テラーノベル
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扉を開けた瞬間、光が溢れた。
イソトマはディルクと共に、一歩、また一歩と大広間の奥に進んだ。
ダンスに興じる人々も、イソトマとディルクの姿を見付けると足を止めて道を譲った。
蝶のように踊る紳士淑女がダンスをやめて避けていく。
いつの間にできた一本道の向こうには、ルシアンとリリーが待ち構えている。
舞踏会の煌めいた光に照らされる二人を眺めて、イソトマは息を吐いた。
「なんて美しいんだ……」
感嘆の声はオタクの心から自然と出た。
目の前のルシアンとリリーは、まるでゲームのスチルから飛び出したみたいだ。
(こんなスチル、あったよね)
本物はスチルにも勝る。
(スチル以上の推しを拝める日が来ようとは。ありがとうございます、神様)
心の中で神に感謝した。
後ろのディルクがイソトマを突つく。
イソトマの浮かれた気持ちは、我に返った。
さらには、目の前でイソトマを睨み据えるルシアンの怖さで、現実に引き戻された。
(ルシアンの本気の目、怖い)
そう思っている間に、悪役令息断罪イベントが始まった。
「弁明はあるか? イソトマ」
ルシアンが静かに問う。
声と同じように静かな表情から、決意を感じだ。
(そうだった。ルシアンも、もう気持ちを決めているから)
今のイソトマには、応える義務がある。
「弁明させるなら、僕じゃない。隣の男に聞くべきだよ、ルシアン。僕は悪魔のようなリリー=カトレアにハメられた。僕は被害者だ」
額に手を添えて、ショックを受けた顔をしてみせる。
「まさか王子殿下までが悪魔に騙されてしまうとは。お願いだよ、ルシアン。目を覚まして」
イソトマの声が大広間に響く。
ひそひそと噂する小さな声が広がっていく。
広間中の視線が、イソトマに集まっていた。
「悪魔だなんて、酷い。僕は何もしていません。イソトマ様とだって、仲良しだと思っていたのに」
涙を流すリリーを、ルシアンが胸に抱いた。
演技であるはずのその仕草を、イソトマは見逃さなかった。
(肩に手を回す感じ、慣れてる。自然とリリーの頭を撫でている……総てが尊い)
完璧なスパダリ王子と麗しのヒロインの泣き顔という絵面が強い。最高過ぎて一緒に泣きそうだ。
(今、僕が泣いたら違う意味にとられちゃう)
そう思った瞬間に、後ろに控えたディルクが背中を突いた。
次の台詞があったのを思い出した。
かんな
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寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
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「そうやって泣く姿も、リリーにとっては演技で作戦だよ。今まさに、ルシアンを騙そうとしているんだよ」
得意げに顎を上げる。普段、あまりやらない仕草だから正解がわからない。
一先ずは、小憎らしく見えていることだろう。
ルシアンが至極迷惑そうに息を吐いた。
「救いようがないね、イソトマ。今の発言は、リリーではなく私を愚弄する言葉だ」
「違う! そんな意図はないよ。僕より悪魔を信じるの?」
ルシアンの瞳が、イソトマを真っ直ぐ見詰める。
その圧に気後れした。
(ルシアンは、こんなに強い目をする人だったんだ。知らなかった)
イソトマが知っているルシアンは控えめに、困ったように笑う人だ。頑張らないと堂々とできない気弱な人だった。
思えば、リリーが現れてからのルシアンは、イソトマの知らない一面ばかりだった。
(あの顔は全部、リリーのため、だったんだね)
