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かんな
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寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
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中庭に準備されていた馬に乗り込み、廃屋に向かう。
憲兵も馬に乗って追ってきた。
「向こうのほうが速い。もっと飛ばせる?」
煙幕弾を撃ちながら、イソトマは叫んだ。
「飛ばすのは難しい。身を隠すか」
ディルクが周囲を確認する。
そうするうちにも、憲兵が迫ってきた。
「マズい、捕ま、る……あれ?」
憲兵たちを乗せた馬が次々とイソトマたちを追い越していく。
「どうなってる?」
「イソトマ、ディルク!」
憲兵の馬に紛れて、聞き慣れた声が響いた。
「ノアル! どうして、ここにいるの? 廃屋は?」
馬に跨ったノアルがイソトマたちの前で止まった。
「王立騎士団が人身売買の現場を抑えるのに成功した。憲兵にはレイヴン商団の残党狩りをさせている。お前らを追ってきた憲兵にも、新たな指示が下っているはずだ」
「そうなんだ、良かったぁ」
イソトマは脱力してディルクに凭れ掛かった。
「クロウは捕縛できましたか」
「まだ確認できていない。騎士団が追っているから取り逃がしはしないだろうけどな」
ディルクとノアルの会話を、イソトマは何気なく聞いていた。
「それにしても、よくここまで大々的に騎士団が動いてくれましたね」
ディルクが感心している。
騎士団は貴族院の縛りを強く受ける。
人身売買に関わる貴族も、貴族院に名を連ねている。
裏からストップがかかれば、騎士団は自由に動けない。
王子の命とは言え、どこまで動いてくれるか不安だと、ルシアンもノアルも零していたけど。
「兄上があれだけ必死に説得すればな。今日のパフォーマンスも意味があったと思うぜ」
「婚約破棄の? 憲兵を引っ張るだけじゃなくて?」
イソトマはノアルに向かい、首を傾げた。
「王族とアルシュタイン家のような高位の貴族が、自分たちを餌にしてまで捕えたい賊だ。騎士団が知らん振りしたら沽券にかかわるだろ」
「なるほど、そういうことですか」
ディルクが妙に納得している。
たとえ貴族のストップがかかっても、動かないほうがデメリットと踏んだのだろう。
「そもそも手が出せなかった理由は一部の貴族が関与していたからだ。貴族院さえ通過すれば、いくらでも動けたはずなんだ。どっちに付くのが得か、ようやく理解できたんだろ」
これは一重にルシアンの努力の賜物だ。
今日の作戦も大いに意味があった。
「おっと、ちょっと待て」
ノアルが耳を抑えた。
風魔法がノアルの耳に電報を届けたらしい。
ノアルの顔が険しくなった。
「セインとアルエからだ。クロウが……逃亡した」
「えぇ!」
イソトマは思わず叫び声をあげた。
隣のディルクが顔を顰めている。
「屋敷から出ているかもしれない。この辺りも危険だ」
ノアルと話しているこの場所は暗がりで、人気もない。
憲兵や騎士団は屋敷の敷地内に散っている。
イソトマたちは、そこから離れた場所にいる。
「ディルク、イソトマを連れて戻れ。あとは俺たちで片を付ける」
「わかりました。馬で引き返します」
「僕らは……」
言葉を発しようとしたイソトマの口に、後ろから手が掛かった。
暗がりから伸びた手に強く抑え込まれて、声が出せない。
「ん! ぅんん!」
目の前のノアルが抜刀した。
同時に、ディルクがイソトマの後ろの男に剣を突き付けた。
「イソトマを離せ!」
「はっ! 離すかよ。ようやく見付けた、それらしい人質だ」
この声には覚えがある。
学園祭の時に、リリーと話していた男の声だ。
(クロウが、ここまで逃げてきたの?)
