそうになるけどそれを許さないお腹に回された腕。
そのままゆっくりとTシャツの中に滑り込んで上に上がってくる手。ビクッと大袈裟に身体が跳ねて何とか阻止しようと男の手を掴むけどビクともしない。下着をたくし上げられてカタチが変わるほど乱暴に胸を揉みしだかれる。『ッい、た!や、だ、やめ、て!…だれ、かッ』大声を出そうと息を吸った瞬間感じる首の圧迫感。『ッ?!が、はっ、ッひゅ』確実に気道を締めに来る長い指。まるで大声は出すな、とでも言いたげな手つきに必死に酸素を取り込もうと口を開けるけど上手く息ができない。…このまま死んじゃうのかな。だんだん視界もぼやけてきたし指先が痺れる。…なんだかもう全部どうでも良く思えてくる。こんなことになるなら一虎と喧嘩なんてしなきゃ良かった。最後に一虎に会いたい。ごめんね、って謝りたい。
…一虎に、会いたい。
…たすけて、一虎。
心の中で名前を呼ぶけどそんなタイミング良く現れるワケも無く。諦めて目を閉じた時、どこか遠くできこえるチリン、という鈴の音。
何度も聞いた、大好きな音。
大好きな人の、…っかずとらの、ピアスの音だ!『…ッ!…ぁ、か、ず…ッ』最後の望みをかけて何とか名前を呼んだ瞬間解放される首筋の圧迫感。お腹に回されていた腕もいつの間にか外れていて。途端に脚の力が抜けて立ってられずその場に座り込む。『…っは、ぁ、は、…ッ、ひゅ、』 ゲホゲホと咳き込みながら必死に酸素を取り込んだ。するとさっきよりも確実に近くで聴こえる鈴の音。『…はぁ、ぁ、?』それはまさに私の後ろから鳴っていて。
え?と思って振り返ると無表情の一虎がこちらを見下ろしていた。『…っえ、あ、かず、とら…?』私が名前を呼んでも一虎は返事をせず、冷たい瞳で私を見つめている。否、睨んでいるといったほうが正しいだろうか。なんで、どうして一虎が?色んな疑問が渦巻く中、緊張の糸が解けた私は涙が止まらなかった。『っふ、ぅ、…ッうぇ、』
「…怖かった?」そう聞かれてパッと顔を上げた。さっきの無表情とは一変、貼り付けたような笑顔を浮かべる一虎と目が合う。…どうして当たり前のことを聞くんだろう。怖かったに決まってる。思うことは色々あったけど何故だか早く答えないといけない気がして口を開いた。『…ッう、ん、こわ、かった、よ』
来てくれて、ありがとう。
そう続ける筈だった。だけど一虎が私の両頬を片手で掴んだからそれは叶わなかった。『ッい!!』あまりの力の強さに声が漏れたけど先程の笑顔とは一変、至近距離で私を睨みつける一虎が怖すぎて口を噤んだ。「なんでこんな夜に外歩いてんだ?俺前言ったよな、理解できるまでその馬鹿な頭と非力な身体に教え込んでやろうか?」そう言って少し首を傾けた拍子にリン、とピアスが揺れた。さっきと同じ音色の筈なのに随分と冷たく、重く鳴ったような気がした。「もし俺が来なかったらお前、どうなってた?」『…ぁ、ッ』グイッと髪の毛を雑に掴まれて無理やり上を向かされる。髪が何本か抜けた気がしたけどそんなことに構っている余裕はなかった。「歯ァ全部抜けて顔の原型無くなるまで殴られたかもな」頬を掴む力が強まって顎が外れそうになる。『…や、め、はな、して、…ごぇ、ッなさ』そう言えば素直に離してくれた一虎に安堵したのも
つかの間、「それかァ〜、、こーやって死ぬまで首絞め続けられたかも」ギリギリと私の首を絞め上げてそのまま地面に押し倒す。『ッんっ、ゃ、ッ!』苦しい、苦しいよ。なんとか離してもらおうと必死に一虎の手を引き剥がそうとするけどビクともせず。より一層力が強まるだけだった。
