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お股ポテト
29
はるにし
72
服を着てすぐ、部屋で待つように言われた。
シュメリはムスクと話をしているようだった。
その話し合いにはバルトも同席していた。
(僕だけ仲間外れみたい)
仕事の話なら仕方がない。
僕は部屋を出て、テラスに向かった。
お茶が途中だったから、お菓子を食べに行ったんだけど。
「魔種持ちは国に上申するのが決まりでしょう。騎士団長自ら法を破ってどうするのです」
ムスクの声が聞こえた。
部屋の扉は締まっていたけど、僕の猫耳には聞こえた。
「だからこそ、私が娶る。それで問題ないはずだ」
「俺はまだ認めてない」
シュメリの断言に、バルトが異を唱えている。
二人とも鋭い声だ。
「リンネはまだ状態が安定しない。記憶もないと、本人が話していた」
「リンネの記憶は、いつから欠けてるんだ」
「詳しくはわからないが、恐らく森で暮らしていた頃の記憶が、ないのだと思う」
シュメリとバルトの声が緊張している。
「その辺りは人の姿を保っているうちに確認できるでしょう」
ムスクの声だ。
僕はドアにへばりついた。
「状態が安定しないことは上申しない理由にはなりません。私が隠してあげられる時間も、長くはないですよ」
「……わかっている。けど、今は目を瞑ってくれ」
「俺からも頼む。そのためなら、明日から俺が魔術師団で働いてもいい」
シュメリとバルトが、僕を庇ってくれている。
「それとこれとは話が別です。とにかく、リンネの記憶を戻してください。ひと月は、待ちましょう」
「ひと月か」
シュメリの声が、重い。
「これでも譲歩しているのですよ。本当なら見つけ次第、魔術師団で保護しなければいけないのですから」
「しかし、誰かの許嫁なら免除されるはずだ」
「まだ、そこまでの関係に戻れていないのでしょう。父親代わりのバルトは許していません」
シュメリとムスクの会話に、僕の胸も重くなる。
「獣人の魔種持ちは人間以上に希少です。長引いた分だけ、シュメリとバルトの罪が重くなりますよ」
ぞくりと、背筋に寒気が走った。
僕は忍び足で、逃げるようにその場を去った。
テラスに戻って、覚めた紅茶を一気に飲んだ。
ダックワースをパクリと頬張る。
もぐもぐして飲み込む。
「一人だと、いつもみたいに美味しくない」
空を見上げたら、さっきのサンマ曇は形を変えていた。
「僕の記憶が戻らないと、シュメリとバルトが困るんだ」
少しずつ戻ってきている記憶。
この記憶がいつのものなのかすら、僕にはわからない。
(でも、確かにあるんだ。僕の中に、シュメリやバルトと過ごした時間の記憶が)
前世の夢なら、少しは覚えているけど。
それも断片的で曖昧だ。
「どうすれば、思い出せるんだろう」
僕は前世で読んでいた『聖騎士を暗殺者』を思い出していた。
病院のベッドでワクワクしながら読んだ小説。
あの通りではないけど、アレに似たシチュなら、この世界でも何度かあった。
「小説を辿ったら、いいのかもしれない」
曖昧になりつつある前世の記憶の中でも、鮮明なのは『聖騎士と暗殺者』の内容だ。
もしかしたら、前世で見ていた夢と、この小説の内容が繋がっているのかもしれない。
(だったら、小説を辿っていけば、僕の失くした記憶にも辿り着けるかも)
夢の中にいた時は気付かなかったけど。
今ならわかる。
あの夢は、この世界だった。
だからこそ、シュメバルを進展させるのが、記憶を戻す近道だ。
「折角、人の姿になれたんだし、頑張ってみよう」
きっと猫だった時よりは上手くやれるはずだ。
僕は、改めてシュメバルを仲良くする作戦の決行を胸に誓った。
コメント
1件
第15話、読み終えました。リンネが偶然耳にしてしまった大人たちの会話、すごく切なかったですね…「僕だけ仲間外れみたい」って思う気持ち、すごく分かる。でもシュメリとバルトがリンネを守ろうとしてくれているのが伝わってきて、胸が熱くなりました。「一人だと美味しくない」っていう言葉が、逆に一緒にいる時間の尊さを感じさせてくれるなあ。それにしても、前世の小説を手がかりに記憶を辿ろうとするリンネのひらめき、面白い伏線になりそうですね!次が楽しみです。