体を強く抱きかかえられた。
圧迫されて苦しい。
「んん……」
「イソトマ!」
ディルクが叫ぶ。
剣を構えたまま、じりじりとクロウとの距離を詰める。
(僕が捕まっているから、ディルクもノアルも動けないんだ)
逃げなければと思うのに、怖くて足が震えて動けない。
「この貴族様をぶち殺されたくなかったら、隣国まで俺を逃がせ」
「そんな真似ができるか! お前は今日、ここで捕縛される」
ノアルが怒鳴りつけた。
「だったら、この阿保っぽい令息を殺すだけだ」
クロウがイソトマの首にナイフを突きつけた。
「くそっ」
ディルクが剣を引いて歯軋りした。
(どうしよう、どうしよう)
手が震えて、上手く力が入らない。
その手が、自分のポケットに触れた。
(何か、入ってるこれって……)
イソトマは、そろそろとポケットに手を伸ばした。
(僕が作った、防犯ブザーだ。これで、一瞬でも隙ができたら)
ディルクなら、確実に動ける。
イソトマは防犯ブザーをそっと握ると、ディルクに目を向けた。
気付いたディルクが、小さく頷いた。
「そこにいる馬を俺に寄越せ。早くしろ!」
怒鳴り声に怯えた振りをして、イソトマは前かがみになった。
その瞬間に、防犯ブザーの紐を思い切り引っ張った。
ブーブーブーブー!!!
けたたましいブザー音が、当たりに響き渡った。
「なんだ、何の音だ」
クロウが慌てて周囲を見回す。
その隙に、ディルクの剣がクロウの腕を斬り付けた。
クロウが大勢を崩してイソトマを投げだした。
よろけるイソトマの体をディルクが抱き寄せた。
「ディルク!」
「怪我はないか、イソトマ」
「うん、大丈夫」
イソトマを抱いて後ろに下がったディルクに変わり、ノアルが前に出た。
「これで終わりだ、クロウ」
ノアルがクロウに剣を向ける。
「くそっ、ふざけやがって」
悔しそうにノアルを見上げたクロウが、にっと笑んだ。
「これでも、くらいやがれ!」
地面の砂を掴んで、ノアルに投げつける。
「なっ……往生際が悪いぞ、クロウ!」
腕で目を擦るが、砂に目をやられているらしい。
飛び出そうとしたディルクが、ビクリと動きを止めた。
「ははっ! 所詮は温室育ちの王子に騎士だ。お前らに俺は捕まえられねぇよ」
イソトマたちが乗ってきた馬に、クロウが手を伸ばす。
その後ろから、剣が伸びた。
「これからお前は、温室育ちの王子に裁かれる。もう逃がさない」
真っ暗な闇から、真っ白な王子が現れた。
ルシアンの姿が、薄暗い星明りに照らされる。
その隣には、リリーがいた。
「リリー……裏切者が」
クロウが苦々しく吐き捨てた。
リリーが、唇を噛んで俯いた。
そんなリリーの肩を、ルシアンがしっかりと抱いている。
逃がさない意味もあるのかもしれない。
ルシアンの寄り添い方に、イソトマは優しさを感じだ。
「イソトマ、拘束銃だ」
「え? 誰を?」
「クロウを拘束だ」
ディルクに言われて、自分の魔法のレパートリーを思い出した。
「う、うん。わかった」
ルシアンに気を取られているクロウの足に向かって、銃を放つ。
ボゥン、と音がして、魔法の縄がクロウの足を縛り上げた。
「うわ! 何だ、これは」
クロウがその場に尻もちをついた。
もう一発、銃を撃つ。
クロウの腕を後ろ手に拘束する。
その身体が地面に転がった。
「この阿呆令息が、やりやがったな!」
クロウがイソトマに向かい怒鳴った。
「また阿保って言われた」
悪党の言葉とはいえ、何度も言われると悲しい気持ちになる。
ディルクが無言でイソトマの頭を撫でた。
「イソトマ、お手柄だよ。ノアルもディルクも、よくやってくれたね」
皆を労いながら、ルシアンがクロウに歩み寄った。
クロウの目が、その後ろに立つリリーに向いていた。
「リリー、助けてくれ。お前からルシアン王子に頼んでくれよ。俺は悪くないんだ。な?」
クロウがリリーに懇願する。
「クロウ団長。さすがに無理だよ。もう、誤魔化せない」
