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コメント
2件
すれ違っちゃったか😭 今回もめっちゃ面白かった!!
桃舵壱郎×一ノ瀬四季です! 分かりづらくてすいません💦
かじしき
俺の彼氏はいわゆる脳筋だ。
何時も筋トレばっか。
もう、うんざりだ。
そう思うようになったのは、たぶん最近じゃない。
ただ、言葉にできるくらいには、溜まってしまっただけだ。
デートの約束をしても、行き先はいつも同じような場所になる。
理由は簡単で、彼のトレーニングに支障が出ないから。
食事は栄養効率がいい店、移動は無駄に歩かないルート、
会話は決まって筋肉と筋トレの話。
「最近寒くなったな」
そう言えば、
「代謝上げれば平気だぞ」
と返ってくる。
悪気がないのは分かっている。
むしろ、全部真剣だ。
だから俺は、適当に相槌を打って、笑って、話を聞く。
でもそのたびに、
俺の言葉が一度もそのまま受け取られていない気がして、
胸の奥が少しずつ冷えていった。
彼は俺を見ている。
ただし、それは“俺”じゃなくて、
自分の理論に当てはめた何かを見ているみたいだった。
その日も、いつもと同じだった。
だから俺は、決めてしまった。
――少し、疲れちまったんだって。
四季「急に呼び出して悪りぃんだけど、俺ら別れねぇ?」
桃舵「は?」
四季「少し疲れちまってよ。」
桃舵「疲れ?それなら休めばいいだろ。最近、回復足りてなかったし」
四季「……壱郎は,俺のことまだ好き?」
桃舵「?当然だろ?」
四季「そっか。ごめん」
視点:桃舵
四季が店を出ていったあとも、
桃舵はしばらく席を立てずにいた。
さっきまで向かいに座っていたはずの相手が、
急にいなくなったという実感が、
どうしても現実として噛み合わない。
――少し、疲れちまってよ。
その言葉だけが、頭の中で何度も再生される。
疲れ?
何に?
最近、トレーニング量は少し多かったかもしれない。
睡眠も、完璧とは言えなかった。
だったら、休めばいい。
回復すれば、また元に戻る。
そう考えて、
どこかで違和感に引っかかる。
四季は、
そんな理由で別れを切り出すようなやつだったか。
「好きか?」と聞かれたのも、よく分からない。
好きに決まっている。
今さら確認するまでもない。
なのに、
あの時の四季の表情だけが、
どうしても思い出せない。
怒っていたわけじゃない。
泣いてもいなかった。
ただ、何かを諦めたみたいな顔をしていた。
桃舵は、テーブルの上のグラスに視線を落とす。
結露が落ちて、指先が少し冷えた。
――寒いな。
ふと、そう思って、
あの日の会話を思い出す。
「最近寒くなったな」
「代謝上げれば平気だぞ」
あれで、よかったはずだ。
間違ったことは言っていない。
でも、
正しかったはずの言葉ばかりが積み重なって、
今は何ひとつ、四季を引き止めてくれない。
翌日、仕事に向かっても、
集中はまるでできなかった。
身体は動く。
ルーティンも崩れていない。
それなのに、
頭のどこかがずっと引っかかったままだ。
――俺、何かしたか?
四季に聞いた言葉が、
今さらになって、重くのしかかる。
分からない。
分からないままなのが、
こんなにも気持ち悪いなんて、
桃舵は初めて知った。