──指輪の問題が終息して、これからは貴仁さんも心安らいでいられたらと思っていたのだけれど、急に彼の仕事の方が忙しくなってしまった。
KOOGAが新たにモバイルメーカーに参入しオリジナルのスマートフォンを売り出すとのことで、元からデザイン性に定評のあるブランドなため前評判も高く、トップである彼の実務も必然的に増えて、帰宅が深夜にずれ込むことも多くなっていた。
そんな彼の体を案じて、何度か「もうちょっと休んでください」と伝えたりもしたけれど、彼自身は「大丈夫だ」と言うばかりで、一向に改善されることはなかった。
このままでは倒れてしまうんじゃないかとさえ思うと、あのスキャンダルの際に過労で入院を余儀なくされた時のことが、おのずと浮かんだ。
どうしよう、あんなことは二度と起きてほしくはないのに……。
けれど大丈夫だと言われてしまえば、それ以上は何も言えないのが、ただ歯がゆかった……。
同じ家にいても、顔を合わさないような日々が続いて、私自身も気疲れを感じるようにもなっていたある日──
部屋でぼんやりとテレビを見ていた私は、画面に貴仁さんの姿を見つけて、目が吸い寄せられた。
「今日は、モバイルブランドへの新規参入も決まり、躍進の続くクーガの久我 貴仁社長に、いらしてもらっています」
ナレーションを聞き流しながら、(やっぱり素敵……)と、羨望の眼差しで見つめる。
しばらく彼の顔をまともに見ていなかったこともあって、なんだかまるでお付き合いをしていた頃に戻ったような新鮮な気持ちになる。
黒地に白のピンストライプが入ったスーツを着た彼は、本当に格好良くて、初めて父に写真で紹介をされた時じゃないけど、改めて俳優顔負けでと感じてしまった。
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