そして私のお腹を膝で軽く押しながら「内臓吐き出すまでココ、殴られたかもな」光の無い一虎の瞳と視線が絡む。『…!?、ゲホッ、…は、ゃ、だ、ッやめ…』手加減してくれてる事はすぐに分かった。だけど満足に呼吸が出来ない今の私からすればそれはなんの意味もなく。苦しさからなのか恐怖からなのか、はたまた別の意味か分からないけれど視界がぼやけて涙が零れる。一虎がどんな表情をしているのかは分からないけど一向に弱まらない力。私の上から退こうとしないのをみて解放してくれる気は無いんだと悟る。「もしくは…」首を絞めていた手を離して下へ下へ滑る一虎の指。ツーーと鎖骨、胸、お腹、と指先で撫でられて鳥肌が立った。「このうっすい腹パンパンになって孕まさられるまでナカに出されてたかもな」お臍の下あたりで手を止めた一虎の言ってる意味が分からない訳じゃない。一虎が私を心配してくれてる事もちゃんと分かってる。「お前が泣いて嫌がっても、必死に抵抗しても、男の力に叶わねえし、そんなんコーフン材料にしかなんねェんだよ」なぁ、わかってンの?そう言って少し目を細めた一虎の鋭い視線から逃げるように両手で目を覆いながら擦った。『…ごめんッ、なさ、い。ッ、』必死にしゃくりあげる私を見ても一虎は何も言ってくれない。『…かずとらと、喧嘩したままなの、やだったから、早く、あやまりたくて、…それでっ、…、家に、いるかなって、思って…ッ、』そう言って再度一虎を見上げると少し目を見開いている彼と目が合った。それと同時にリン、とピアスが揺れる。先程とは違い、軽やかで優しい音色。
少し苛立ったようにガシガシと頭を掻いて私を引っ張り起こしてくれた。
そのまま何も言わずに私の腕を掴んだままズンズンと歩いていく。いつもは私に合わせてくれている歩幅も今は自分本意な一虎。置いていかれないようにもつれそうになる足を何とか動かした。
着いたのは一虎のマンションだった。エントランスでなにやら操作している間もエレベーターの中でも私の腕を掴んだまま無言の一虎。振りほどこうと思えば出来たけどそれをしなかったのは無表情で何を考えているか分からない一虎が怖かったからかもしれない。
部屋に入って投げるようにソファーに座らされて部屋の奥に消えていった一虎を待つ。少ししてから救急箱を持って私の前にしゃがみこんだ。私の擦りむいた膝を丁寧に手当てしてくれている間も口を開くことはなかった。
…何か、言わなくちゃ。『…ぁ、あの、一虎…』思ってたより声が小さくなってしまったけれど静かなこの空間には十分だった。「…」一瞬手を止めて、またすぐ何も無かったかのように手当を再開した一虎に聞こえている事を確認して『…この間はごめんね。あの、…ずっと、謝りたくて』それでも表情を変えず何も言ってくれない。『…っそれと、一虎との約束破って夜に外出ちゃった事も、…ごめんなさい。』静かな空間に私の声だけが響く。なんだか心臓がバクバク鳴って、その鼓動音が一虎にきこえてないか不安だった。『…たすけに、きてくれて、ありがとう』プシュ、と消毒液を私の膝にかける一虎。まるで私の声なんて聞こえていないかのような反応に鼻の奥がツンとする。
少し大きめのバンドエイドを私の膝に貼って、太ももの上にあった私の手を優しく取る。消毒液を染み込ませたコットンでポンポンと丁寧に叩く一虎。『…ッい、』少し滲みて身体に力が入る。膝の怪我の方が酷いはずなのに手の擦りむきの方がピリピリして痛んだ。
手つきはとても優しいのに無表情で口を開かない一虎にとうとう我慢していた涙が溢れてしまった。『…ッ、』泣いている事が一虎にバレないよう、込み上げてくる嗚咽を必死に飲み込む。だけど手で涙を拭うことも出来ず、重力に従って涙は下へ下へと流れる。
パタ、と音が鳴って自分のトレーナーに少し大きめの水滴が落ちた。あっという間に生地に吸い込まれて色が濃くなっていく。それをボーと見つめていると無意識に鼻を啜ってしまい、静かな空間にズッと汚い音が響いた。しまった、と思った時には時すでに遅し、パッと顔を上げた一虎の大きな瞳と目が合った。「…ッぁ、」困惑した様子の一虎がなにか言おうとしたけれど、その先を聞くのが怖くて、それに被せるように口を開いた。『…ど、して、なにも、言ってくれない、の?
