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お股ポテト
29
はるにし
72
バルトとムスクが応接室で話をしている。
僕はいつもの通り、テラスでシュメリとお茶をしている。
「リンネ、口を開けて」
「にゃーん」
シュメリがダックワースを小さく割って食べさせてくれた。
しゃりフワ食感で美味しい。
「あにゃ、あにゃ」
「美味しい?」
「あにゃ!」
シュメリがクスクスと笑んだ。
「不思議だね。言葉を喋らなくても、最近は何となくリンネが何を言っているか、わかるよ」
シュメリの笑顔が嬉しそうだ。
僕は、ちょっと恥ずかしい。
シュメリの指が、僕の背中を撫でた。
「魂に殻、か」
シュメリの笑みが陰った。
(ムスクが言ってた言葉。僕の、魂の話)
魂に殻が被ってるって、どういう状態なんだろう。
だから僕は、色んなことを上手く思い出せないのかな。
シュメリの向こう側の空に雲が流れていた。
(あ! あの雲、サンマみたい!)
僕はシュメリの膝に飛び乗って、肩に手をかけた。
「リンネ? どうしたんだい?」
「あにゃにゃ、あにゃ」
(あの雲、サンマみたいだよ、シュメリ!)
僕は前足で雲を指さした。
「雲か……」
シュメリが呟いた。
「あにゃあにゃ、にゃぅ」
(あのね、サンマっていうのはね。僕の世界にいるお魚でね。脂がのっていて、とっても美味しいの)
聞こえるはずもないのに、僕はシュメリに話しかけていた。
(あれ……こんな会話、前にもしたような)
あの時の風景が、フラッシュバックする。
「雲を眺めながら話すのが、リンネは好きだったね」
声が涙を含んでいる。
シュメリが僕を抱きしめた。
(あ……こんな風に、抱きしめられた)
人の体だった時に、シュメリは僕を抱きしめた。
聖騎士なんて偉い貴族様が、僕なんかを好きになるわけないのに。
僕はいつだって、くだらない話しかしなかったのに。
それでも隣にいてくれた。
(あの時は嬉しくて、楽しくて、ちょっとだけドキドキしてた)
あの時と同じようにドキドキしながら、シュメリを振り返る。
(泣かないで、シュメリ。泣かないで)
まだ涙が流れていない頬を舐める。
泣きそうな顔に額をぐりぐり押し当てた。
「リンネ?」
顔を上げたシュメリの鼻に、鼻をちょんとあてた。
ボンと煙が上がって、僕の体が人型に変わった。
「また、戻った」
僕は自分の手足を見詰めた。
「リンネ!」
近くにあったブランケットを広げると、シュメリが僕にかけた。
(そうだ、裸だから)
そのまま、僕を抱きすくめた。
「また人に戻れた。また声が聴けた」
ドキドキが加速する。
体が動かせない。
「シュメリ」
「なんだい」
「僕の声、聞こえるんだね」
「聞こえるよ。何を言っているか、はっきりわかる」
「言葉が通じるって、凄いね」
僕はシュメリに抱き付いた。
「リンネ!」
「ん? どうしたの?」
「そんな風に、急に抱き付いたら」
「だって、嬉しいんだ。僕はいつもシュメリやバルトの言葉を聞いて、わかってるのに。お返事ができないから」
「私の言葉は、ちゃんとリンネに届いていたんだね」
「届いているよ。いつも楽しいよ」
「そうか」
噛み締めるように呟いて、シュメリがまた僕を抱きしめた。
「リンネ、その姿……!」
バルトの声が聞こえて、振り返った。
ムスクと一緒に走ってくる。
「シュメリ、そのままリンネを抱いていてください」
ムスクが僕の額に指をあてた。
ムスクの指先に紫色の光が、灯った。
紫の光が、額から体の中に入ってきた。
じわりと、体の芯が熱くなった。
「状態固定の魔法です。長くは持ちませんが、しばらくは人の姿でいられるはずです」
「本当ですか?」
僕は思わずムスクに聞き返した。
「えぇ、根本的な解決とは言えませんけどね」
ムスクが眉を下げて笑った。
「リンネが、人の姿でいられるのか? どのくらい?」
「何とも言えませんが、一週間は維持できるかと」
シュメリが僕とムスクを交互に見比べた。
その目が、僕で止まった。
「リンネが、人に」
シュメリが僕を抱いて立ち上がった。
「え! シュメリ、どこに行くの?」
「まずは、服を着よう。リンネの服は準備してある」
そう言いながら、颯爽と歩き出す。
「待て、俺も」
バルトが後ろを付いてきた。
「バルトはムスクと話の続きを。詳しい話まで全部、詰めればいい」
振り返ったシュメリの眼力に気圧されたのか、バルトが立ち止まった。
「話の途中で魔力を感じて、出てきましたからね。バルト、話の続きをしましょう」
ムスクに肩を叩かれて、バルトが頷いた。
「それから、シュメリ。リンネの件で、後で話をしましょう」
「……わかった」
シュメリがまた、歩き出した。
「屋敷にある服が合わなければ、新しい服をあつらえよう。足りないものは何でも言ってくれ」
「僕、そんなに贅沢しないよ。お菓子とご飯があればいい」
シュメリの服を、きゅっと握る。
シュメリが微笑んだ。
「ご飯は、何が良い?」
「お肉!」
「わかった」
シュメリが僕の額にキスをした。
じわりと、胸が熱くなる。
いつもより浮かれた顔のシュメリを、僕はぼんやり眺めていた。
コメント
1件
第14話読み終えたよ〜!サンマみたいな雲の話、めっちゃ可愛かった。リンネが猫のままでも必死にシュメリに伝えようとする姿と、それを受け取るシュメリの優しさにじーんときた。「言葉が通じるって、凄いね」ってセリフ、すごく響いた。人の姿に戻れて良かったね!お肉食べるシーンが待ち遠しい🐱✨