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「彩花」
彼に名前を呼ばれて、「あっ、はい」と、かつての有事を思い感慨にふけっていた顔を上げた。
「ひとつお願いがあるんだが」
「何ですか?」急にどうしたんだろうと首を捻る。
「この指輪を、君に嵌めてほしいんだ」
彼が拳に握った手を開いて、私にマリッジリングを見せた。
「改めてこのリングを君に嵌めてもらって、結縁をもう一度深め直したい」
彼の想いがじんと伝わるようで、黙って頷き指輪を受け取った。
血管が太く浮き立つ、私よりはだいぶ大きな彼の手を取り、
「大切な絆が、戻ってよかった……」
長くしなやかな左手の薬指に、指輪をスッと差し入れた。
「うん、本当によかった……」
彼が同じように口にして、マリッジリングを嵌めた手で、私の手を強く握り締める。
「彩花、これからも変わらない愛を、この指輪に誓おう」
「私もこの指輪に誓って、貴仁さんへ変わらない愛を……」
互いの指を絡め合い、掻き立てられる思いのままに口づけると、まるで愛情が唇から体中へ沁み渡っていくようだった。
「もう少し、キスをしても?」
寄り添って座るソファーで、彼が私の頬にそっと片手の平を当てがう。
「もう少しなんて、言わないで。もっとたくさん……して」
答える代わりに、彼が「……ん」と、唇を寄せる。
そのしっとりとした温もりが、ゆっくりと体を蕩けさせて、夢見の陶酔に誘うようで──。
──更けていく夜の静けさに包まれて、口の中で砂糖菓子がほろほろとほどけていくような、そんな幸せに満ちた甘やかな時を、彼と二人、いつまでも過ごしていきたいと思わずにはいられなかった。