…まだ、おこ、ってる?』必死に嗚咽を飲み込もうとする私を見て一虎は薄く開いていた唇をグッと噛み締めて、私の頬に手を伸ばす。『ッゃ!』だけど私はさっきの恐怖と苦しさがフラッシュバックして反射的に一虎を拒絶してしまった。『…ぁ、ッちが、』私より太くて長い指。男の人にしては控えめだけどゴツゴツした関節。一虎の手だって、大好きな手だって、分かってる。そう、分かってたはずなのに。涙を拭おうとしてくれたのだって分かってた。だけどどうしてもまた首に伸びてくる気がして、両腕で自分を守るようにして一虎を拒絶した。もう恐怖なんて無いはずなのに気持ちとは反比例してガタガタ震える身体。『…ごめ、なさっ、ッごめん、なさい』もう何に対して謝っているか分からない。だけど私の口から出るのは謝罪の言葉だけ。「…🌸。」静かに、だけど優しさを含んで、力強く私の名前を呼ぶ一虎。久しぶりに、呼んでくれた。
名前を呼ばれた、たったそれだけの事なのに今の私を安心させるには十分で。『っう、かず、とら、ッふ、』うわああ、と子供のようになきじゃくる私の頭を撫でようと手を伸ばしてくれた。だけど直前でピタ、と止まって唇を噛んでその手を戻す。そうさせているのは私のさっきの怯えようをみてのことだろう、情けなさと申し訳なさ、色んな感情が混ざって気がつくと私は目の前の一虎に勢いよく抱きついていた。あまりの勢いにリン、とピアスが鳴る。「ッわ、…おい、」『かず、とら、ごめんね、ごめんなさい。ごめ、…ッ』泣きながらひたすら謝り続ける私をみて深く息を吐いてから「…もういいって、…俺も、…わるかった。」
『…うん、』ぎゅっと抱き締めるけど一虎は私の背中に手を回してこない。『…ぎゅってして、』「…」そう言うとおずおずと私の背中に腕を回す。『もっと強く抱きしめて、離さないで』「…ぁ、🌸『好きだよ、一虎。さっきはごめんね、』
私がそう言うと身体を離されて少し不安げに揺れた黒と黄のツートンの瞳。「…触れても、…、…いいか」少し不安そうに聞いてきた一虎の手を取って頬を擦り寄せて微笑んだ。
少しぎこちない笑みを返してくれた一虎はそのまま私の髪を耳にかけて顔の輪郭をなぞるようにして上を向かせる。ゆっくりと顔を近づけてくる一虎に目を閉じた。愛を確かめ合うように何度も何度も唇を合わせる。長かった喧嘩はこうして幕を閉じ、色々あるけどやっぱり一虎じゃなきゃだめ、と再確認した。
だけどこの時の私は想像もしていなかった。
後日、「🌸〜、プレゼント♡」と言ってストーカー男の爪を10個持ってくる一虎に絶叫することを。