「導き」
「いつ、どこで、何をしても私から付きまとって離れない死の導きを、私は、受け入れることにしました。」
自殺した父の遺書は、そう書いてあるだけだった。私は、父が常々死を望んでいたという事実にとても驚いた。私の家族は順風満帆だったと思う。ではどうして?何故父は死を胸に抱いていたのか。葬儀などの準備に追われ憔悴する母も、理解が追いつかない私も、その時は、想像がつかなかったのである。
父の葬儀からしばらくして、自分の心に整理がついた頃、母と遺品整理をした。そこで私は、1冊のノートを見つけた。そこには父の手記があった。
私、城崎充は普通の人間だった。母親からは、小さい頃から明るく溌剌とした子供であったとよく聞かされた。小学、中学、高校とその持ち前の明るさで、周囲の人間とは良い関係を築けたと思う。そして卒業後は、地元のそこそこ大きな会社に入り、高収入とは行かずとも、家族を養えるくらいの収入を得て、麻里と出会うことが出来て、そして莉紗が生まれた。私の人生は順風満帆だ。
しかし、私の中では優しく誘う、死への導きがあった。そもそも死というものはなんだろうか。私がそのことを初めて考えたのは、父と母が離婚した中学生の時である。親の醜い争いをずっと聞いていた時、私はふと、漠然と死にたいという感情を抱いた。その時はまだ、死というものを身近に感じたことがなかったため、逃げ道として、死を抱いたのだと思う。だが、ある時、私が好きだった女優が病で死んでしまった。悲しかったが、同時にあることが思い浮かんだ。
「死というものは、生きている人が綺麗なままで他の人の記憶に保存されるために、あえて明確な終わりとして作られたのではないか?」
思いついた私は心が踊った。なんて、なんて美しい仕組みなんだろうか。そこから私に死がついてまわり、そして、自分自身も死というものに傾倒していった。どのタイミングで終わらせれば、みんなの記憶に綺麗に終止符をうてるだろうか。ああ!今死んだら綺麗なままで、記憶に残るだろうか。などと考えるようになった。愚かな人間だと思われるかもしれないが、周りの人間を愛していたからこそ、私という存在が綺麗に残るようにしたかったのだ。自分でも異常だと思うが、とうとう抑えきれなくなってしまった。麻里、莉紗、綺麗なままで私をどうか、記憶に鮮明に残してくれ。
私はこれを見て憤慨した。なんでだよクソ親父。私たちはあなたを愛していたのに。綺麗に記憶に残す?ふざけんな。そんなのが美しいわけないだろ。悲しむ奴がいるのにどうして死ぬんだよ。お前のエゴで、私がなんで、なんでこんなに後悔しなきゃいけないんだよ。もっと…話したかったのに。
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