テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#自創作小説
#イケメン
試合再開の合図と同時、千代里は槍を真上に放り投げた。
10メートルは打ち上がっただろうか。
耕司の作戦通りだ。
千代里の動きを察した耕司は、トラクターの速度を上げる。
一瞬、アリシャは槍の行方を目で追うも、すぐに視線を前に向ける。
アリシャとトラクターの操縦者も、この勝負で決めようとしているのか。
トラクターの速度は30キロを越えている。
敵はさらに速度を増す。
40キロに達したとき、アリシャの放った槍が中央に設置された壁をド突いた。
先端は砕けるも、槍は壁に深く突き刺さる。
千代里は自慢の動体視力を駆使して、飛散した破片をうまく交わす。
壁をド突いた衝撃で、アリシャの体が揺さぶられる。
だが、メガネの女神は、すぐに体勢を立て直す。
スタート直後に放り投げた千代里の槍が、アリシャに襲い掛かった。
一歩退き、アリシャは槍の直撃を回避する。
槍の破片を避けようと顔を大きく背けたとき、まるいメガネが吹き飛んでいった。
「メガネ、メガミ……」
アリシャは屋根の上でメガネを捜索する。
「あった!」
トラクターから離れ行くメガネをアリシャが視認した。
メガネを回収しようと、アリシャがトラクターからダイブする。
体操選手のごとく、ビシっと着地した。
頭から……。
地面に突き刺さった三つ編みの女神アリシャは、脚だけが見えている。
名前で例えると、アリシャの『シャ』しか見えていない。
「見事な顔面ダイブ! 芸術点をあげたいところだけど、試合おわっちゃたから、無しってことで!」
全能の神による微妙なアナウンスが、会場を包んでいた緊張感を振り払う。
地面に芸術的な刺さり方をしたアリシャにむけて、会場全体から称賛の拍手が沸き起こった。ついでに笑いもだが……。
客席の歓声とは裏腹に、メガネのワイパーが、キコキコと悲しい音を奏でる……。
信者たちの信仰心がさらにアップしたのか、アリシャの体は神々しい光に包まれている。
客席を飛び出したアリシャの信者たちが、フィールド(畑)になだれ込んできた。
全試合が終わっているため、主催者は黙認したようだ。
地面から生えたアリシャを取り囲んだ信者たちが、脚を一斉に拝み始めた。
「拝んでないで、大黒ちゃんをはやく収獲(救出)しろっての!」
アリシャの救出に来た毘沙門天が、腹を抱えて大笑いしている。
千代里が対戦相手の救出に向かおうとした瞬間だった。
「ということで、千代里選手。おめでとさん!」
千代里の勝利を告げるアナウンスが轟く。
再び会場全体から、千代里の検討をたたえる拍手と歓声が沸き起こった。
「何が起きましたの?」
停車したトラクターの屋根から、千代里が飛び降りる。
辺りを見回すも、千代里はまだ状況を飲み込めない様子だ。
「あなたがたの勝ちです!」
まるメガネをかけ直したアリシャは、歩幅6センチで千代里の許へダッシュする。
ホップ・ステップ‥‥…と軽やかに。
小石(1センチ)に足を取られたアリシャが、盛大にすっ転ぶ。
吹き飛ぶメガネ。
メガネの20センチ手前で、アリシャが再び地面に突き刺さる。
「ホップ・ステップ・ダイブかよ!」
笑う毘沙門天。
主を失った丸メガネのワイパーが懸命に拭い去っている。
「ダイブ……いや、大黒ちゃんの首、へし折れたかと思ったよ! にしても、ワイパーいい仕事するねぇ!」
毘沙門天が、地面を叩きながら大笑いしている。
だが、耕司と千代里にそんな余裕はなかった。
「千代里さんの勝ちです! ご当地八福神に入ったのですよ!」
アリシャが、クイっとメガネをかけ直す。
敗者復活戦はアリシャの自爆という結果で幕をおろした。
棚ぼたに近いが、勝ちは勝ち。
七福神決定戦『全国大会(決勝戦)』へのキップを、千代里は手にしたのだ。
アリシャが繰り返した言葉に、千代里は、ようやく状況を把握したらしい。
「ありがとうございます……」
アリシャと握手を交わすと、歩幅20センチで耕司の許へと向かう。
いままで一度も顔をほころばせることのなかった千代里は、失明しそうなほど眩しい笑顔を耕司に贈った。
僕たち、いや、千代里が勝ったのか……。
耕司が余韻に浸っていると、毘沙門天が駆け寄ってくる。
大笑いしている毘沙門は、まっすぐ走れないらしい。
走るというより、転がってくるが正しいか。
毘沙門天は、起きては転がるを繰り返している。
「大黒ちゃん、そのメガネどこで買ったんだい? ダメだ笑いすぎて腹いてぇ!」
「毘沙門さま、人のこといえないですよ。その顔……」
「ボクの顔面がどうかしたかい?」
口の周りにソースを着けた毘沙門天が目を丸くする。
「いや、その口……カールおじさんみたいになってますよ?」
「耕司さん、その例えって……」
耕司の言葉につられて、千代里がまた笑う。
千代里って、こんなに綺麗な顔で笑うのか。
決勝でもまた笑顔を見せてくれるといいな……。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!