テラーノベル
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「ルイ姉。……そんなに、……今の記憶が嫌ですか?」
マイロが、震えるルイの肩にそっと手を置く。
その指先には、すでに白銀の魔力が微かに宿っていた。
あまりに羞恥で呼吸を乱すルイを見かねて、マイロは忘却の銀霧の詠唱を乗せかける。
……消してあげれば、ルイ姉は楽になる。この無様な記憶も、私の『永劫の契約』への恐怖も、全部……
けれど、マイロの指先が、目に見えて激しく震え出した。
翡翠色の瞳に、言いようのない焦燥が浮かぶ。
……嫌だ。……消したくない。
……さっき、私だけを見て、私の腕の中で『離さない』と言ってくれた、あのルイ姉まで消えてしまうのは、
……絶対に、嫌だ!
魔法を発動させれば、ルイは「綺麗な騎士」に戻る。
けれど、それは同時に、マイロへの剥き出しの情愛さえも白く塗りつぶしてしまう行為。
…消したら、私はまた守らなければならない綺麗なお人形に戻るだろう。
私のことを愛してくれたことなど忘れて。
「救いたい」という慈悲と、「忘れてほしくない」という狂気的なエゴ。
マイロは、自分の唇を血が滲むほど強く噛み締めた。
「ルイ姉。答えてください。私を愛して苦しむ記憶と、何もかも忘れて私を守るだけの空っぽな記憶。貴女は、どっちが……」
魔法の霧が、廃屋の床に薄く広がり始めては消え、また立ち上がっては霧散する。
それは、最凶の魔女が初めて見せた、愛ゆえの致命的な迷いだった。
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天神みねむ!クリスタルがない人