クロウの顔が蒼くなる。同時に怒りに染まった。
「レイヴンを裏切ってやがったんだなぁ、いい度胸だぜ。王族がバックに付くと違うなぁ、皇太子妃様よ」
「そうじゃない。僕がもう、嫌だったんだよ」
フルフルと、リリーが首を振った。
「嫌? 俺はお前を育ててやったろ。今更、俺を裏切ったところで、どうする、リリー。王子様が本当に御妃にしてくれると、本気で信じてんじゃねぇだろうなぁ」
クロウが大声で笑った。
「そいつは利用してお前を裏切るだけだ。俺を捕まえたらお前もポイ捨てだ」
色の無い顔で眺めていたルシアンが、リリーの顎に手を添えた。
「え……」
「え……」
リリーと同じように、イソトマも声を上げていた。
何故って、ルシアンがリリーの顔を上向かせてキスしていたから。
(ルシリリの、キス)
真っ暗な夜の闇の中で、照らす灯りは星しかない。
お互いしか見えないような距離で交わす口付け。
(スチルだろ、これ)
イソトマのオタク脳がフル稼働した。
オタクアイで見えないはずの景色まで見える。
聞こえないはずの声まで聞こえる。
(ルシアンが、愛してるって言ってる)
イソトマの目が歓喜で潤んだ。
そんなイソトマの顔を隠すように、ディルクが胸に抱いた。
隣でノアルが、あんぐりと口を開けて呆けていた。
「ん、ぁ……」
唇を離した。リリーは涙目だ。
ルシアンはそのまま、クロウを眺めた。
「私はリリーを手放す気はない。お前のように使い捨てる気は、ない。見返りを求める愛情など、愛情とは呼べない」
学園祭の時、「役に立つうちは大事にしてやる」と、クロウはリリーに言った。
あの時のルシアンの顔は、見るからに怒っていた。
ルシアンが剣を、クロウの鼻先に突き付けた。
「私のリリーに、金輪際触れさせはしない」
ルシアンが言い切った。
その隣で、リリーが息を飲んだ。
同じように、イソトマはディルクの腕の中で息を飲んだ。
(まるでゲームの新ストーリーを見ているみたいだ)
原作にはなかった、ルシアンとリリーの絆。
イソトマが見たくてやまなかった二人の姿だ。
「クロウ団長、ごめんね」
ルシアンに肩を抱かれたまま、リリーが俯いた。
「僕も罪を償う。だから、クロウ団長も罪を償ってよ」
ポロポロと、リリーの目から透明な雫が零れ落ちた。
「お前如きにリリーの涙など、勿体ないくらいだよ」
ルシアンが、リリーの涙を拭いた。
地面に沁み込んだ涙をクロウが眺める。
クロウの肩が、がくりと項垂れた。
「あ、兄上。憲兵を呼んでいいか?」
呆気にとられていたノアルが、ルシアンに問い掛けた。
「あぁ、頼むよ」
ルシアンの合図で、ノアルが警笛を吹いた。
「そういう、ことなんだ、イソトマ」
ルシアンに名を呼ばれて、イソトマは顔を上げた。
潤んでいた目を、さっと拭う。
「私にチャンスをくれないか?」
ルシアンが、困ったように笑った。
この顔を知っている。
もう心を決めている時の顔だ。
申し訳ないと思っている時の顔だ。
「……うん、ゆっくり話そうか」
イソトマは、そう答えた。
気持ちはもう決まっている。
けれど、外で立ち話しながら決めて良い話じゃない。
「城に戻ろう。あとは頼むよ、ノアル」
ルシアンの言葉に、ノアルが頷く。
一瞬だけ、イソトマに向いた顔は、気の毒そうな表情だった。
(僕も、ルシアンも、もう大丈夫だ)
イソトマはディルクと共に城に戻った。
コメント
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第42話、一気に持ってかれました…! ルシリリのキス、まさかあの場面でくるとは思わなくて、声出そうになったよ…(笑) イソトマの防犯ブザー作戦、めっちゃグッジョブだったね! あの機転がなかったらどうなってたか。それにしてもルシアン、リリーへの想いが溢れてて尊すぎる…🥀 ディルクの無言のフォローも、ずっとイソトマのこと見てる感じがして好き。次、どうなるんだろう…!