「奴隷救出作戦を承るとして、なんで僕らなの?そっちの団員に任せるのはダメなの?」
「あんたも知ってるだろうがいまこの街には頼れる冒険者はほとんどいない。例の件で出払ってるからな。」
「そっか……。」
「例の件って何よ!?私も会話に混ぜてよ!」
「それはまた今度話してやる。とにかく今はあんたらが争いの火種になるんだからそれを消化しないと何も始まらない。」
「そうだね。」
「私は蚊帳の外ですか……。」
「本来はうちのギルドが受け持つ予定だったが例の件で人がいなくなったから外部に依頼とさせてもらおう。で、この依頼なんだが簡単に説明すれば今、奴隷界隈で金が大きく動いてる種族の救出だ。やり方は任せるができれば荒行時にはしないでほしい。解決の過程で争いが生まれる程度なら仕方ないが……。」
「その高く買い取られてる種族って言うのはエルフか?」
「……ご明察どおりだよ。」
「わかった。それで?これを依頼したってことは奴隷になってるエルフたちは住む場所もないんだね?」
「そこまで察しがついてるのか。」
「それじゃあエルフたちの処遇に関しては僕が受け持つね。そういう契約で依頼を出してくれるかな?」
「もちろんそのつもりだ。それじゃあ基本的な情報を……。」
「大丈夫です。ファストリア内部の情報はある程度把握してますから、根本をすぐに潰してきます。必要最低限の争いで済ませます。」
「くれぐれも慎重にな?」
「安心して下さい。『疫病神』と言われちゃうくらいには慎重なんで僕……。」
「私だけ蚊帳の外でなんか納得いかないんですけど?」
「ごめんね?でも、この問題は僕が解決したいんだ。」
「エルフって確か美人さんが多いって話だけど……まさか?」
「違う違う!昔エルフの方々にお世話になってるから恩を返したいんだ。」
「……昔っていつ頃よ?」
「えーと……。たぶん十何年だと思う……。」
「……。アズキさんいくつなの?」
「長く生きててわかんないよ。前話したドラゴンから『お返し』貰ったからさ。」
「不老不死なのかアズキさんは?」
「ご想像にお任せしますよ。」
そう話しながら二人は町の外にと歩き出した。その後を追うように一人の人物もまた町の外に歩いていく。
ファストリアの外は広い平原が広がっておりそこに湧く魔物たちはアイアンからブロンズまでもがお世話になるスライムやゴブリン、獣タイプの魔物ウルフンにキャットリアという比較的かわいらしい魔物が多く存在している。私も最初の三日くらいはここで経験を積ませてもらったけど、苦戦という二文字はまぁなかった。
そんな私からすれば平和なこの草原をアズキを先頭にして歩いていく。一体彼がどこの向かおうとしているのか私は一切理解できない。一応少し進めば森があるからその奥地とかにエルフの里がありますと言われれば納得はするんだけど、残念ながら向かう先は森でもなく町でもなく、その辺にあるそこそこ大きな岩がいくつも転がってる変な場所までやってきていた。
「なにここ?」
「見てもらった通り岩しかない場所だよ。」
「こんなところに何の用があるんです?さっさとエルフさんを助けるんじゃ……。」
「うん。もちろん助けに行くよ?助けに行くからここに来たんだ」
「余計わけわかんねぇ……。」
「それじゃあ答え合わせをしよう。」
そう告げた瞬間アズキが触れた岩に亀裂が入り青白く光る。発光が終わるとそこには地下にと続く階段が現れていた。
「はっ?なにこれ?」
「隠蔽魔法というもので近くのものを対象として同じ形を作り出し、入り口を隠すそういう魔法だよ。今回は岩まみれの場所でこの魔法を使ったから岩に扮してたんだ。けど、隠し方が甘くてねこれを作ったときに出た魔力の痕跡が残ってたからあっさり見つかったしこれを作った人物も特定できたんだ。」
「……アズキさん本当にダイヤモンドという称号持ってる人なんですね。」
「これくらいならゴールドの人でもできるよ?少なくとも隠蔽魔法を使ってることくらいはわかると思うんだけど……。」
「……言いにくいんですけど、私魔法一切使えないですよ?何なら『スキル』っていう存在すら私知らいないですからね?」
「え?じゃあどうやってミスリルに慣れたの?」
「いや、普通にこの剣と弓を基本とした肉弾戦ですけど?」
「……なるほど。それは最速でミスリルの称号とれるし天才と自負できるね。」
「???」
「まぁ、その辺の話は今度しようか。今は奴隷商人を懲らしめないとだから……。ね?僕の後を追いかけてきてる魔法使いさん?」
「ふぇ?」
その発言の後二人の後ろの大きな岩の陰からおどおどしてる人物が現れる。
「ば、バレてたんですか……。」
「ごめんね。僕慎重に事を進めるタイプだから常に周りに気を張ってて……。」
「……見つかった僕は、これからどうなるんですか?」
「どう動くかで決まるかな?」
「……分かりました。それじゃあ僕自首します。」
「随分と聞き分けがいいぞコイツ。逆に怪しく見えるレベルで。」
「……どうして抵抗しようという考えを持たないんだ?」
「だって、僕の隠蔽魔法を簡単に見破るんですもん。その時点で勝ち目はないです。」
「隣にいる彼女は一切分かってないから彼女なら行けたかもね?」
「おい、突然私を馬鹿にしたな?」
「けどもそうだね。おとなしくしてくれるなら僕も無駄な争いをしなくて済むよ。」
「そうですね。僕はおとなしくしておきます。もし後ろから刺されるのが怖いなら縛ってくれてもいいですよ?」
「それじゃあ私は怖いので遠慮なく。」
捕縛用に持ってきたいくつかのロープのうち一つを彼に使いぐるぐる巻きにしてそのまま連行する。
「中の構造はどうなってるのか聞いてもいいかな?」
「さすがにそれは答えられないかな僕も……。ていうか知らないが正しいかもしれない。」
「はぁ!?だってあんたこの入り口隠してんじゃ……。」
「隠してたよ?でもそれだけ。金で雇われただけのいわゆる僕は使い捨てのコマなんだよね。」
「それじゃあ完全初見って訳か…。」
「ちなみに聞きたいんだが、お前雇い主が何してたか知ってるのか?」
「人攫いっていうのは知ってる。裏の世界で有名な奴隷商人だからね。でも、取り扱ってる『商品』については僕は知らないよ。」
「…そう。」
「それじゃあ中に入るよ。」