リリーのために、ルシアンも変わった。本人が意識しているか、わからないけれど。
イソトマは気が付いた。イソトマは知っている。
それだけで泣きそうになる。
「もはや詮議の余地はない。決議を下す」
堂々とした声と共に、ルシアンが手を上げた。
「イソトマ=アルシュタイン、数々の不貞行為は婚約者の私への不敬罪にあたる。私怨により、リリーの命を危険に晒した罪は重い。私との婚約を解消し、爵位を剥奪の上、国外追放とする」
ルシアンの声が高らかに響き渡る。
大広間が水を打ったように静かになった。
(決まった……! 今のは、ゲームと同じ台詞だ。本当に、終わるんだ)
悪役令息断罪の決め台詞に聞き惚れる。
ここまで来たならゲームは終盤だ。
もっとも、BLゲームにはレイヴン商団摘発なんてイベントは、なかったが。
(……やっぱり、推しが格好良いな)
ニヤつきそうになる口角に、必死に耐えた。
後ろからディルクがイソトマの服を引いた。
「逃げる準備をしろ」
ディルクの声とほぼ同時に、ルシアンが周囲の憲兵に目を向けた。
「イソトマを捕らえろ!」
憲兵が戸惑いながらイソトマに、にじり寄る。
後ろから体を強く引かれてディルクに抱き上げられた。
ディルクが憲兵の隙間を縫って走り出す。
イソトマは魔法銃を展開して真上に掲げた。
「爵位剥奪も国外追放も、御免だ。僕は逃げるよ。捕まえてごらんよ、ルシアン」
不敵に笑んで、引き金を引いた。
「きゃぁ!」
令嬢たちの悲鳴が響いた。
七色の煙幕が大広間を覆い尽くす。
「私の目の前で発砲とは……何としてもイソトマを捕まえろ! 行け!」
ルシアンが憲兵を煽るように怒鳴った。
普段のルシアンからは考えられない怒声だ。
(ここで憲兵に動いてもらわないと、困るもんね)
この異常な状況で、イソトマを追いかけることに疑問を持てる憲兵はいない。
たとえ疑問を持ったとしても、第一王子の命令だ。逆らえるはずもない。
イソトマは念のため、派手に煙幕弾を撃った。
「郊外の屋敷まで、全力で逃げるぞ。後ろは任せる」
イソトマを抱えて、ディルクが走る。
煙幕弾の威嚇を、イソトマは撃ちまくった。
「任せて、ディルク。本番はここからだもんね。憲兵を人身売買会場まで誘導しよう」
それこそがルシアンの狙いだ。
王子の命令で動いた憲兵が偶然、レイヴン商団の現場を発見する――その事実を作るためだ。
王立騎士団は舞踏会が始まった頃には既に動いているはずだ。
憲兵が到着すれば、人身売買の現場が明るみに出る。
隠蔽しようのない状況を二重三重に作るための仕掛けだ。
そのお膳立てのために、イソトマとディルクは全力で逃げる。
(僕とディルクが絡んでいれば、貴族たちの噂にもなり易い。ルシアンは噂を利用するのが、上手いなぁ)
イソトマは感心しながら、さっきまでのルシアンとリリーを思い出していた。
「それにしても、ルシリリ最高だったなぁ」
リリーは自分の気持ちを決めていた。
きっとルシアンも、自分の気持ちを決めたのだろうと思った。
「全部終わったら、本当に婚約解消のサイン、しなくちゃ」
それが、今のイソトマとルシアンのけじめだ。
「ん? なんだ?」
ディルクが、ちらりとイソトマを振り返った。
「何でもない。僕らの自由も、勝ち取りにいかないとね」
たとえ平坦でなくても、一緒に歩むと決めた。
だからもう、迷わない。
イソトマは憲兵に煙幕弾の銃を向けた。
コメント
1件
ええ〜!!第41話、めっちゃ良かったよ😭💕 イソトマが悪役令息を演じながらも心の中で「ルシリリ最高」って叫んでるの、オタク心が痛いほどわかる!!笑 スチル以上の推しを拝めるって表現、まさにそれだよね〜✨ でもルシアンの本気の目怖いし、逃げる準備バッチリなとこもカッコいい! イソトマとディルクの連携プレイ、これからどうなるか気になりすぎる⋆♡